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みんなでつくる働く場 ゆうとおん レポート

“いろんな人がやって来て、ホッとできる場所”みんなでつくる働く場 ゆうとおん レポート

近鉄大阪線「久宝寺口」駅を降りて、10分ばかり歩くと閑静な住宅街が現れます。その家々の間に、溶け込むように建っているのが、「ゆうとおんうぇーぶ」。社会福祉法人「ゆうとおん」の就労移行支援と就労継続支援B型(※)の活動を担う施設です。「ゆうとおん」は大阪府八尾市において、生活介護を行う「ゆうとおんはーと」や喫茶店業務を主体に就労継続支援B型を行う「スタコラハウス」、移動支援で居宅介護をする「ぼちぼちいこか」を運営しています。その中で、「ゆうとおんうぇーぶ」は、さをり織り、紙すき、クッキー・パン製造、などを実施して、障がいのある人たちに働く場を提供しています。今回は、「ゆうとおんうぇーぶ」を訪問して、「ゆうとおん」の実際の活動の様子や職員の方々の生の声を伺ってきました。

※「就労継続支援B型」についてはこちらをご覧ください。
言葉の豆知識-就労継続支援事業所-

緑の壁がさわやかなイメージを与えてくれる外観

もともとは共同購入会からはじまった「ゆうとおん」。

「北海道の低温殺菌で作られた牛乳や無農薬野菜の共同購入をしていた消費者グループが基盤だったんですよ」と設立の経緯を教えてくださったのは、ゆうとおんの創立からの職員である土橋恵子さん。現在は施設長を務められています。
「知り合いに車いすの方がいて、一緒に働くことになったのが最初のきっかけでした。そのための場所探しを始めたら、グループの専従職員に、障がい児の保育所入所運動に関わっていた方がいたこともあって、私たちもいっしょにという声があがり、障がいのある人も、ない人も共に働く場として“みんなでつくる働く場 ゆうとおん”がスタートしました」と土橋さん。「今では、メンバーが約60名、職員数約22名ですが、ゆうとおんを無認可作業所として立ち上げた1996年には、メンバーは約10名でした」と懐かしそうに語られます。
ゆうとおんは、ひらがな表記ですが、実は英語で、「You Tone」なのだそうです。あなたの音色、あなたの調子。これは、ゆうとおんの理念を象徴する名前となっています。

ゆうとおんの成長を見守って来られた土橋恵子施設長

作業の中で自分の役割、特技を見つけてほしい。

ゆうとおんでは、創立以来続いているクッキー製造やさをり織り、紙すき、豆腐づくり、パン製造など、多様な仕事が用意されています。仕事の種類が増えると、職員もたくさん必要になりますし、作業に必要なスペースも確保しなければならなくなり、人材やコストの面で運営が厳しくなるものです。それでも、あえて多様な仕事を用意しているのには理由があります。「作業を通じて、メンバー一人ひとりに自分の役割を見つけ、自分の特技を見つけてほしい」という思いの結果なのです。仕事の種類が多いほど、関われる作業が増えます。そのたくさんの作業の中から、自分の得意なものを見つけられれば、より広範囲に自分の可能性を確かめられるということです。多くの作業工程を決められた時間の中でこなしていくクッキー・パン製造や紙すき。その一方で、比較的自分のペースで進められるさをり織り。このような多彩な作業から自分に合ったものを選び、楽しみながら責任を持って作業していく。それは、つまり「自分の音色、自分の調子」を見つけることだと言えるでしょう。「仕事を楽しんでもらうことで、人とのつながりを実感してほしい。できあがった商品が売れることで、社会とのつながりを意識してほしい」と話す土橋さんの思いは、ゆうとおんという名前に凝縮されているのです。

「ゆうとおん」という枠に閉じこもらない活動を

多様な仕事を用意している、もうひとつの理由は、いろんな人に出会いたいから。「普通、作業所に用事のない人は来ません。いろんな人に来てほしいから、さまざまな仕事を用意しているのです」と土橋さん。同じ理由で、地域イベントへの参加依頼が舞い込むと、ほぼ必ず出展するそうです。八尾や東大阪の市民まつり、東大阪国際交流フェスティバル……。休みの日が多いのでメンバーには自由参加ということにしているそうですが、たくさんのメンバーが手伝いに来てくれるそうです。メンバーもこういう場で物販をすることで、人との交流や社会とのつながりを体験することができます。そこで「あなたが作ったの。すごいね」とか「これ、いいね!」とか、声かけしてもらえることで、自信がついたり、仕事へのモチベーションが高まったりするのです。
また、皆の日常の仕事として、企業を訪問して販売する機会も多いのですが、施設以外のいろいろな人と交わることで、新しい発見や気づきがたくさんあります。
「ゆうとおんという枠に縛られることなく、ゆうとおんとその外側にいる人たちとの関わりの中で動いていきたい」と語る土橋さん。隔週の水曜日に実施されている「ゆうとおんバンド」の活動も外側に発信する行動の一環。メンバー一人ひとりが自分の方法で音楽に乗せ「自分らしさ」を表現するオリジナリティあふれる音楽グループとして、様々な音楽イベントなどにも出演しています。
2012年「轟音ライブ4」のステージでのゆうとおんバンド

「褒め育て」で、花開いた「さをり織りの才」。

さをり織りの指導担当の村上昌子さん。新開発の保冷剤を入れられるストールを巻いて。それでは、ゆうとおんのそれぞれの仕事を担当されている方の現場の声を伺おうと思います。まずは、さをり織り部門を担当して3年目になる村上昌子さん。彼女の指導のポイントは、「褒め育て」。彼女は、「この模様、うまく織れたね」とか「この糸とてもきれいね」とか、メンバーに声をかけて、些細なことでも丁寧に褒めます。褒められれば人は成長するものです。また、彼女は、さをり織りを指導するのはもちろん、さをり織りを“売れる商品”に仕立てる名プロデューサーでもあります。
さをり織りを実施している施設はたくさんあります。しかし、売れるさをり織りを作っているところはなかなか存在しません。過当競争気味ということもありますが、さをり織りは、糸が高くて原価が抑えにくいという特徴があります。反物で売れればいいのですが、服やバッグに仕立てた完成品でないと売れない傾向にもあります。このような状況の下、村上さんのアイデアが光りました。
1,000円・1,500円・2,000円辺りの商品の開発に力を注いだのです。しかもギフトに使えるようなものを中心にしました。メガネケースや小物入れなどの雑貨がメインです。食品は賞味期限にとらわれますが、手づくりでほっこりしているさをり製品は、差し上げたひととき話がはずむと喜ばれ、ちょっとした手土産に、何個か買い置きして下さる方が増え、リピートされるお客様がじわりじわりと増えているようです。「結局は、売れそうな仕様と売れる価格をどうバランスさせて値段を決めるかがポイントなんですね」と村上さん。「とにかく原価をいかに抑えるかが、ひとつの課題ですね」とも。バッグや服にしても、いくらにするか、で売れ方が変わるそうです。「バッグの持ち手ひとつにしても、少し見栄えのいいものを選んでしまうと1,000円くらいすぐに上積みになってしまう。その価格でお客様が買ってくれるかどうか……その見極めはなかなかシビアにしないといけません」と村上さん。「売る場所によっても変ります。行政などが主催のバザーで売るのと、商業施設に出店するのでは、売れる価格帯が変わってきます。商業施設では高いものでも売れることが多いんです」とも。
(左)集中力が必要なきめ細かなさをり織りの作業 (右)試作中のさをり織りとレザーのバッグ
納品の際は、必ず実際に作ったメンバーと一緒に行くそうです。「買っていただいたお客様から“ありがとう”とか“いいね”などの声をかけてもらうことで、本人は自信がつくし、売れたということを実感することで喜びを得られるんです。これが、次の仕事への意欲を高めてくれるんですよ」と村上さん。
糸の色選びは、基本的には本人の意思に任せているそうですが、ここぞというポイントでは、糸の色を変えよう、などの指示を出すことも。「やはり最終的には買っていただけるものを作りたいですから、売れるものに仕上げるディレクションはする」そうです。
さをり織りは、個人作業のイメージがありますが、実は縦糸の仕込みなど、役割分担してこなしていく工程もあるそうです。「彼らは、それらの工程を分担し、フォローし合っています。助け合いの精神を持って作業しているんですよ」と。続けて、「量ができないのが辛いところですが、これからも販路が広がるような活動を続けていきたい」と村上さんは強い意志を持って語ってくださいました。

それぞれの特技を活かして役割分担する紙すき。

次に訪れたのは、紙すきの工房です。ここでは7人のメンバーが、職人のごとく、てきぱきとスムーズに作業をこなしていました。その作業の様子を見ながら、担当職員の須田麻奈美さんにお話を伺いました。
紙すきにはいくつかの工程があり、メンバーがそれぞれの工程を担当しています。素材となる紙をちぎる役、紙をすく役、すいた紙を取り出す役、取り出した紙を乾かす役……。その一貫した作業の流れを見ていると、まさに“共同作業”と呼ぶにふさわしい雰囲気が感じられました。
「今は、名刺用紙を製作しているのですが、彼らは自分の役割をよく理解して仕事をしています。だから、こんなにもスムーズに作業できるのです。私は、ただただ見守っているだけです。私がここに来てから2年になりますが、そのときよりみんなずっと成長していますね」とやさしく微笑む須田さん。
各自の役割分担でスムーズに進む名刺製作作業
「絵を描くのが好きで、雑貨にも興味がありました。ここでは趣味にもつながる仕事のできる場にいられるという点でとても幸運です」とのこと。メンバーの書いた絵を選んで、時にはアレンジして商品化することがとても楽しいのだそうです。昨年の暮れには、絵を描きたいけれど自信がなくて描けない、というメンバーと交流するうちに絵が描けるようになり、その作品を商品化したら、ますます自信がついて、どんどん積極的に描けるようになった、ということを経験されたそうです。そんなことも須田さんのやりがいにつながっているようです。
製作しているグッズは、絵ハガキ、レターセット、ブックカバーなど。「これまでは、お客様の層を意識して、和風で年齢層の高い方向きのものを作っていましたが、これからは洋風で少しポップなものを増やしていこうと考えています」。それは、学校のバザーだけでなく、商業施設への出店の機会が増えてきたという背景もあるようです。「できれば若い人にも買ってほしいですものね」と須田さん。また、最近は、オリジナル名刺にも力を入れています。売りのひとつだった無漂白の茶色系の紙に加えて、かわいいピンクや黄色など8色をそろえて展開しています。「大きな印刷屋さんではできないようなきめ細かなサービスでお客様のニーズに応えていきたい」という彼女の言葉には、強い意欲が感じられました。
(左)素朴な茶色からポップなカラーまで8色そろったすき紙名刺 (右)オリジナルイラストを活かしたレターセットや絵ハガキ
この工房には、紙すきの本作業が体力的にできない人も参加しています。その人たちは、絵を描いたり、紙をちぎったりすることでここに居ることができます。人には居場所が必要です。どんな人にも何らかの“できること”があるはず。「この工房をはじめ、ゆうとおんが、居場所のひとつであれば良いと思っています」と須田さん。紙をすくのがうまい人はすく役に、絵を描くのが得意な人は絵を描く役に……。人はそれぞれ持ち分があります。それを大切にしているのが、ゆうとおんなのです。

素材の良さを売りにして大躍進するクッキー・パン。

最後にお伺いしたのは、クッキー・パンの工房です。ふたつの部門が一カ所に集約されているので、作業時にはおよそ20人もの人が工房で動きます。その熱気や迫力は圧倒的。工房と呼ぶにふさわしい雰囲気に包まれています。特にクッキー部門は、ゆうとおん創立時からずっと続けられているシンボル的な存在です。その特長は、国産の天然素材・有機栽培素材にとことんこだわっていること。例えば、北海道産の薄力粉やバター、鹿児島県種子島産の粗糖、兵庫県赤穂産の天塩、和歌山県有田産の自然卵、さまざまな有機栽培で育てられた野菜・穀物など、確かな素材を使っています。
クッキー製造を担当している田中加代さんは、「ゆうとおんの知的障がい者のガイドヘルパー研修を受け、移動支援の仕事を始めたのがきっかけです。6年前からクッキー担当になったのですが、要領がよくわからず、最初は見よう見まねの状態でした。3年前に施設が今の場所に移転したんですが、そのときはオーブンがすべて新しくなったので、焼きの温度や時間の設定をすべて変更しなければならず、引っ越し前に、他の職員と必死になって設定変更したのが辛かったけど、今や懐かしい思い出ですね」と振り返ります。週に2~3度、行政機関や大手企業などへ出掛けて販売をするそうです。毎月の出荷量を計算して製造しているのですが、ときには焼いても焼いても追いつかないこともあるとか。素材が自慢のクッキーには、うれしい悲鳴が上がることもあるようです。
(左)熱気とともに和気あいあいの雰囲気もあるクッキー製造 (右)おいしそうに焼きあがったイギリスパン
一方、パン部門は3年前に立ち上げられた新しい部門です。担当しているのは、ゆうとおんに来て4年目の松尾卓也さん。「もとは洋服の卸をしていたんです。あるきっかけでここを知って、“パンを焼きに来ないか”と誘われて、見学に来て興味を持ち、仕事をすることに決めました」と松尾さん。「ここに来たら、パンづくりを教えてもらえるものと思っていたのですが、ほとんど独学でした。知り合いのパン屋さんからも“まずは作ってみなさい”とアドバイスされ、“作ることが修行だ”と思って、ここまで来ました」と。
ゆうとおんに来て、人生観が変わったという松尾さん。ときにはメンバーと真剣にけんかすることも。「けんかしても、めざしているところは“おいしいパンを作ろう”というところで、一緒なんですね。だから、仲直りできる」。メンバーと同じ高さに立っているからこそできるけんかなのでしょう。そこには、温かな仲間意識が感じられました。
「ぼくは“ええかっこしい”なので、やると言ったら、やるしかありません」と語る松尾さんには新たなプレッシャーが。それは、2013年の春にゆうとおんはーとが新たな施設を建設してリニューアルスタートするのにともない、パン工房がそこに移るというのです。新しい窯がつくられ、生産量を増やすことができます。つまり、もっと売れる体制になるということです。松尾さんは、必ずや持ち前の“ええかっこしい”スピリットを活かして、このプレッシャーをゆうゆうと乗り越えられることでしょう。
クッキー担当の田中加代さん(左)とパン担当の松尾卓也さん(右)

一人ひとりの能力を活かしながら、さらなる販路拡大を

再び、施設長の土橋さんにお伺いしたいと思います。ゆうとおんの理念の中に「いろんな人がいてこそ社会/いろんな人が生かしあえる関係/だれもが共にゆったり/生きてゆける社会をめざして/障がいのある人お年寄り/子供だれにでも/開かれた場作りをしてゆきたい/仕事のために人がいるというよりも/人のために仕事があるということを/忘れずにゆきたい…」とあります。この理念をさらに具現化するために、ゆうとおんは、2013年4月にゆうとおんはーとの場所を移して、新しくオープンする予定だそうです。一人ひとりの持ち味を活かして、それぞれに対応できる場づくりや仕事づくりができるように、という思いを込めた新しいゆうとおんはーとです。そして、もっと販路を広げ売上を増やし、メンバーの工賃を増やしていきたいと考えています。「事業の中身に縛られることなく、やるべきこと、やれることを、確実に実践していく。この流れをつくらないと、どんなに理想的な場所でも、それを維持していくことは難しいでしょう」と語る土橋さん。何かと厳しさを増すこの社会を確かな灯で照らし、みんなでつくる働く場として機能するゆうとおんは、これからますます独自の音色=とおんを響かせてくれることでしょう。
力強く未来の構想を語る土橋施設長

-編集後記-

取材を進めるうちに、どんどん大らかな気持ちに包まれていきました。それは、きっと、ゆうとおんのスペースに漂う空気のおかげだと思います。理念の中にもあるように「活気があるけれど ゆったりしていて/真剣だけれど かたくるしくなく/とりあえずそこにいれば/心と体がホッとする/どこにでもありそうで/どこを探してもなかなかみつからない/そんな《しごとば》をつくりたい」という思いがそれぞれの空間にいっぱい詰まっているからでしょうか。とにかく、生きることに勇気を与えてくれる……そんな、話を伺っている側が元気をもらえるような素敵な取材でした。ぜひ、機会を見つけて、ゆうとおんの商品に触れてみてください。きっと、やさしい思いがメッセージとなって伝わってくるはずです。ありがとうございました。
-プロフィール-
社会福祉法人ゆうとおん

ゆうとおんうぇーぶ
〒581-0817 大阪府八尾市久宝園2-30-4
TEL:072-926-1543 FAX:072-921-8883
E-Mail : youtone@live.jp
本部・ゆうとおんはーと
〒581-0834 大阪府八尾市萱振町2-133
TEL:072-993-0785 FAX:072-993-0784
E-Mail : youtone@live.jp
社会福祉法人ゆうとおんホームページ
http://www.eonet.ne.jp/~youtone/index.html
沿革
1996年4月 無認可作業所ゆうとおん設立
2006年4月 社会福祉法人取得 小規模授産施設ゆうとおん開設
2008年3月 障害福祉サービス指定事業者指定 就労移行支援・就労継続支援事業へ移行
2008年9月 ゆうとおんうぇーぶ開所 就労移行支援・継続支援事業スタート
2009年5月 ゆうとおんはーと開所 生活介護事業スタート
2011年9月 ぼちぼちいこか開所 居宅介護事業スタート
2011年10月 スタコラハウス開所 就労継続支援事業スタート
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