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【ICTレポート】第31回 OTON GLASS 株式会社オトングラス 代表取締役 島影 圭佑

顔の前にある文字をボタンひとつで読み上げる、スマートに使えるメガネ型デバイス。
“読む”ことが困難な方に、ほんとうに役に立つモノづくりをめざし、利用者と一緒に開発。

メガネに装着されたカメラが捉えた文字を音声で読み上げてくれるOTON GLASS
(Photo:KIOKU Keizo)
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こんにちは。ドリームアーク編集部です。
今年の夏は、台風や地震の被害に苦しめられる日々が続きました。中には、数日間の停電で真っ暗な夜に不安を感じられた方もたくさんいらっしゃったと思います。この不安を常に感じている方たちがいます。それが、視覚に障がいのある方々です。
2018年4月に発表された厚生労働省の「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」(※1)によると、日本の視覚障がい者数は31.2万人。前回の調査結果の31.6万人から4000人減少しています。しかし、これらの数値はあくまでも身体障害者手帳を保持している人の数であり、障がい者と認定されずに見ることになんらかの困難を感じている人、例えば緑内障や白内障で見えにくくなっているというようなロービジョンの人たちなどは含まれていません。
これら全てを含めた数多くの方々が「見ること」において、様々な不便や不自由を感じていらっしゃるのは確かなことです。こと、高齢社会先進国の日本では、今後ますます、視覚に障がいのある方が増えていくことでしょう。
今や、視覚障がいをサポートするハードやソフトの開発と実用化が喫緊の課題になっています。しかし、高度な技術開発が求められたり、生産台数が限定されるなどの要因で、なかなか実用化ができないのが実状です。
そんな中、既存の技術をコーディネイトして、いち早く実用化して、視覚障がいのある人たちのサポートをしている製品があります。それが、メガネに装着されたカメラが顔の前にかざした文字をボタンを押すだけで読み取り、それを音声で伝えてくれる「OTON GLASS(オトングラス)」。今回は、その開発者である株式会社オトングラス代表取締役の島影圭佑さんに、開発にまつわるエトセトラや将来の展望についてお伺いしました。

※1:厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa_h28.html

OTON GLASSは、メガネの眉間の部分にカメラを装着、メガネをかけた状態で文字を見てボタンを押すと、文字を音声で読み上げてくれる

軽いメガネとコンパクトな本体で構成されたOTON GLASS
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OTON GLASSのシステムは、眉間の部分にカメラを装着したメガネと手のひらサイズの本体で構成されていて、携帯性に優れた仕様となっています。仕組みは、カメラが捉えた画像(文字)を本体に内蔵されたコンピューターに伝達。このコンピューターはネットにつながっていて、画像をクラウドの画像認識API(Google)に送信して、文字を認識させ、音声合成させます。それを再び本体で受け取り、イヤホンやスピーカーで再生するというもの。文字の読み取りは、天地を正確に認識できるので、逆にしても横にしても正しく認識してくれます。視覚に障がいのある方が、天地や左右を間違っても正しく音声で読み上げることができるのです。
メガネをかけて、本体をストラップなどで首などにかければ、気軽にお出かけのおともをしてくれる軽量・コンパクト設計も魅力です。
手軽に持ち出して、気軽に使える。
OTON GLASSは、視覚に障がいのある方の頼れるパートナーです。

【使い方はいたってシンプル】

使い方1 使い方2
OTON GLASSをかけて読みたい文字のほうを向き、ボタンを押すだけ
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【OTON GLASS サポートの仕組み】

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1.OTON GLASSに搭載されたカメラで撮影した写真をクラウドにアップロードする
2.クラウド上の画像認識エンジンで、写真に含まれる文字を抽出する
3.同様に、音声合成エンジンで文字を音声データに変換する
4.音声データをダウンロードし、OTON GLASS から再生する
※ 利用にはネットワークへの接続が必要になります。

きっかけは、失語症になった父親のサポート
文字を認識し、読み上げ、文字が読めない人を支援する機器を

OTON GLASSの概要とポイントが分かったところで、開発者であり株式会社オトングラス代表取締役の島影圭佑さんに、開発のきっかけや苦労話、将来の夢などをお伺いしました。

自らOTON GLASSをかけて説明される島影さん
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編集部:まず、OTON GLASSを開発されるに至った、きっかけなど教えていただけますか?
島影:実は、学生時代に私の父が、脳梗塞で倒れまして。その後遺症で言葉は話せるのに文字が読めなくなる失読症(※2)になったんです。そこで、なんとか父をサポートする機器をつくることができないか、ということで研究開発をはじめた……というのが、きっかけです。卒業制作で第一号機をつくり、大学院に入ってから起業しました。以来、5年目に入っています。

※2:失読症…学習障がいの一種。文字の読み書きや文章を読むのに困難を抱える読字障がい。何らかの原因により、脳が言語を処理できないことで症状が現れるといわれる。先天的な「発達性失読症」と、脳損傷などで起こる「後天性失読症」がある。

編集部:あ、そういうことで、OTON(おとん:関西エリアを中心に父親のことをさす言葉)なのですか?
島影:そうですね。「音にする」ということと「おとん」をかけて、このネーミングにしました(笑)。

編集部:島影さんは、元々、どんな分野の勉強をされていたのですか?
島影:私は、プロダクトデザイナーをめざしていました。メーカーのデザイナーを志望していたんですよ。でも、モノづくりをする中で、もっと抽象性の高い仕事、そもそもなぜモノをつくるのか、とかを考えていく中で、一人ではつくれない、様々な人と協働しなければつくることができない、人類や社会が抱える複雑な問題の解決に挑戦するモノづくりをしたいという思いが強くなってきました。

今ある技術のポテンシャルを最大限に引き出して
今すぐ使える機器を開発し、必要な人に届けたい

編集部:視覚障がいをサポートする機器の多くが、まだまだ実用化を探っている段階にとどまっている中、OTON GLASSは、いち早く実用化を実現していますが、島影さんの開発ポリシーを教えてください。
島影:視覚障がい者の人が100%満足できるようなものを開発するには、莫大な時間と費用が必要になります。その結果、なかなか実用化に至らないということが起こりがちです。でも、多くの視覚に障がいのある方が、今すぐ使える機器を求めています。
たとえば、視覚障がいをサポートする機器は、拡大読上機など卓上タイプが多く、持ち歩くことができません。ポータブル性を求めるとスマホアプリの活用があるのですが、視覚に障がいのある方にとってフラットな画面を操作するのは難しいという現実があります。そもそも視覚に障がいのある方は、高齢者が多いのでスマホが使えないという方が大半を占めています。

編集部:それでメガネ型を採用したということですね。
島影:そうです。私が眼科医といっしょに調査したデータによると、文字が見えにくくて、先端技術を使いこなせない、視覚に障がいのある方がたくさんいることが分かりました。やさしいインターフェイスが少ない中、OTON GLASSは、特別に習得しなければならないスキルがあるわけではありません。メガネをかけて自分の顔の前に文字を持ってくれば、読み上げてくれる。しかも、本体はコンパクト設計なので、手軽に持ち歩ける。実際に使っていただいた、多くの視覚に障がいのある方々からは、「簡単に気軽に使えるよね」「外に持ち出して使えるのがいい」といった感想をいただいています。

編集部:自分の身体感覚で使える……というのがポイントですね。
島影:OTON GLASS開発のもうひとつのポイントが、既存の要素技術(製品の製造・構成に必要な基本技術)を活用しているということです。これまで、要素技術は、莫大な時間と費用をかけて自分たちで開発するしかありませんでした。でも、今は時代が変わった。優れた要素技術があふれています。それらをいかに組み合わせて、利用する人たちのニーズを満たす機器をつくるか、が問われるようになってきているのです。それには、様々な技術をコーディネイトできる柔軟な発想が必要になってきます。もちろん、要素技術を高める研究・開発を続けていくことも非常に大切なことです。ただ我々のやり方は、まずは既存の技術を組み合わせ、日常の中で使用できるモノをつくり、そこから見つかった課題を基に基礎的な研究開発に取り組むというもの。ユーザーにとって、直接的にインパクトのある研究開発になることを意識しています。

コンピューターを操作しながら、OTON GLASS開発について詳しく説明してくれた
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技術を成熟させ社会に普及するのではなく、人を中心に技術開発を行う
実用性が高く、コストの低い製品開発を心がける

編集部:これからの福祉機器開発に必要なことは何だとお考えですか?
島影:技術開発を突き詰めていき、実用化に至る、という考え方ではなく、まず既存の技術を組み合わせて日常で利用できるモノをつくる、そこから課題設定を行い研究開発を行うという考え方です。コストを抑え、ユーザーの生活にインパクトが大きそうなところをまずは落としどころにする。そして、今、視覚に障がいのある方が求めているものを、タイムリーにカジュアルな価格で届けることを会社では目標としています。そこから新たに課題設定を行い大学で研究開発を行っています。現状のOTON GLASSはRaspberry Pi(ラズベリーパイ)という拡張性の高いマイコン(※3)を採用し、筐体は3Dプリンター、画像認識、音声合成などは各種APIを使っています。

※3:Raspberry Pi…内臓ハードディスクなどを搭載せず、電源やSDカードストレージの装着によって使用できる、「ワンボードマイコン」と呼ばれるハードウェア。2010年代後半からは、安価で入手できるIoT機器としても広く用いられている。

編集部:これまでにOTON GLASSは、何台くらい世の中に出ているのでしょう?
島影:これまでに15台以上を納入しました。個人や障がい者施設、盲学校などで使ってもらっています。すべて受注生産で、1台ずつの生産で今は1台40万円で販売、兵庫県豊岡市では30万円で販売し、制度に乗せることで当事者には1台3万円以下で購入してもらうことが可能になっています。
というのも、同市の「日常生活用具給付事業」の対象品として認定していただいたからです。25台分の予算を組んでいただいたので、順次、納品していく予定です。日常生活用具に認定されると、利用者の方は1割負担で購入することができるんです。このような事業が広がっていくと、QOLを高めることができる人が増えていきます。多くの地域でそれが当たり前になるようにしていきたいと思います。

「ないよりマシ」対応でまずは必要としている人に届ける
脱完璧主義で、利用者と一緒に製品のブラッシュアップを図る

編集部:OTON GLASSが他の福祉機器と比べて、短期間で実用化できた秘訣を教えていただけませんか?
島影:言葉は良くないのですが、「ないよりマシ」で対応したからではないでしょうか。それは、つまり、ある閾値(※4)を超えてから実用化するのではなく、まず実用化してから進化させるというアプローチです。脱完璧主義とでもいうのでしょうか。「まずは使ってもらえるものをつくる」→「実際に使ってもらって新たな課題を見つける」→「その課題を解決するための研究開発を行う」。一度モノを社会に投じてみて、そこから問題点を見つけるというスタイルを採っています。
ユーザーの本当の要望は、実際に使ってみないと分からない、はっきりとは自覚できない。だから、私は、利用者について、一緒に開発してくれる人が使ってくれている、と考えています。仲間に使ってもらいながら、一緒に研究開発していきましょう! というスタンスですね。完璧じゃないけれど、まずは世の中に投じてみよう。仲間になら投じることができる。一緒につくるのだから。自分たちで使ってみて、これを成長させたい……という想いを共有して一緒に育てていきたいです。

※4:閾値(いきち)…境目となる値。特定の作用因子が,生物に対しある反応を引き起こすのに必要な最小または最大の値。限界値、臨界値ともいう。

編集部:技術者としては、ほんとうに勇気が求められるスタンスですね。
島影:これまで、つくり手と使い手が分断されていた時代が長く続いてきたと感じるんです。モノは誰かから提供されるもので、使い手はそれを批評するだけという価値観。その結果、つくり手は「完璧なモノをつくらなければならない」というプレッシャーに苛まれ、使い手は、モノとの向き合い方を批判だけに終始させてしまう……。かつては、モノはどうあるべきか使い手も考えていたはずなのに。この乖離というか距離感を縮めたい、つくり手と使い手をつなぎたいと考えています。だから、利用者=強力なパートナーと一緒に開発を進めているのです。顔の見えるモノづくりを通じて、お互いの想いを伝えあいたいと思っています。

編集部:利用者の方々との共同開発で改善されたところを教えてください。
島影:いくつかありますが、たとえば、音量調節機能や読み上げ速度調節機能、聞き逃したときの巻き戻し機能など、いくつかの機能を追加しています。

編集部:現在、取り組まれている課題はありますか?
島影:より高い機動性、易しいインターフェースを持ったモノに改良を進めています。またソフトウェア的にも改善点がまだまだあるので、そこにも取り組んでいます。いずれ論文での発表や製品への搭載を通じて報告できればと思います。

利用されている方は強力な開発パートナーだ、と話す島影さん
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オトングラスで、これからも、本当に求められているモノをつくっていきたい

編集部:これからのOTON GLASSの展望などをお聞かせ願えますか?
島影:視覚に障がいのある方たちの周辺にある機器には、イノベーションが起こっていないと思います。そんな中、OTON GLASSは、「使いやすさ」「持ち出しやすさ」「買いやすさ」という課題をクリアすることを第一義にしています。実際に生活の中で使ってもらって、課題を抽出して、開発にフィードバックさせていく……そのためには、価格を下げることも大切な要素になってきます。また、私が所属する研究チームでは画像認識技術、機械学習、HCIが専門の研究者の方と課題設定を行い、大学の学生の皆さんと研究開発を行っています。
オトングラスという会社は、自分たちで試作品を開発し、当事者への調査を行い、求められている製品を明らかにしていく、開発と調査を反復するモノづくりが強みです。求められている製品像を明らかにし、製造会社や販売会社と組み、製品を安定的にユーザーに届けていく。まだ改善点は山積みですが、本当に求められる製品に成長させられるよう頑張ります。

編集後記

取材の際、テレビで放映されたOTON GLASS利用者のドキュメンタリーを見せていただきました。ひとりでレストランやCDショップに出かけて、書いてある文字が理解できたときの、ほんとうにうれしそうな笑顔がとても印象的でした。OTON GLASSには、使う人を幸福にする力があるんだ、と実感しました。
ビジネスとしては難易度が高い事業。ただ、これまで積極的な取り組みがなされていなかった領域なので、自分たちの世代のタイミングで取り組んでいきたい、と決意を示されていた島影さんは頼もしい限りでした。
メガネが視力の補助器具からファッションアイテムになったように、いつか、OTON GLASSもカジュアルなファッションアイテムのように使える日が来るかもしれません。それまで、夢をあきらめずに開発を続けていってほしいものです。

【OTON GLASS の主な仕様】

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■品名:OTON GLASS ■本体サイズ (W×D×H):120 × 96 × 27 ■本体重さ:約215g
■メガネ重さ:約41g ■標準バッテリー:cheero Canvas 3200mAh
■USB:USB2.0 Micro-B ■イヤホンジャック:ステレオ 3.5mm
■駆動時間:約5時間通信規格 ■IEEE 802.11b/g/n 2.4GHz
■使用環境:温度:-10℃~40℃、湿度:5%~95%RH、防水:非対応
※指定されているバッテリー以外は使用しないでください。
※製品の仕様は予告なく変更することがあります。

【OTON GRASS設置施設】
〇東京都高田馬場:日本点字図書館内「わくわく用具ショップ」
〇東京都西早稲田:日本盲人会連合内「用具購買所」
〇兵庫県神戸市: 神戸アイセンター内「ビジョンパーク」(※5)

※5:ビジョンパーク関連記事「お役立ち情報-眼病の研究からリハビリまで。国内初の眼科施設が誕生-」
http://www.dreamarc.jp/archives/4829/

【会社概要】

株式会社 オトングラス
〒107-6031
東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル31F
URL:https://otonglass.jp/

【島影 圭佑氏プロフィール】

島影 圭佑

株式会社オトングラス 代表取締役
起業家、研究者、デザイナー
1991年生まれ。2013年、首都大学東京在学時、父の失読症をきっかけに、文字を代わりに読み上げてくれる眼鏡「OTON GLASS」の研究開発を始める。2014年に情報科学芸術大学院大学[IAMAS]に進学し、同年に株式会社オトングラスを設立、代表取締役に就任。2018年から兼務で筑波大学助教に着任。慶應義塾大学博士課程に在籍。現在も、視覚障がい者を中心に文字が読みづらい人々にOTON GLASSを届けるため、研究開発と社会実装に取り組む。金沢21世紀美術館にて企画展「lab.1 OTON GLASS」開催、ドバイや台北や香港など海外でのグループ展にも参加。総務省異能vation採択、経産省IoTLab準グランプリほか受賞多数。

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