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【インタビュー・レポート】株式会社RDS代表取締役社長 杉原行里 氏

僕たちがめざす福祉事業は、
助けることではなく、一緒に楽しむこと

遊び心に満ちたRDSのオフィス。その中でいきいきと語る杉原氏
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こんにちは。ドリームアーク編集部です。
2018年3月に行われた平昌パラリンピック。多くの方々がアスリートたちの雄姿を記憶に留められていることでしょう。中でも、雪上のF1とも称されるチェアスキーでは、男子の森井大輝選手の滑降での銀メダル獲得、女子の村岡桃香選手の滑降の銀メダル、スーパー大回転の銅メダル、大回転の金メダル、回転の銀メダル、スーパーコンビの銅メダルという5つのメダル獲得は、大きな話題となりました。日本のメダル獲得10個のうち、チェアスキーの2選手が6個もメダルを獲得したのですから、盛り上がったのはごく自然なことですね。

チェアスキーの森井大輝選手(RDSホームページより。以下、ホームページからの写真は★とします)
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大活躍した森井選手と村岡選手のオフィシャルサプライヤーを務めていたのが、杉原行里(すぎはらあんり)氏が率いる株式会社RDS。1984年創業の工業デザイン全般を手掛ける企業です。
今回は、杉原氏が考えるスポーツ×福祉×プロダクトの姿を大いに語っていただきました。「今日の理想を、未来の普通に」というスローガンのもと、活動を進める杉原氏とRDSのリアルなパッションを感じてください。

(左)森井選手と杉原氏(★)、(右)村岡選手と杉原氏(★)
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デザイン・プロダクト開発で培ったテクノロジーやノウハウを
社会にフィードバックして、豊かな未来をつくる

プロダクト開発の根っこにあるのは、「面白いかどうか、カッコイイかどうか」だと考えている杉原氏。RDSの事業は、この想いを礎にして進められています。
まずは、RDSのビジョンと施設・設備をまとめた動画をご覧ください。

■動画「RDS FUTURE VISION」 RDSが進む、ワクワクするような未来とは?
■動画「RDS STUDIO」 様々な作業を自社で行い、新しいモノづくりの形を世界に発信

◎モノづくりに関して、ストレスフリーのオールラウンドプレイヤーをめざす

RDSでは、軽さと強さという相反する特長を兼ね備えた未来素材CFRP(ドライカーボン)成形を特に得意としており、様々なプロダクトを展開しています。案内していただいたファクトリーエリアには、CFRPを高温・高圧・真空で成型するオートクレーブ(内部を飽和蒸気によって高温高圧にできる機器)が2基装備されていました。近々もう1基導入する予定だそうです。
このオートクレーブをはじめ、風洞実験装置や金属や樹脂など様々な素材・成形法に対応する3Dプリンターや、精密5軸加工機、高精度を持つ3Dスキャナー、モーションキャプチャー装置など、最新鋭のマシンが並んでいます。
「日本のモノづくりには、1社1業種という慣習があるようです。デザイン会社はデザインしかしない……そんな、ヘンなカテゴライズがされているのです。僕は、構造解析からデザイン、実制作、そして研究開発まで、1社でモノづくりのすべての工程を完結させたいと考えています。例えば、1社で完結できるシステムがあれば、いいアイデアが浮かんだ時に、すぐにリアルなものがつくれます。タイムラグがない、ストレスフリーのモノづくりができます。めざしているのは、モノづくりのオールラウンドプレーヤーですね」

RDSの事業内容(★)
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◎単に製品をつくるのではなく、その先にある未来をつくりたい

「1社完結主義を基本にして、これまで自動車産業をはじめ、宇宙開発などの先端産業で事業を展開してきました。そして、現在、福祉関連の領域にも事業を拡げています。そんな中で感じているのが、機器の選択肢の少なさです。
僕たちは、“さあ、もっとボーダレスな世界へ”というメッセージを送っているんですが、福祉に関わるモノづくりにおいては、障がいのない人が使いたくなるような魅力というか価値を付与していく時代になっていくと思うんですよ。使ったら、その人の生活を変えてしまうようなモノ……拡張されていくもの。そういう意味では、僕たちは、単に製品をつくっているんじゃなくて、使う人の未来をつくっているんだ、と考えています」

RDSのモノづくりについて熱く語る杉原氏
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福祉に関わるきっかけは、14歳の元服&英国留学
DNAとアイデンティティー崩壊が今の杉原氏をつくった

「うちの父親は自動車メーカーのデザイナーを経て独立してRDSを創業したのですが、変わった人で、僕が14歳になった時に元服させたんですよ(笑)。元服といっても昔の武士がしていたような式みたいなものではなく、“将来、何になりたいか”を決めて、15歳で家を出るということを宣言するということなんですが。そこで、僕は英国に留学することにしました。ハリー・ポッターのような全寮制の学校で、そこには世界中から様々な人種、地位の生徒が集まってくるんです。入学してしまうと親がどうだとかはまるで関係ない。大切なのはコミュニケーションが図れるかどうかということ。当時の友人とは一生の仲間となれましたが、当初、僕は、英語はできなかったし、アジア人だし、背も低いということで、中々厳しいスタートラインに立たされちゃうんですよ。これまで、成績はトップを、楽しむときはとことん、買物だって思いっきり……という家で育てられてきたので、とたんにアイデンティティーの崩壊を招きました。でも、この環境から逃げ出すことはできない。崩れたアイデンティティーを自分自身でもう一度一から築き上げるしかなかったんです。どんな人もアイデンティーを持っています。それを過剰に守ろうとすると破綻をきたします。自己崩壊ですね。パズルのように常に組み換えていかないと、どんどん人間が細っていってしまいます。そして、自分とは違う人間と交わることが面白いことだということも分かりました。15歳の時点でそれを知れたのは、ほんとうにありがたいことです」
若いうちのアイデンティティー崩壊が、今の杉原氏のメンタルの強さをつくったようです。

英国留学時の仲間たちと。右端が杉原氏
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「21歳のとき、父親がすい臓がんのステージ4だということが判明して……。ある日、病院に見舞いに行ったんです。そこでショックを受けました。今ではずいぶんと改善されていますが、当時の病院は、健康な人でも病気になってしまうような雰囲気だったんですね。そりゃそうなんですね。ここに居る人はみんな病気なんだから。病院こそ、アミューズメント施設というかテーマパークのような所にならなきゃ!と思いました。それで、英国の学校に戻ってから車いすや点滴台なんかのデザインをしてみたんです。それが、福祉に関心を持つようになったきっかけでした。そして、父親が亡くなった後、母親が経営を引き継いでいたRDSに入社しました。26歳のことです。やはり、いつも父親の背中を見ていましたし、いつか父を抜きたいと考えていました。今、ここで、こうしているのは、DNAの影響なんでしょうね」

パラリンピック・アスリートとの信頼関係は
「本気でぶつかること」「自分事にすること」から生まれる

病院の件を入口として、福祉と医療、工業が連携する分野に新たな目標を見つけた杉原氏は、数あるパラスポーツの中からチェアスキーに取り組むようになります。
F1にも使われるドライカーボンを用い、強度が高く軽量なチェアスキーを実現。開発に携わるようになったきっかけは、森井大輝選手が、優れた性能を持つチェアスキーの開発を依頼したいと、RDSの扉を叩いたことでした。
コンマ以下2桁の秒数でしのぎを削るパラリンピックのトップアスリートたち。森井選手の望みも、「より早く滑ること」でした。彼らにギアを供給するには、絶対的な信頼感をつくり出す、火傷しそうなほどのパッションと、たぐいまれなハイテクノロジーが必要となります。
「アスリートたちと信頼関係をつくるには、“本気でぶつかる”ということが一番大切ですね。だから、過剰なリスペクトはしません。障がい者を助けているという意識ではなく、いっしょに戦う仲間みたいなポジションをめざしています。それには、お互い共通言語が必要です。彼らから“感覚的にキツかった”と言われても、僕たちには理解できません。違和感が生まれている場所やその数値を“見える化”しないと意思疎通ができないのです。そういう意味で、解析技術が重要になってくるんですね。長さや重量、角度、強度……あらゆる要素を数値化して改善していく。そして、最適解を出すのです。
コンマ以下2桁の精度が求められます。そんなアスリートたちのスイートスポットを見つけることが、僕たちの仕事だと考えています。このスイートスポットを探すために、可視化した数値を共通言語にして、とことんぶつかり合うのです。そこから、信頼関係が生まれると信じています」

モーションピクチャーの解析を使って最適解を探す森井選手とスタッフ(★)。計測したデータを社内の人間工学の専門家が分析、蓄積することで、より精度の高いプロダクトづくりを実現するのだという
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「信頼関係を築くために、もうひとつ大切なことがあると考えています。それが“自分事にすること”。いつか、このギアを自分自身が使うかもしれない……そう考えて開発すると、心の中にワクワクした気持ちが湧いてくると思います。アスリートのためというのは、もちろんあるんですが、そこに自分事であるという意識を入れてくることで、開発に対するパッションがググっとアップします。イマジネーションも広がり、深まってきます。一人称意識も信頼関係を築く上で、欠かせない要素だな、と思っています」
アスリートの夢は、RDSの夢でもあります。今日も、2020年の東京パラリンピックをめざして、アスリートたちとRDSとの夢実現への切磋琢磨が続けられています。

さらなるインタラクティブなコミュニケーションを求めて
オウンドメディア「HERO X」をオープン

2017年6月23日、杉原氏は、自ら編集長となり、「世界で一番、ボーダレスなメディア」を宣言するWebスポーツメディア、「HERO X(ヒーロー エックス)」をオープンさせました。これは、RDSのオウンドメディア(※1)であり、そのミッションは、「メディカル×テクノロジー×スポーツ」という3 つの柱を軸に、身体の欠損を補うものから、能力を拡張するものへと変わりつつあるプロダクトの進化と、それらが可能にする人間の限界への挑戦を、障がい者・健常者という枠を超えて、ボーダレスに追っていくことです。

※1:オウンドメディア…企業が自ら所有し、消費者に向けて発信するメディア。

「HERO X」トップページ
「HERO X」トップページ http://hero-x.jp/
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「今、一方的なコミュニケーションをしていてはダメな時代になってきたと感じているんです。こちらが一方的に“カッコイイ”と言っても相手に伝わらない。どこかでリアルを共有しないとコミュニケーションが成り立たなくなっているんですね。そういう意味では、マスコミってかなり危機的な状況かもしれませんね。かつては、“テレビに出たよ”といえば話題になったものですが、今ではウワサにもならない(笑)。生活している人一人ひとりが記者になっているような時代。そこで、今回、オウンドメディアである「HERO X」を立ち上げました。これまで僕たちが携わってきた“メディカル”と“テクノロジー”と“スポーツ”を柱に、よりインタラクティブなコミュニケーションを図っていきたいという想いからです。ここでは、アスリートの挑戦やプロダクト開発の裏側を他にはない切り口で掘り下げていくと共に、未だ見ぬヒーローを発掘して、その魅力を世に広め、ヒーローの連鎖を起こしていきます。あるときは、スポーツ選手かもしれないし、またあるときは、プロダクトの開発に携わるメーカー、エンジニアやデザイナーかもしれません。今後、スポーツやサイボーグに特化したイベントの開催なども予定しています。そこでもまた、様々なヒーローが生まれてくると思います。たくさんの人に興味を持っていただきたくて土日を除いた毎日発信しています」

〇杉原編集長の想いについてはこちらを
http://hero-x.jp/article/1412/

来るべきパーソナライズ社会に対応すべく
様々なフィールドでチャレンジを続ける

2013年にドライカーボン松葉杖でグッドデザイン賞を獲得したのを皮切りに、森井大樹選手や村岡桃佳選手、夏目堅司選手といったチェアスキーのパラリンピック・アスリートへの協力、近未来仕様の車いすのデザインなど、福祉業界に常に新しい風を送り込んできたRDS。杉原氏の頭の中には、来るべきパーソナライズ社会に向けた様々な構想が、あふれ出んばかりに湧き上がってきているようです。

2013年度グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)を獲得したドライカーボン松葉杖(★)
チェアスキーのシート(★)
近未来型デザインのモビリティー RDS WF01(★)
*それぞれクリックすると大きな画像が開きます。

「2025年には日本の人口の30%以上が高齢者になると予測されています(※2)。そして、ダイバーシティが求められる時代がやってきています。そのような中、より一人ひとりのニーズをきめ細かに満たす選択肢豊かな“パーソナライズ社会”が現実化していくでしょう。僕たちは、これまで、インダストリアルデザイン、クレイモデル、CFRP成形、3Dプリンター、精密5軸機械加工、コンサルティング事業を展開し、それに伴う3Dモデリングデータ製作、構造解析、なども自社で行ってきました。手がけたものは、モータースポーツなどにはじまり、ロボティックスそして、航空宇宙まで多岐にわたっています。これからも、これらの事業活動で培ってきたテクノロジーやノウハウを社会に還元していきたいと考えています。その活動を僕たちは“応用”と呼んでいます。たとえばF1で培われたテクノロジー・ノウハウが一般自動車にフィードバックされるように……。今の理想を未来の普通にするようなモノづくりを続けていきたいと考えています」

※2:内閣府「平成24年度版 高齢社会白書(全体版)」第1章第1節(2) 将来推計人口でみる50年後の日本
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/zenbun/s1_1_1_02.html

編集後記

訪問した埼玉スタジオは、まるでコテージのような施設でした。そして、通されたミーティングルームにまたびっくり! 所狭しとモータースポーツ関係のモデルやパネルが並んでいます。テーブルには、たくさんのトミカがコレクションされています。まるで、おもちゃ箱のような空間でした。この空気感が優れたアイデア力とデザイン力と技術力を生み出す源泉なんだなぁと実感しました。
現在、2020年東京パラリンピックに向けて、チェアスキーのプロジェクトとともに注力しているのが、車いす陸上アスリートで、ロンドン・北京パラリンピックのメダリスト、伊藤智也選手との車いすレーサーの共同開発。さらに、人類初の月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」(月面無人探査レース)に挑戦している日本発の民間月面探査チーム「HAKUTO」のサポーティングカンパニーなど、RDSの夢は世界を超え、宇宙にまで広がっています。
これからも「面白いこと」に注力して、楽しい未来をつくっていってほしいものです。

RDS問い合わせ先

株式会社RDS
埼玉スタジオ
〒369-1211 埼玉県大里郡寄居町赤浜1860
東京デザインオフィス
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-8-6
TEL:048-582-3911
FAX:048-582-1931
URL:http://www.rds-design.jp/

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