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【ICTレポート】第30回 小林 透 長崎大学教授 長崎大学 大学院 工学研究科 情報工学コース 小林透研究室

IoT(Internet of Things)をIoH(Internet of Human)へ。
インターネットで人と人をつなぐソーシャルメディア仲介ロボットを研究開発

長崎市のICT事業の要職を担う小林透教授
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こんにちは。ドリームアーク編集部です。
2016年2月15日、長崎市と長崎大学、NTT西日本が「観光活性化等によるICT利活用」に関することをはじめ、様々な分野での連携強化を目的とした包括連携協定の締結を発表しました。
この包括連携協定では、数々の取り組みが行われていますが、特にドリームアーク編集部が着目したのが、“高齢者向けSNS仲介ロボットの研究開発”です。
今回は、このロボットの研究開発を統括マネージメントされている長崎大学の小林透教授にお話をお伺いしました。

まずは、どんなロボットかが分かるデモンストレーション動画をご覧ください。

いかがでしたか?とっても愛らしくて、親しみのあるロボットでしょう。このロボットの母体はNECが開発した“PaPeRo(パペロ)”。本体にシングルボードコンピュータを内蔵していて、IoT(※1)のステーションとなる機能を持たせてあります。このロボットのプログラムを小林教授のチームがカスタマイズしてソーシャルメディア仲介ロボットに仕上げたのです。

※1:IoT…「Internet of Things」の略。パソコンやサーバー、スマートフォンなどにとどまらず、ICタグや組み込みシステムなど、あらゆる物がインターネットを通じてつながることにより実現する新たなサービスや、それを可能にする要素・技術のこと。

一方通行の“安否確認”から
双方向の“コミュニケーション”ができる“見守りシステム”を実現

独り暮らしのご高齢の方が、冷蔵庫のドアを開けたり、電気ポットのスイッチを入れたりすると、家族や介護担当者にメールが届く……。あるいは、パソコンを通じてメッセージを送る。これまでの“見守りシステム”は、一方通行の“安否確認”をするものがほとんどでした。しかし、この一方通行のシステムでは、ご高齢の方の積極的な社会参加を促すことはできません。
そこで、小林教授のチームが着目したのが、ソーシャル・ネットワーキング・システム=SNS。若年層の間で普及しているLINEを利用してコミュニケーションができるシステムの構築でした。しかし、LINEをするにはスマートフォンの使用が不可欠。ご高齢の方にとって、スマートフォンの利用はハードルが高いという問題がありました。
そこで、考え出されたのが、ソーシャルメディア仲介ロボットです。

このシステムでは、家族・親せきや介護関係者がスマートフォンを使ってLINEでメッセージを送信すると、ご高齢の方の家にいるロボットがそのメッセージを音声に変換して伝えます。このメッセージを受け取ったご高齢の方が、ロボットに向かって返事をすると、内蔵しているカメラがその方を撮影し、静止画と音声、そしてテキスト変換されたメッセージが相手に送られます。つまり、ご高齢の方は、苦手なスマートフォンの操作ではなく、まるでロボットと会話をしているように楽しみながらLINEをすることができるのです。
例えば、ケアマネージャーがご高齢の方にLINEで「お薬、間違えないで飲んでくださいね!」と送ると、それをロボットが声にしてご高齢の方に伝え、「了解、ちゃんと飲むよ!」という返事が画像と共にケアマネージャーに返信され、会話が成り立つというわけです。

◆自ら学習して、成長していくシステム

このロボットの第一の特長は、ご高齢の方からのメッセージの宛先をロボットが選んでくれること。機器の扱いに慣れていないご高齢の方が、宛先を選ぶなどの行為を行うのは、ハードルが高いことが少なくありませんが、それを解決しています。
これは、IoT技術と人工知能を連携させることで実現しました。具体的には、ご高齢の方と、通信する相手先とのメッセージの内容や頻度などの交換履歴を、IBMの人工知能「Watson(ワトソン)」に学習させることで宛先を自動推定させています。学習の段階としては、下記のような具合になります。

[例:宛先がケアマネージャーのやり取りの場合]
①ご高齢の方からのメッセージが全員に配信される。
 「ケアマネージャーさんはいつ来るのかな?」
②ケアマネージャーから返信される。
 「明日の9時にお伺いしますね!」
③この履歴とメッセージの内容を「Watson」が学習する。
④以降は、「Watson」による内容分析により、ケアマネージャー向けのメッセージが、ケアマネージャーに配信される。

宛先推定の精度は、学習が進むにつれて、どんどん上がって絞られていきます。いわば、“成長するシステム”なのです。これは、「宛先」という正解を発信者であるご高齢の方に入力してもらうのではなく、相手側のメッセージ履歴を学習させて特定していくという“逆転の発想”から生まれた「メッセージ交換学習型宛先推定方式」(特許出願済)を考案・実装することで、実現できました。

◆いくつものクラウドと連携したオープンイノベーションシステム

このシステムでは、メッセージの宛先選定を学習する「Watson」をはじめ、音声をテキストに変換する音声認識機能として、「Google Cloud Platform(グーグル クラウド プラットフォーム)」やロボットに顔認識させるNECプラットフォームズの「PaPeRo i(パペロアイ)」を、ロボットに利用しています。このように、外部のクラウドと連携するオープンイノベーションを最大限活用したシステム構成を採用しています。

研究者というよりコーディネイター
既存の高度な技術を組み合わせて新しいコミュニケーションをつくりたい

ここからは、このロボットシステムの研究開発を行われている、小林教授にお話をお伺いしたいと思います。

編集部:小林教授は、どんな経歴をお持ちでしょうか?
小林:大学院では、アーム型ロボットの研究をしていました。就職は畑違いで、NTTの研究所に入り、そこでソフトウェアをどうつくるかを研究しました。生産性や保守性をいかに上げて効率よくつくるか、ということをです。次に、セキュリティ。情報セキュリティのシステム構築ですね。そして、最後にビッグデータの解析をしました。データマイニング(※2)です。
その後、長崎大学にお世話になって、現在はIoTの研究をしています。とはいえ、主にロボットの研究ですから、大学院時代の専攻に戻った気分ですね。

※2:データマイニング…あるデータ群から潜在的な顧客のニーズを採掘(マイニング)するマーケティング手法の一種。クレジットカードの利用頻度といった、企業に多く蓄積されているデータ(ビッグデータ)を解析し、その中に潜むパターンやニーズを探し出す。

小林教授の研究室には、至る所にご家族の写真が
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編集部:どういう経緯で、ソーシャルメディア仲介ロボットは誕生したのでしょうか?
小林:今から4年前のことです。長崎市内で、若手の介護・医療に携わる人たちの人材育成プロジェクトがありました。彼らには、たくさんのアイデアがあるんですが、ITなどの専門家ではないので、実際のモノをつくることができない。ということで、私がアドバイザーとして参加することになったんです。
“今抱えている問題を解決しよう”ということで、看護士や理学療法士の方々と話す機会があったんですが、「高齢者の見守りシステムをつくりたい」という声が出てきたんです。いわゆる“安否確認の見守りシステム”は、かなり普及していたので、その時は、あまり興味が湧きませんでした。でも、話を聞いているうちに気持ちに変化が起こりました。というのも「先生、普通の見守りシステムじゃないんです。今までの安否確認のシステムでは、お年寄りは満足しないんですよ。このシステムでは、お年寄りの安否情報を発信しているだけで、お年寄りによっては何の楽しみもない。孫の誕生日の写真や幼稚園の動画が見られるわけじゃない。写真や動画が双方向で楽しめるような見守りシステムがつくりたいんです」と。お年寄りと双方向のコミュニケーションができる見守りシステム。これは面白そうだ、ということで、この研究開発をスタートさせました。これが、きっかけでしたね。

編集部:相互コミュニケーションがキーワードだったんですね。
小林:実は、私、単身赴任をしていまして、家族は埼玉県に居ます。毎日、家に帰れるわけではないので、心配でしょうとお声がけいただくことがあるんですが、家族とは常にスマートフォンを使って、LINEでテキストメッセージだけでなく写真や動画などの情報共有をしているので安心できるんですね。ところが、仙台にいる実の母親は、携帯電話しか持っていません。写真や動画をLINEで共有することができないのです。もし、スマートフォンを使わなくてもLINEが楽しめたら、きっと母親ももっと楽しい毎日を過ごせるんじゃないか。と若い人たちの話を聞いているうちに、そんな思いが込み上げてきた。ということも、開発のモチベーションを高める要素のひとつになりましたね。

編集部:ソーシャルメディア仲介ロボットを開発する上で、技術的なハードルとかはなかったのでしょうか?
小林:宛先を推定する人工知能、音声データをテキスト変換する機能、顔認識する機能。これらの機能を全て開発するのは大変な時間と労力が必要です。しかし、いろんな企業がすでに高精度な技術を開発しています。私の仕事は、それらの高精度な技術を組み合わせて、新しいことを生み出すことにあると考えています。いわば、“コーディネイター”ですね。それらをどう組み合わせて、オープンイノベーションを実現するかが、私の使命だと考えています。そういった“HUB(ハブ)”としての役割を果たしたいと思っています。そして、そのコアに必要なのは、“コミュニケーション”だと捉えています。

さらに、ご高齢の方が感情移入できるロボットの開発をめざして

次に、現在進行中のロボットプロジェクトをご紹介したいと思います。
これは、シャープの「ロボホン」というユニットを応用したプロジェクトです。まだ、開発段階で、実証実験までは進んでいませんが、本当にご高齢の方がコミュニケーションを楽しむことができるプロジェクトのようです。

では、動画をご覧ください。

「ロボホン」の特長のひとつは、ちょっとした仕草がかわいいこと。首を傾げるとか、少し腕を動かすとか、愛嬌のある仕草がプログラミングされています。これを手に入れたご高齢の方は、きっと愛おしくてたまらなくなると思います。そして、もうひとつの特長が、プロジェクター機能を使って、動画の再生ができること。これも動画でご覧ください。

このように、うつむいた姿勢で動画を映写してくれるのです。なんて、かわいらしいのでしょう。このようなロボットが普及していけば、ご高齢の方は、さらに楽しい毎日を過ごせるのではないか、と思います。

PaPeRoとロボホンのデモンストレーションをしてくださった小林研究室の栗山孔臣さん
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これからも長崎という地域の課題をICTで解決していくような
テーマを取り上げて、取り組んでいきたいと思っています

最後に、今回、観光活性化をきっかけに、「地域課題×ICT」という取り組みを具現化する包括連携協定の締結を行った、NTT西日本 長崎ビジネス営業部 SE部門の 明石氏の思いをご紹介いたします。
「NTT西日本は、これまでもネットワークを介して提供する介護福祉や高齢者対応のサービスやソリューションの研究・開発を行ってきていますが、この度の包括連携協定をきっかけに、長崎大学との連携がより強化され、小林教授が研究に取り組まれている技術と、リアルなフィールドを繋いだ実証に発展させることができました。特に高齢化、人口減少という問題があり、高齢者にはつらい傾斜地が多いという長崎の地で、今回の実証に携われたことの意義は大きいと思っています。
AIをより高度に使いこなしていくノウハウの蓄積。各種センサーと組み合わせたIoT技術との連携による高機能化。これらにより幅広い方々に利用していただけるユニバーサルデザインの追求などを継続していくことが、今後の我々の発展・進化の方向性だと思っています。
ソーシャルメディア仲介ロボットの他、観光に関する取り組みなども行ってきて、地域の方々との連携も増えてきてきました。その結果、活動のベースができてきた感じがしています。今後はこれまでの活動をより深めていくことはもちろんですが、長崎という地域の課題をICTで解決していくようなテーマを取り上げ、取り組んでいきたいと思っています。

編集後記

小林教授とは、1時間の取材予定を大幅に上回りました。お忙しい中、お時間を割いていただいて恐縮の限りです。
そんな中、一番話が盛り上がったのは、未来のAIの世界。SF映画では、コンピューターの暴走が人類を危機に陥れることがよく描かれますが、そういった社会の到来を小林教授に尋ねたところ、「そのリスクは皆無とは言えませんが、私は人間の包容力を信じたい」という意見をいただきました。AIやIoTの普及で、多くの人たちが労働機会を失うと危惧されている昨今ですが、やはり私たちは人を信じ、人としてやらねばならないことと真摯に向き合って暮らしていく他ないのでしょう。小林教授の提唱されている「IoH」を信じて、未来に向かって歩んでいきたいものです。

お問い合わせは…

小林透研究室
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長崎大学 大学院 工学研究科 情報工学コース
小林透研究室
〒852-8521
長崎県長崎市文教町1-14
TEL・FAX 095-819-2577
toru@cis.nagasaki-u.ac.jp
URL http://www.cis.nagasaki-u.ac.jp/~toru/src/

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