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【ICTレポート】第29回 卓上型対話支援システム comuoon(コミューン) ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 代表取締役:中石 真一路氏

話す側が寄り添うことで
ひとりでも多くの難聴の人に笑顔を届けたい

話し手の音声の質を高めて難聴の方に「聴きやすい音声」を届ける「comuoon」
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こんにちは。ドリームアーク編集部です。
皆さんは、銀行の窓口で、「おばあちゃん、今日は印鑑をお持ちですか?い・ん・か・ん!」と大きな声を出して対応されている窓口担当の人を見たことはありませんか。いわゆる“耳が遠くなった”高齢の人とのやりとりの一場面です。
2007年に超高齢社会を迎え、加齢による軽度の難聴など、自分でも気づかない潜在的なものも含めて難聴の人は、推定で約1430万人余り(2015年日本補聴器工業会調べ〈※〉)もいるとされています。これは、日本人のおよそ10人に1人が難聴だという計算になります。また、ストレスやヘッドホン使用の影響による突発性難聴やヘッドホン難聴などで若年層にも増加傾向にあることが指摘されています。
これまでは、補聴器をつけることをはじめ難聴の人自身が、“聴こえの改善”の努力をしてきました。それを逆転し、話し手にも何かできることはないか、聴き取りやすい音がつくれないかと考え、話す側の音声の質を高めて難聴の人を支援するというコンセプトの下で開発されたスピーカーシステムが、今、注目を集めています。それが、卓上対話支援システム「comuoon(コミューン)」(以下、「コミューン」)です。
現在、病院などの医療機関や教育機関、金融機関において相次いで導入されている、このスピーカーの発明者であり、販売元のユニバーサル・サウンドデザインの代表取締役を務める中石真一路氏に、開発の経緯や思い、将来の夢などをお伺いしました。

※:一般社団法人 日本補聴器工業会ホームページ「国内の現状と取り組み」より(2015年調査)。
http://www.hochouki.com/about/report/program.html
難聴者及び補聴器使用者の国内推計人数は、総務省統計局発表の2015年3月1日現在の総人口(確定値)1億2689万人に、今回のアンケート結果の率を乗じて10万人単位で四捨五入したもの。

◆「コミューン」を知るために、まずは、この動画をご覧ください

“脳が言葉を聴き取りやすい” 難聴の人に寄り添うスピーカー

話す側がマイクを使ってスピーカーと向き合う難聴の人と会話をする……難聴の人に対して話し手が支援するという逆転の発想から生み出された「コミューン」。その一番の特長は、普通の音量でも難聴の人が明瞭に聴き取れるということ。
いわゆる難聴には4つの段階があって、①軽度難聴…小さな声が聴きとりにくい、テレビの音を大きくする、②中度難聴…普通の会話が聴き取りにくい、③高度難聴…大きな声でも聴き取りにくい、騒音しか聞こえない、④重度難聴…耳元の大きな声も聴き取りにくい、日常音がほとんど聞こえない、とされています。しかし、九州大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科の調査によると、「コミューン」は、軽度から中度の難聴の人の9割に効果的だとされています。
では、「コミューン」の音は、なぜ、聴き取りやすいのでしょうか。

◆“聴こえ改善”には、音を大きくすることより、明瞭にすることが重要

難聴の原因のひとつは、加齢などで高い音が聴きづらくなること。高い音は、言葉ではちょうど子音に当たる部分で、難聴の人は、子音が聴き取りづらくなることで、言葉の明瞭度が落ちていきます。つまり、音は聞こえるのだけれど、言葉として認識しにくい状態になるのです。その結果、「佐藤さん」なのか「加藤さん」なのか分かりづらくなったり、「さば」と「そば」が分からなくなったりするのです。
これは、視覚で喩えると文字にピントが合っていない状態です。ピントが合っていないと、どんなに大きくしても文字を認識することはできません。逆にピントを合わせたら、大きくすることなく文字を認識することができます。
音も同様で、歪んだ音をどんなに大きくしても言葉として認識することはできません。だから、“聴こえ改善”には、歪みのない明瞭な音声で再生することが求められるのです。「コミューン」は、子音に当たる1000Hz~10000Hz部分の音の圧力を上げています。これにより、子音の再生が明確になり、音声が聴き取りやすくなっているのです。

一般的なスピーカーとcomuoonの音圧比較グラフ
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また、通常のスピーカーでは音が拡散しますが、「コミューン」はスピーカーの振動板を、高音域の響きを強めるアルミ製のフラットなハニカム(ハチの巣)構造にするとともに、位置をボディの奥にすることで、音の直進性を高めています。そのため、高い音圧が真っすぐに伝わり、はっきりと聴こえるのです。

独特の形状が音の拡散を抑制、高い音圧が真っすぐに届けられる構造
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◆マイク・アンプ・スピーカーの三位一体で、“聴こえ改善”

「コミューン」は、スピーカーだけでは語れません。まず、音声の入口となるマイクには、雑音や環境音などの不要な集音をしないショットガンタイプを採用。人の耳の構造に模して、耳穴に当たる筒の部分と十分な面積を持った収音部により高音から低音までバランスよく音声をキャッチして、アンプ部に送ります。アンプは、歪みを抑えたナチュラルな音声信号をスピーカーに送り出し、前述のスピーカーによって“聴きやすい音声”を届けるのです。
これらの技術により、「コミューン」は、①マイクに向かって話した声が難聴の人にも聴き取れる音声に変換され届く、②スピーカーから80㎝離れていても聴き取れる、などの特性を得ることができました。

◆スピーカーに見えないスピーカーを求めた“たまご型のデザイン”

難聴の人には、従来のボックス型スピーカーは、“大音量を出す”というイメージがあるようです。リサーチの結果、多くの難聴の人たちが、ボックス型に良い印象を持っていないのが分かりました。そこで、採用されたのが、たまご型のデザイン。
これは“変化する、形を変えるスピーカー”というコンセプトに基づいて、使用するときと使用しないときで形を変えることができます。スピーカーには見えず、使う人に寄り添うやさしいフォルムを実現しています。

使わないときは、やさしいたまご型に
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◆難聴の人のニーズに応えて、多彩なバリエーションを開発

2013年の「コミューン SE」の発売以来、「コミューン」は、常に進化し続けてきました。ワイヤレスで高音質の音声を遠隔でスピーカーに出力できる「コミューン コネクト」は、話す人の行動を制限することなく、離れてもつながるコミュニケーションを実現しました。また、テレビやPCでの使用も可能にしています。「コミューン モバイル」では、ワイヤレス機能とともにバッテリーを搭載することで、持ち運びができるようになり、ベッドサイドやクルマの中での使用を可能にし、よりアクティブなコミュニケーションシーンを生み出しています。
これらの進化は、いずれも難聴の人たちの声に応えたものです。

(左)ワイヤレス対話支援システム「コミューン コネクト」
(右)モバイル型対話支援システム「コミューン モバイル」
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難聴の人が、バリアフリーでコミュニケーションできる社会をつくりたい

「コミューン」の概要は、だいたいご理解いただけたでしょうか。
ここからは、「コミューン」の開発者である中石真一路氏に、“聴きやすいスピーカー”の開発のきっかけなどの経緯や込められた思い、将来の夢などを語っていただきます。

編集部:会話の際に、話す側からも難聴の人を支援できないか、という独自の発想は、どこから生まれてきたのでしょう?
中石:私には、かわいがってくれた祖母がいました。いつも夕飯のときは横に座って、その日あったことを話したものでした。それが月日が経つにつれて、祖母はだんだん家の中での会話が少なくなり、ひとり引きこもるようになりました。きっと、おばあちゃんは、あまり自分とは話がしたくないんだなと感じ、私も近寄らなくなりました。
研究を続けてきて今分かるのは、“祖母は加齢による難聴になっていたんだ”ということです。あのとき、今の知識があれば、何かしてあげられたのに……。もっとコミュニケーションを取りたかったと。そこで、思ったのが、健聴者の人、つまり話す側が、聞き取りやすいように何かアシストするということが自然にできたらいいな、ということでした。
今は、「コミューン」を使って、祖母と同じような人たちを支援したい。祖母と同じような思いはしてほしくない。まだ残存聴力があり、「コミューン」を用いることで会話ができるのであれば、たくさんお話ししてほしい、と思っています。

逆転の発想が生まれた経緯を語る中石さん
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編集部:私たちは、視力が弱まってくると近視用だとか老眼用だとか、敏感に眼鏡を手に入れますね。でも、耳が聴こえなくなってきたといっても、あまり積極的に対処しようとしません。これは、いろんな人に当てはまることだと思うのですが、このような風潮について、どうお感じになっていますか?
中石:全体的に“聴こえ”についての関心度が低いと思います。聴こえにくくなると人は話さなくなります。会話のキャッチボールができなくなっていくのです。高齢になって聴こえが悪くなると周りの人の話に十分ついていけなくなって、少しずつ人と関わることを避けるようになったり、外に出るのも控えるようになります。人に関わらなくなることが認知症に大きく関係しているという研究も報告されています。
胎児は、20週で音を感じはじめるといわれています。生まれる前から聴こえの準備がはじまっているのです。聴覚は、情報収集や言葉の習得など、人が社会で生きていくうえで大切な役割を担っています。その重要性を私たちはもっと理解する必要があると思います。

編集部:続いて、実際に「コミューン」を開発されるまでの経緯や、その中で特に苦労されたことなどを教えていただけないでしょうか?
中石:私は、大手レコード会社に勤めていて、音を遠くに飛ばせる次世代スピーカーの開発に携わっていました。ある日、ひとりの難聴の人が私たちのところにやって来て、たまたま来られたんですが、研究中のスピーカーの音を聴いて、「この音、聴きやすいね」と言ったんです。私は、その言葉がとても気になりました。頭から離れなくなったんですよ。そして、なぜ、聴こえやすいのだろう? その理由をもっと知りたい、とことん調べてみたい、と思うようになりました。
それで、会社に“難聴の人向けのスピーカーの開発”を提案しました。でも、「どうして、そんなものをつくるんだ?」と会社は提案を一蹴しました。半ばあきらめていたのですが、そこに3.11(東日本大震災)が起こりました。周りのアーティストや音楽関係者たちは、「音楽は無力である」という言葉に大きく傷ついていました。しかし、私は、そうは思わなかった。そこで、もう一度、会社に掛け合って、難聴の人にとって聴きやすいスピーカーの開発を提案したのです。このときは、NPOを立ち上げて、自分で行う、会社には迷惑をかけないという条件を提示しました。それでOKをもらったんです。
NPOで研究を進めるうちに、ちらほらとマスコミが取り上げてくれるようになっていきました。そして、問い合わせがたくさん来るようになったんですね。そうなると、本格的に製品化していく必要が出てきて、ちょうど、会社も合併して、私のやらなければならない仕事も一段落していたので、決心して会社を辞めて、開発に集中することにしました。2012年6月のことです。
第1号機は、難聴の人たちから大不評でした。それから、つくってはダメ、つくってはダメの繰り返し……。いったいいつまで続くのか、不安な日が続きました。それでも、翌年2013年には「コミューン」をデビューさせることができました。
まだまだ知名度が低く、皆に知ってもらうために全国各地を飛び回り、試聴会を開催して体験してもらいました。そんな中、「ばあちゃんのためにとかきれいごとを言うが、どうせ商売したいだけだろう」などという声が聞こえてきたりもしました。難聴の人にも聴きやすいスピーカーは、皆に喜んでもらえると信じていたのに……とても辛かったのを憶えています。でも、時間をかけて話をしていく中で、理解してくださる人たちも現れてきた。とてもうれしかったですね。

手前に並ぶのは、これまでにつくられたさまざまな試作機
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編集部:中石さんは、積極的に難聴の子どもたちへの支援も行っていらっしゃいますが、その活動の中で心に残るようなエピソードはありますか?
中石:たとえば、話をするときは、相手の口元を見なければ会話できないような高度難聴の小学3年生の男の子が、「コミューン」を使うことで、先生の質問にも手を上げて答えられるようになりました。この子は、「一度使うとやめられないきかいです。開発してくれてありがとうございます」と私に手紙を送ってくれました。この手紙は、もっといいモノをつくろう!という私の励みになっています。
聴こえにくい子どもたちは「コミューン」があることによってチャレンジできるようになります。また、聴こえにくい人たちに何とかして伝えようと思っている人たちも「コミューン」を使えばチャレンジできます。今までは、お互いに諦めていたことにチャレンジできるようになる……「コミューン」は、そんな、人に勇気を与えることができるスピーカーだと思っています。

中石さん宛てに送られてきた、子どもたちからのお礼状の数々
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編集部:ところで、「聴こえ」は聴く人の感覚的なものだといわれていますが、「コミューン」の効果が脳科学的に実証されたと伺っています。
中石:その検証は、2016年2月に広島大学で行われました。被験者は、補聴器を外すとほとんど何も聞こえない重度難聴の16歳の少女。彼女に、“ニ”の連続した音に不定期に“ミ”の音を混ぜたものを普通のスピーカーと「コミューン」でそれぞれ再生して聴いてもらい、“ミ”を聴いた時の脳の反応を比べるという実験でした。聴覚野がちゃんと「コミューン」からの音声を聴き取っているかを検証することを目的にしていました。聴き取っていることが分かる波形が現れ、実験は成功しました。この研究成果が米国脳科学関連学会「14th Annual World Congress of Brain Mapping and Therapeutics」および、「第118回日本耳鼻咽喉科学会通常総会・学術講演会」にて発表され、米国神経学関連誌「NeuroReport」に2017年8月に掲載されたことでさらに高い評価をいただくようになりました。

編集部:最後に、中石さんが想像されている「コミューン」がつくり出す未来像を教えていただけますか?
中石:言葉として聴き取れなかった人が、聴き取れるようになると、表情が変わります。そして、しっかり聴くようになります。やがて、質問しはじめて、ついには会話が弾むようになるのです。難聴の人のほとんどは、ただ聴きたいのではなく、コミュニケーションしたいのです。そのためにも“聴こえる”ことが大切になります。だから、私は「コミューン」を通して、“聴こえる環境”を用意して、みんなを幸せにしたいと願っています。QOL(Quality Of Life)という考え方がありますが、私はQOC(Quality Of Communication)を提唱しています。これは、“聴きやすい音”を使って、コミュニケーションの質を高めることで、生活が豊かになるというものです。
私は、音をどれだけ伝えられるか、ということしかできないのですが、世界をもっと難聴の人たちにやさしい環境にしていきたいと願っています。そういう意味でも、海外進出を考えています。
難聴の人がこれまでできなかったことが、ひとつずつできるようになっていく。難聴の人が不自由なくコミュニケーションが取れる世の中になっていく。そんな未来をめざしています。

編集後記

取材の際に、参考資料として、これまで中石さんを取材した報道番組のDVDをいただき、見せていただきました。実際に「コミューン」を使われているユーザーの方々がたくさん登場されていました。
後天的に難聴になった方は、音のない世界にいることに恐怖を感じ、死んだ方が楽と考えがちになるようです。
そんな地獄のような思いを救ってくれるのが「コミューン」なんだ、とDVDを見て実感しました。そして、難聴の人本人だけでなく、その家族、周りにいる人たちまで笑顔にするパワーがあることも理解できました。
孫が生まれる1カ月前に難聴になった女性は、初めて孫の本当の声が聴けたと涙を流していました。聴こえなくなって会話できなくなった女性は、聴こえるようになって、会話できるようになり、家族を驚かせました。
このような笑顔の輪が、全世界に広がっていったら……と願っています。
中石さんは、DVDの中で、「働く」という字の意味を語っていました。「人が動くから働くとよく言いますが、私は“人の重きを取り払う力”が働くことだと思います」と。
これからも、その思いを胸に、笑顔を広めていってください。ありがとうございました。

企業情報
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