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【ICTレポート】第34回 豊橋技術科学大学 人間・ロボット共生リサーチセンター「弱いロボット」

人とロボットが共に暮らす社会をめざして
人が本来持つ力を引き出す“不完全なロボット”とともに
豊かなコミュニケーションの在り方を探る

こんにちは。ドリームアーク編集部です。
今、AIが盛り上がっていますね。街角はもちろん、一般家庭の中でも、様々なロボットが活躍する時代がやって来たのです。家事を手伝ってくれるお掃除ロボット、会話が楽しめるコミュニケーションロボットなど、ついこの前までは映画やマンガの世界にしかいなかったロボットたちが、私たちの実生活の中に存在するようになるのです。人間とロボットが共生する社会が現実になろうとしています。
福祉の世界も同様です。利用者と介助者の負担を軽減してくれる様々なロボットが研究・開発され、実際の現場に投入されています。これまでも「ドリームアーク」では、NTTデータの「エルミーゴ™」、長崎大学の「ソーシャルメディア仲介ロボット」、大阪工業大学の「Finch(フィンチ)」、TOYOTAの「HSR」ほか、いろいろな事例を紹介してきました。

今回ご紹介する豊橋技術科学大学 人間・ロボット共生リサーチセンターは、2010年の発足以来、人とロボットが共に暮らし、豊かな世界を享受できる社会をめざして、「ロボットユニバーシティ構想に基づいた、人に優しい次世代・共生型ロボットの開発」を行っているセンターです。
このたびは、豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 教授 人間・ロボット共生リサーチセンター センター長の岡田美智男教授にインタビューさせていただき、超高齢社会における人とロボットの関わりについて、また、岡田教授が開発されている、従来のロボットに対する一般的なイメージを覆す「弱いロボット」についてなど、様々なお話を伺いました。
まずは、人間・ロボット共生リサーチセンターとは、どのような施設なのかをお伝えします。

「モノづくりマインド」から生まれた人間・ロボット共生リサーチセンター
次世代スマート介護ロボット・システムの研究でも成果を

「豊橋技術科学大学は、高等専門学校でロボコンやプロコン(プログラミングコンテスト)などを経験した「モノづくりマインド」にあふれる学生が数多く集まる大学で、また、機械工学、電気・電子情報工学、情報・知能工学、建築・都市システム学などの広範な分野で、ロボット関連技術の研究開発に携わる教員を数多く擁しています。
こうした背景から、人間・ロボット共生リサーチセンターは、2010年4月に発足しました。以来、これらロボット関連分野での最先端の研究成果を活用しつつ、国や地方の公共団体、医療機関、国内の企業などとの連携を図りながら、人と共生するロボットやロボットに関連した技術の発展的実用化を進め、学術、教育などの分野ならびに、地域産業への貢献をめざしています」

人間・ロボット共生リサーチセンターのセンター長を務める岡田教授
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センター発足の背景のひとつに、「超高齢化社会の到来」がありました。それに際して、「心身共に健やかな、生きがいを創生できる社会を構築するための基盤システムの開発」ならびに、「医学・生理学的知見とロボット技術の融合、高齢者に優しいロボット対話技術の開発」がめざされ、2012年度から2016年度には、文部科学省概算要求特別経費として「豊かな超高齢化社会のための次世代スマート介護ロボット・システムの研究」というプロジェクトが推進され、様々な研究成果が得られたそうです。

「全方向型駆動機構を用いることで、あらゆる方向へ移動が可能な車いす、低重心型のため車体が安定し、高い安全性を有した平行2輪ビークル、足に障がいがある人の歩行訓練をサポートするロボット、通院が困難な人のため、遠隔地間での上肢関節可動域訓練を提供する特定筋肉リハビリロボット、VRによる介護訓練システム、パワーアシスト(※1)を用いた、ベッドから車いすなどへの移乗介助をサポートする機器、案内ロボットなどを研究開発してきました。
福島県立医科大学との共同開発である、病院内回診支援ロボット「Terapio(テラピオ)」は、産学連携プロジェクトで開発し、医療器具の運搬・患者情報の記録などの業務を担うロボットとして、医療機関やマスコミでの注目を浴びました。その後継機として、要介護者の日常的な運動や歩行訓練などのリハビリテーションを支援するロボット「Lucia(ルチア)」などがあります」

※1:パワーアシスト・・・主に電気モーターなどの補助動力を用いて、操作者の弱い力で重いものを移動させるための技術。

全方向移動車いす(左手前)はじめ、これまでにセンターで開発された成果物の一部
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(左)病院内回診支援ロボット「Terapio(テラピオ)」
(右)介護医療コンシェルジュロボット「Lucia(ルチア)」
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「その他、人と共生するロボットのコア技術としては、多指多関節のロボットハンドを用いて、安全性が高く、理学療法士のように効果的なマッサージを行えるインテリジェントマッサージロボットの開発、物体探索のための視覚認識技術、遠隔操作技術、超小型超音波モーター技術、デジタル照明技術、センシングやIoTに関する研究開発を推進しています」

そんな中で、岡田教授が提唱しているのが「弱いロボット」という概念なのだそうです。それは、“人とロボットとの共生関係に関して、お互いの〈弱さ〉を補いながら、それぞれの〈強み〉を引き出しあう”ロボット、なのだとか。その概念に基づいて開発された、ユニークな個性を持った様々なロボットは、最近はメディアなどでも注目され、2017年度には文部科学大臣表彰科学技術賞(科学技術振興部門)を受賞するなど、高く評価されています。
「弱いロボット」と人間との共生が生む可能性、それはどのようなものなのでしょうか。以下、岡田教授に詳しくお伺いしていきます。

周りの人を巻き込んで、課題解決を果たす「弱いロボット」

ロボティクスが日進月歩で進化する中、ロボットたちには様々な機能が付加され、私たちはあらゆることをロボット任せにできるようになってきました。いわゆる「生活の自動化・省力化」です。私たちは、ロボットの自己完結を求め、「何でも可能にするスーパーヒーロー」を期待しているのかもしれません。あの、鉄腕アトムのように。
しかし、岡田教授が研究・開発を進めている「弱いロボット」は、アトムの対極的な存在です。“不完全なロボットだからこそ、関わる人たちの関係性がつくれる”という独自の視点から生まれたユニークなロボットたちは、周りの人たちを巻き込んで、豊かなコミュニケーションを生み出しているようです。といっても、なかなかイメージが湧かないかもしれませんね。まずは、どんなロボットなのかを動画でご覧ください。

【ゴミ箱ロボット】
彼(彼女?)自身は、捨てられているゴミを拾うことはできません。
ゴミを前にしてもじもじしている姿を見た子どもたちが
ロボットに代わってゴミを拾って入れてあげます。
するとロボットはペコリとおじぎをしてくれます。
それを見て、拾った子どもたちは大喜びするのです。
一見、役に立たないように思えるゴミ箱ロボットですが 
結果的には、子どもたちを巻き込んで、その場の
ゴミを収集するという目的を果たしています。
【トーキングボーンズ】
たどたどしい口調で昔話を語ってくれるロボットです。
時々、話の中の大切なキーワードを忘れてとまどってしまいます。
話を聞いている子どもたちがキーワードを教えてあげると
「それだ!」と言って、話を続けていきます。
ぎこちない交流の中で、ロボットを取り巻く子どもたちの間にも
豊かなコミュニケーションが生まれていきます。
【アイボーンズ】
街角でポケットティッシュを配るロボットです。
もじもじしながら手渡そうとしますが、なかなか手にしてもらえません。
それを見ていた人たちが、彼を助けようと手伝いはじめます。
弱いからこそ、助けたくなる。周りの人たちを巻き込んで
目的を果たすのが、「弱いロボット」の特徴なのです。

いかがでしたか? 「弱いロボット」がどんなものたちか、分かっていただけたでしょうか。どこか、頼りなさげで、かわいくて、思わず手助けしたくなるような存在。それが、「弱いロボット」なのです。人間より高い能力を持ち、いつも人間を助けてくれるという従来のロボットのイメージとは、ずいぶん違うと思いませんか? でも、こんな弱い存在だからこそ、周りの人たちを巻き込んで、目的をしっかりと果たす。ゴミをなくしてきれいな環境をつくったり、その場の空気を和ませて豊かなコミュニケーション空間をつくり出したり……。これらの「弱いロボット」のお話を聞く前に、岡田教授の講演をしばしお聞きください。

【「『弱いロボット』に備わるチカラとは?】

基本にあるのは、使う側と使われる側との間に
線引きをしない関係づくり

「家電製品などがそうですが、便利なものたちは、ついつい使う側(人)と使われる側(機械)との間に線引きをしてしまいます。その位置を固定してしまうんですね。そこで起こるのが、使う側の使われる側への要求がどんどん高くなっていくということです。あれもしてほしい、これもやってほしい……。それは、ある意味 “歪んだ関係”といえるかもしれません。東京大学先端科学技術研究センターの准教授で小児科医の熊谷晋一郎さんは、“自立とは依存先を増やすこと”(※2)とおっしゃっています。私たちは、自立とは“ひとりでできるようになること”と考えがちですが、すべてひとりでできることなどないように思います。たとえば、ひとりで靴下がはけるようになった子どもは、母親の手は借りないけれど、背もたれによりかかることで靴下をはけているなど。このように、人は結局何かに頼らないと生活できないのです。『弱いロボット』」は、こうした考えを基に開発研究しています」

※2:インタビュー「自立は、依存先を増やすこと、希望は、絶望を分かち合うこと」『TOKYO人権』第56号より
https://www.tokyo-jinken.or.jp/publication/tj_56_interview.html

「『弱いロボット』たちは、自己完結していません。ゴミ箱ロボットは自分でゴミを拾うことができませんし、トーキングボーンズはたどたどしく話をしている中、大切なキーワードを忘れてしまいます。一般的な価値観でいうと、どこか欠けています。でも、欠けているからこそ、関係する人たちに“助けたくなる気持ち”を湧かせることができます。『弱いロボット』に関わる人たちには、やさしい心が芽生え、その人が持つ能力を引き出し、豊かな心が生まれるのです。このように、『弱いロボット』は、豊かなコミュニケーションをつくる能力を持っていると考えています。自己完結ではなく、“関係完結”するロボットだということです」

「たとえば、ゴミ箱ロボットでは、本来なら装備されるであろうゴミ回収のためのアームをなくしています。トーキングボーンズの話し方もですが、あえて“欠け”をつくっています。言葉でもそうですが、説明しすぎると会話に参加する余地がなくなります。片方が話し、片方が聞く……一方的な関係性になってしまうんですね。そこで、適当な隙間、つまり“欠け”のようなものを用意しておくと、皆が参加できる。話すだけでも聞くだけでもない、双方向の豊かなコミュニケーションが生まれるのです。私は、元々は発話などの研究をしていました。情報科学ですね。そんな中、コミュニケーションの研究にロボットが活用できないか、ということではじめた研究が、今の『弱いロボット』の研究開発につながっているのです。今は、言葉足らずの会話に関心を持っています。幼い子どもは母親の助け船に頼りながらコミュニケーション力を豊かにしていきますが、この助け船を出すということを引き出せるような関係づくりに興味を覚えているんです。『弱いロボット』が、関わる人の“助け船を出したくなる気持ち”を引き出す存在になってほしいと思います」

「弱いロボット」のひとつ、「Muu(むー)」。ヨタヨタしたぎこちない動き、
たどたどしい言葉遣いで話す姿に、人はつい耳を傾けてしまう
*クリックすると大きな画像が開きます。

高齢者とロボットの共生の鍵は、関係性にあり

人の“助け船を出したくなる気持ち”をくすぐるとともに、コミュニケーションを生み出す存在になり得る「弱いロボット」たち。これからも続くであろう超高齢社会において、彼(彼女)らをはじめとするロボットたちと、高齢の人たちとの共生の形はどのようなものになっていくのでしょうか。その展望について、最後に、岡田教授にお伺いしました。

「(人が)高齢になって衰えてしまった身体機能や認知機能を、ロボットや情報機器の力を借りて補完しよう、という方向に向かうことはあり得ると思います。自動車を運転するように、自らの身体を拡張させる方法として、それがうまく機能していけば問題はないかと思いますが、使い方をあやまった場合、高齢者がロボットや介護支援機器との関係の中で、“モノ”のように認識されたり、“一方的に支援を受けるだけの、何もできない人”になってしまう可能性もあるでしょう。
ロボットであれ何であれ、“強いモノ・頑固なモノ”との関わりの中では、人の“弱いところ”が顕在化されてしまうことがあります。その一方で、「弱いロボット」のような、“弱いモノ・柔軟なモノ”との関わりの中で、私たちの“強いところ”が引き出されたり、心が豊かになったり、新たな学びを得るということもあります。介護を受けている人も、場合によっては、“他者をケアすることで、自らもケアされる”という場面もあるでしょう。その意味で、人とロボットが双方向の繋がりを持つような、関係性のデザインが鍵になるのではないでしょうか」

「ロボットやAIは、『こんなこともできる、あんなこともできる!』というように強がっているし、私たちも期待しています。ですが、よくよく考えると、ロボットにも苦手とするものはたくさんあります。たとえば、落ちているモノを拾って、『これはゴミとして捨てていいのか、それとも誰かにとって価値のあるものだから、捨てないほうがいいのか?』という価値判断を下すことは、ロボットには難しい。そういうところを隠さず、開示してくれると、人が手助けする余地が生まれてくるように思います。
人がロボットを手助けする図は、ちょっと奇異に思えるかもしれません。けれど、お互いの“弱いところ”を理解しあうことで、人とロボットとの間でも、“弱いところ”を補い合いながら、“強いところ”や“得意とするところ”を引き出しあえるような関係が築けるのでは、と思っています」

これから、どんどんAI社会が加速していくであろう中、私たちは、暮らしの中の多くの行為をロボットに委ねることになっていくと考えられます。たとえば、自動車の自動運転機能が進んでいくと、私たちは運転する者ではなく運搬される者となっていくのかもしれません。そのような環境では、当事者意識は薄れ、他者感覚が高まっていくように考えられます。生活実感は薄れ、想像力がそぎ落とされていく可能性が出てきます。
しかし、ロボットもAIも万能ではないのです。それを体現する「弱いロボット」たちは、私たちに“人と人の関係”や“人とモノとの関係”をもう一度考えさせてくれる存在ではないでしょうか。“決して人は、自分ひとりで生きていけない”ということを私たちに教えてくれる存在。もちろん、頼れる強いロボットにも、期待をせずにはいられませんが、高齢者のみならず人とロボットがお互いに支え合い、委ね合える豊かなコミュニケーション社会の構築に向けて、今後さらに「弱いロボット」にも大活躍してほしいものです。

勢ぞろいした歴代の「弱いロボット」たち
*クリックすると大きな画像が開きます。

編集後記

福祉の世界では、超高齢社会を迎えての人材不足を解決するために、ロボット導入が積極的に進められているようです。人間・ロボット共生リサーチセンターで研究・開発されたロボットや機器も、そうした問題の解消に役立てられているようです。
その中で、岡田教授の「弱いロボット」は、機能サポートというスキルではなく、コミュニケーションという関係性に着目した画期的な研究開発だと思いました。この研究開発が、私たちに示唆してくれることは、福祉を与える側と受ける側という線引きをなくすことで、より豊かな福祉が実現できるのではないか、ということ。人は、ひとりでは生きていけません。自立と一言でいっても、その自立は、多くの人やモノが支えてくれているからこそ成り立つものです。そういった自立の本当の意味を伝えてくれるのが「弱いロボット」なのではないでしょうか。岡田教授のお話を伺っているうちに、少しやさしい心になれたように感じました。ありがとうございました。これからの、ますますのご活躍をお祈りしています。

―概要―

人間・ロボット共生リサーチセンター
〒441-8580
愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
豊橋技術科学大学内
http://robot.tut.ac.jp/

◆岡田美智男教授プロフィール

岡田美智男教授

豊橋技術科学大学 大学院工学研究科 情報・知能工学系 教授
専門:社会的ロボティクス、次世代ヒューマンインタフェース、コミュニケーションの認知科学、生態心理学、社会的相互行為論
最近の主な著書:『〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション』(講談社現代新書・2017)。

〇研究内容
社会的ロボティクス、関係論的なロボティクスと呼ばれる、人とのコミュニケーションの成立や社会的関係の形成過程、人との関わりの中での認知発達機構の解明を狙いとした次世代ロボットの研究。 また、関係論や身体性認知科学の視点からコミュニケーションやインタラクションの理論を構築、ロボットやエージェントを用いて構成的な検証を進め、これらの枠組みや理論に基づいて次世代のヒューマンインタフェースや学びの場のデザインなどを行っている。

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