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“あとりえすずかけ”の職員 犬島佐智子さん 三栖香織さん インタビュー

“いっしょに、表現する楽しみを見つけていきたい”“あとりえすずかけ”の職員 犬島佐智子さん、三栖香織さんインタビュー

<あとりえすずかけ 犬島佐智子さん(左)、三栖香織さん(右)>
今回は、兵庫県西宮市の社会福祉法人一羊会が運営する武庫川すずかけ作業所(生活介護 就労継続支援事業所B型※言葉の豆知識参照)内で、障がいのある人たちが、自らの感じるままに、自由に作品として表現できる機会を提供する場、“あとりえすずかけ”で職員として活躍する犬島さんと三栖さんのおふたりにお話を聞きました。

おふたりの笑顔で、あとりえはいつも和やかな雰囲気に。

メンバーさんのことを第一に考える。

のびやかで楽しい、「あとりえすずかけ」の作品。

編集部:「あとりえすずかけ」の活動を具体的に教えていただけますか。
犬島:「あとりえすずかけ」では、メンバーさんが制作した作品をポストカードやTシャツ、手ぬぐいなどに商品化しています。その根底にあるのは「得意にしていることを仕事にしていこう」という考え方です。大好きな絵を描くことが仕事になる……それは、きっと、やりがいを生みだすことになるはずです。それを「あとりえすずかけ」で実践していきたいと考えているのです。現在は22名のメンバーさんが月・水・金のうちいずれかの日に半日~1日参加して制作活動をしています。
三栖:「あとりえすずかけ」は2001年に発足したのですが、最初はポストカードづくりから始まりました。それが、様々な雑貨屋さんとの交流を通じて、手ぬぐい、Tシャツなど、どんどんアイテムが広がっていったんです。そんな中で、私たちはいつも「メンバーさんの得意分野を活かすこと」を第一に考えてきました。メンバーさんには、キャラクターづくりが得意な人もいれば、同じモチーフを高精度に繰り返して描ける人もいます。そんな得意分野を活かせるように努めています。

編集部:「あとりえすずかけ」の特長って、なんでしょうか?
犬島:最近、アートを仕事にしている作業所が増えてきています。中には、作品づくりに特化している作業所もあるようですが、私たちは、作品づくりだけに特化することはありません。よく「もっと作品づくりに集中したら、さらにクオリティーを高めることができるんじゃないですか」といわれます。でも、私たちは普段の仕事と作品づくりとのバランスを大切にしたいと考えています。
編集部:作品づくり以外にも仕事があるんですね。
三栖:作業所では、メンバーさんは普段、クッキーづくりや紙すき、ふきんづくり、公園の掃除などの仕事をしています。その中で、絵を描くのが好きなメンバーさんが週に一回、あとりえに参加して作品づくりをしています。私たちは、この普段の仕事と作品づくりとプライベートのそれぞれの時間を通して、良い一日が過ごせたな、と感じてほしいと考えているのです。
犬島:メンバーさんの中には、世界的にも有名な方がいらっしゃいます。彼は、ふきんづくりの担当なのですが、その仕事がとても好きなようで、家に帰ってからも練習するくらい情熱を注いでいるようです。彼の描く絵は、国際的に高い評価を受けていますが、彼自身は、絵画制作のみに専念することは望んでいないように思えます。絵を描くこととふきんづくりの両方があって、彼の生活は充実しているのでしょう。そんな多様性のある暮らし、それを維持するバランス感覚を大切にしたいな、と思うのです。

メンバーさん一人ひとりが思い思いに創作に励みます。

編集部:「あとりえすずかけ」が発足した源流には「すずかけ絵画クラブ」があると聞いていますが。
三栖:「すずかけ絵画クラブ」は、ボーダレス・アートミュージアム NO-MAのディレクターを務める、絵本作家の“はたよしこ”さんが、1991年にボランティアとしてスタートさせました。1993年には、芸術活動を通じて感動を共有することを目的に「アートスペースひとの森」を発足。以来、20年近くにわたって、つねに意欲的な創作活動に取り組んできました。
犬島:この活動を源流にして、2001年にメンバーさんを作家やデザイナーとして捉え、メンバーさんとスタッフが互いに得意なことを活かして作品を商品化していこうと発足したのが「あとりえすずかけ」なのです。最初のころは、はたよしこさんが担当されていましたが、現在は私たちスタッフで担当しています。

評価されると嬉しい人も。

編集部:メンバーさんたちは作品が商品になることについてどのようにお考えなんでしょうか?
犬島:意識は高い人もいます。というのも、商品を取り扱ってくださっているお店に、メンバーさんたちといっしょに出かけることがあるのですが、そのとき、彼らはお客さんと会って話したり、褒められたりします。これらのコミュニケーションを通して、自分が絵を描いた手ぬぐいなどを買ってくれた、とわかるとさらに「また描こう」というモチベーションを抱かれる人もいるようです。中には、若い女性と仲良くなれるのが楽しみというメンバーさんもいるんですけどね(笑)。いずれにしても、お客さんとの交流は、よい相乗効果を生みだしています。
三栖:商品を作っていると、時には個別のオーダーがあったりして、お客さんの好みに合わせたり、お店の意向に沿ったりしなければなりません。その際に、「良い商品を作ろう」というモチベーションがあると、やはり高く評価してもらえる商品を作ることができます。メンバーさんにとって、この評価が次の商品づくりのモチベーションづくりに欠かせないのです。「この間作ったTシャツ、すぐに売れたらしいよ」なんて伝えると大喜びして、次の商品に嬉々として取り組まれる方もいます。

編集部:注文があったときに何か気をつけていることってありますか。
犬島:制作中に“お願い”をすることもあります。もう少し描き足りないときには、「少し足してみませんか」とか、描き過ぎになりそうなときは、「そろそろやめませんか」とお願いします。あくまで“お願い”ですが……。

編集部:雑貨店などからの評判もいいと伺っていますが。
三栖:そうですね。手づくり感というのか、ぬくもりというのか……大量生産品にはないものを感じると、喜んでもらっています。
犬島:一見したら同じようなポストカードでも、手づくりだから一点一点違うんです。だから、お客さんも一つひとつじっくり吟味しながら選ばれます。その選んでいる時間が楽しいとおっしゃいます。

編集部:作っているメンバーさんは、お客さんの笑顔を見てうれしくなり、そのうれしさから生み出された作品がお客さんの笑顔を作り……そんな笑顔の連鎖が生まれているのですね。「あとりえすずかけ」の仕事をしていてうれしかったことはありますか。
犬島:あるメンバーさんは、何か指示をされない限り、じっと座ったままずっと描いている人でした。そんな人が、「あとりえすずかけ」に通ううちに、参考にする本を選んだり、画材を吟味したり、自主的に行動することがでてきました。また、絵を描き終えるとそれを伝えてきてくれたり、したくないということを表現したり、部分的にでも一方通行でなく、コミュニケーションができるようになってきたことが嬉しく感じました。
三栖:これは笑い話なんですけど、メンバーさんが自主的に動くきっかけになったのは、私たちが多忙になったからだ、という説があるんです。最初のころの制作物はポストカードが中心だったので、画材は絵具くらいで準備にも手間がかかりませんでした。でも、手ぬぐいなど布系の制作物なども作るようになって、染料など準備に手間がかかる画材が増えてきました。その結果、私たちが忙しくなってメンバーさんに任せなければならないことが多くなって……。それで、自主的な動きが生まれた、なんていう説があったりするんですよ(笑)。いずれにしても、コミュニケーションを密にして、決めつけをなくしていくことが大切なようですね。

熱心に制作する「あとりえすずかけ」のメンバーさんを見守るふたり。

不思議な縁で同じ職場へ。

編集部:おふたりは福祉系の勉強をされて、こちらに来られたのですか。
三栖:実は私たちふたりとも美術系の出身なんです。私は、「あとりえすずかけ」に来て1年になるんですが、それまで大学の研究室で助手を務めていました。「あとりえすずかけ」とは、助手時代にボーダレス・アートのプロジェクト授業でお世話になっていたので、関わりがあったんです。
犬島:三栖さんの前任の人が辞められるので、「ぜひ、来てください」とスカウトしたんですよ。「あとりえすずかけ」のことを理解してくれている一人だったもので。三栖さんはテキスタイルや染色を専攻されていたので、それらの経験が制作活動に役だっているんですよ。かくいう私は今年で4年目になります。「あとりえすずかけ」の存在は入る前から知っていました。前の職場の上司が、「あとりえすずかけ」の活動に関わっていたので、欠員が出たことを知って、大推薦してくれたんです。“人と関わることで生まれる何か”にとても興味があって、子ども対象のアートのワークショップを開催したり、幼稚園で造形教室を開いたりしていました。何か新しいことを始めたい、と思っていたところに「あとりえすずかけ」の求人があったので、迷わず飛び込んだんです。

作品の仕上がりをみるふたり。

あとりえ活動をもっとたくさんの人に知ってほしい。

あとりえすずかけの今後について楽しく語り合う犬島さんと三栖さん。

編集部:おふたりのこれからの抱負を聞かせていただけませんか。
犬島:あとりえ活動のイメージアップをしたいと考えています。以前ほどではありませんが、まだまだあとりえ活動は余暇的な印象を持たれていると感じることがあります。クッキーを焼いたり、紙すきをしたりしていると働いているように思われ、絵を描いていると遊んでいるように思われがちです。メンバーさんの親御さんもアトリエ活動に参加していると“うちの子は遊んでいる……”と遠慮されることがあります。でも、ほんとうは、どちらも同じ仕事です。楽しんで表現したことが商品になって売れれば、それも仕事になります。それを伝えるためにもアトリエ活動をしっかり育てていきたいと思っています。
三栖:あとは、展覧会をもっと積極的に開きたいですね。いろんなところからのお声がけでも展覧会を開催していますが、私たちが自ら企画した展覧会をもっと開いてメンバーさんの作品を地域社会に発信したいと思います。作品をもっとたくさんの人たちに見ていただくことで、ご本人さんたちのことやあとりえ活動のことを多くの人に知ってもらいたいのです。
編集部:今回はありがとうございました。これからも明るく元気にあとりえ活動に取り組んでください。

-編集後記-

前職で幼稚園での造形教室や子ども対象のアートに関するワークショップをしていた犬島さん。三栖さんは大学の研究室でボーダレス・アートに関わって来られました。そんな経験が大いにあとりえ活動に活かされています。
おふたりとも「縁があって、ここにいる」とおっしゃいます。自分の力だけではなく、いろんな人たちの支えがあって、この場にいるのだと。そして、ここに居られることを感謝したいとも。
そんな感謝の気持ちがベースにあるからこそ、メンバーさんたちとの深い信頼関係が築けているのではないかと思います。そして、ともに学び、ともに成長していきたいという姿勢が、いまの「あとりえすずかけ」のスタンスを生みだしているように感じました。
何ごとも始めるのはたやすく、続けていくことが至難だといいます。おふたりには、これからも明るく元気にあとりえ活動を続けていっていただきたい、と思っています。ありがとうございました。
-プロフィール-
犬島佐智子 犬島佐智子(いぬじま さちこ)
「あとりえすずかけ」スタッフ。
三栖香織 三栖香織(みす かおり)
「あとりえすずかけ」スタッフ。
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