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【ICTレポート】第28回 株式会社トライン

社会貢献から社会改革へ。毎年ひとつのアプリ開発で、発達障がいのある人と社会をつなぐ、ITダイバーシティを掲げる企業。

インタビューに応じてくれた代表取締役の下坂清周(しもさか きよかね)氏
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こんにちは。ドリームアーク編集部です。
皆さんの周囲に、こんな人たちはいらっしゃいませんか?

◎計算や長文読解が苦手で、誤字脱字など書類の間違いを多くしてしまう人。
◎よく忘れ物をしたり、仕事が多くなるといっぱいいっぱいになって、あたふたしている人。
◎思ったことはすぐ口に出し、持論をぶつけて、いつの間にか喧嘩をしてしまう人。
◎他人の意見やアドバイスを頑なに聞いてくれない人。
◎自分の気持ちや、困っていることがうまく表現できない人。
◎周りの人に合わせようと自分を押し込めて無理をしている人。

いわゆる「空気が読めない人」「不思議ちゃん」と呼ばれてしまっている人たち……どこにでもいそうな人たちですよね。でも、これらは発達障がいを持つ人たちの特徴の一部分でもあるのです。今、自分が発達障がいを持っていることを自覚されている人はもちろん、その傾向を持っているのに認定されていない人まで、多くの人たちが社会になじめなくて困ったり、悩んだりしています。
そんな中、発達障がいの人の行動理由や、そうした人たちへの指示方法などを当事者と企業・社会の両方に理解してもらって、お互いに受け入れられる社会をつくっていこうと活動されている会社があります。
それが、株式会社トライン。大阪三大祭のひとつ「天神祭」の主催社・大阪天満宮のお膝元にあるオフィスにおじゃまして、代表取締役の下坂清周氏に発達障がいについての思いをお伺いしてきました。

「障がい者向けIoT」を活用し、社会につなげるアプリを毎年開発

「発達障害者支援法」の第十条3に、発達障がい者への就労支援について以下のような記述があります。

事業主は、発達障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の発達障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない。

このように書かれていますが、「有する能力を正当に評価」し、「個々の発達障害者の特性に応じ」るためには、企業側が発達障がい者のことを理解しなければなりません。しかし、両者の間には、大きな壁が存在していることも確かなことです。
それらの壁をなくそうとトラインが開発したのが、以下の3つのアプリです。いずれもWebアプリということで、ダウンロードやインストールの必要がなく、アクセスして、IDとパスワードを入力するだけで使うことができます。また、スマホやタブレット、PCなど、どの端末でも使用できます。
では、2015年から毎年ひとつずつ開発されてきたアプリについて、説明していきましょう。

スタンプや音声で気持ちを伝えるコミュニケーション支援アプリ
「TOMONI-ともに-」 (2015年リリース)

「TOMONI」画面(写真左)と、PCを持っていない方のためにスタンプをシート化したもの(写真中央・右)
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トラインが初めて世に問うた支援アプリです。
気持ちの整理や表現が苦手な、発達障がいのある人たちが、スタンプや音声読み上げ機能を使って、会話をすることができます。スタンプは「あいさつ」「きもち」「したい・します」など12種類のグループがあり、約800種類用意されていて、それぞれに音声読み上げ機能が備わっています。
リリース以来、なかなか本音を伝えることができない発達障がい者の人たちにも「これなら安心して気持ちを伝えることができる」と好評。また、コミュニケーションツールだけでなく、本当の自分の感情を認識するためのプラクティスツールとしても活用されています。
これまで3000人以上が登録し、アクティブユーザーは平均で300人ほど。スタンプは、リリース以来好評で追加を続け、現在、約600種類のスタンプがシート化もされており(上写真)、今後も種類を増やしていく予定です。

●詳しくは…
「TOMONI」ホームページ
https://e-tomoni.jp

自己認識につながる発達障がい者向け
ソーシャルスキルeラーニングトレーニングアプリ「SSeT(セッテ)」 (2016年リリース)

「SSeT」使い方の説明
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大阪市が、新たな需要の創出が期待できる製品・サービスの事業化に向けてプロジェクトのブラッシュアップなどをサポートする「大阪市トップランナー育成事業」に認定されている、トラインの支援アプリ第2弾。発達障がい者と企業をつなぐアプリ開発プロジェクトの一環として開発された、発達障がい者が会社などで働きやすくするためのコミュニケーション支援アプリです。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは、人が社会で生きていくために欠かせないスキルを身につける訓練のことです。発達障がいのある子どもなどに対して効果があるとされ、学校や療育施設、病院などで利用されています。これを、大人の社会人に向けて適用したのが「ソーシャルスキルeラーニングトレーニング」=「SSeT(セッテ)」なのです。
会議やあいさつなど、会社における様々なシーン(全33シーン)の対応について135の設問を設定。シーンにおける感情を3択で答えてもらいます。「Good(よい)」「Close(惜しい)」「Bad(よくない)」に分けた解答と解説を提示し、全て解答すると「振り返り」を表示して、発達障がい者の自己認識に役立ててもらっています。実際に使用された人たちからは、「もっと内容を濃く(さらに詳細なシーン設定を)」「もっとたくさんのシーンについての設問を追加してほしい」という声が寄せられています。それらの声に応えて、今後、設問を増やしてく予定です。
このアプリ開発は、「まず、当事者に無料リリースして、データ収集。それらのデータを分析し、企業向けアプリをつくり、発達障がい者と企業をマッチングさせる」という計画の下で進められました。学術的なバックアップは、鳴門教育大学准教授で、日本ぺアレント・メンター研究会事務局長も務める小倉正義氏が担当。1500人以上の貴重なデータを集めることができました。

●詳しくは…
「SSeT」ホームページ
http://www.trein.jp/sset/index.html

発達障がいのある人と企業のマッチングを図るeラーニングアプリ(読み物アプリ)
「定着!はったつさん」 (2017年リリース)

(左)「定着!はったつさん」アプリの一部
(右)施設向けハンドブックとして発行
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前年にリリースされた「SSeT」で得た1500人のデータを基に、雇用主である企業向けSSeTとして開発された支援アプリ第3弾(大阪トップランナー育成事業認定)。発達障がいのある人を「はったつさん」と呼ぶことで、親近感を醸成しています。
はったつさんをその特徴に合わせて、学習障がい(LD)と注意欠如・多動症(ADHD)による〝不注意〟の気質を持つ「のんびりさんタイプ」、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)による〝衝動性〟を併せ持つ「せかせかくんタイプ」、自閉スペクトラム症(ASD)の〝受動型(自分の気持ちを表現するのが苦手で、押し込めがち)〟の気質を持つ「ふしぎさんタイプ」の3つの仮想キャラクターに設定し、日々の仕事の34ジャンル100シーンでの各はったつさんの気持ち=「行動理由」、はったつさんの気持ちの原因=「学術的背景」、企業の対応の仕方=「指示方法」を詳説します。使用者は、特定キャラクターだけを選んで対応を学ぶこともできます。
料金設定は1アカウント3カ月1万円、リリース以降、約30社のユーザーが契約し、ホテル業界や教育・行政機関などから業種に合わせてカスタマイズしてほしいという声も寄せられているそうです。
また、アナログ対応への要望も強く、現在、書籍化が進められています。全5冊が予定され、最初の1冊が2018年2月に発売。2月9日から11日まで、滋賀県で開催された障がい者フォーラム「第22回アメニティフォーラム」でリリースされました。

●詳しくは…
http://hattatusan.com

「はったつさん」を受け入れる素地は、社会の方が持つべき

「障がい者だからといって社会に出られないことはない。何かハードルがあるわけでもない。問題は、企業や社会にある。企業や社会は障がい者のことをもっと知るべき」と下坂さんは考えています。「受け入れる素地を持たなければならないのは企業や社会である」ということです。
そんな考えが基本にあるからこそ、前述のような年にひとつの支援アプリ開発が実践されてきたのだと思います。当事者だけでなく、企業を巻き込んで、お互いに当事者意識を持ってもらうことで、社会に大きなうねりを生み出したい、ということなのです。

企業や社会のありようについて熱く語る下坂さん
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下坂さんは続けます。
「はったつさんが、自分と周囲の関わりを理解することで“自分も受け入れられている”という意識を持てるようにする。一方で、企業がはったつさんの特性を理解することで“受け入れることができる”企業(社会)環境をつくる。だから、はったつさんには自分のことをしっかり認識してもらい、企業(社会)には、課題を抱える人たちを理解し、受け入れる体制を整えて、どういう気づかいをすべきか、反対に気づかいをしすぎてはならないことなども理解する必要がある。これが、私たちトラインの存在意義の柱と考えています」
はったつさんの傾向を知れば、企業や社会は、はったつさんを追い詰めなくても済みます。これが、いわゆる多様性の理解ということです。また、はったつさんが自分を振り返ることで自己認識することができたなら、自分の可能性を発見することにつながります。その結果、包括的かつ多様的なダイバーシティ&インクルージョンが達成できるのでしょう。
「はったつさんを理解することは、ある意味、“異文化交流”に似ています。そこには、未だ知らぬことを知るワクワク感やドキドキ感があふれています」と下坂さんは笑顔で話してくれました。

労働人口は、今後、確実に減少していきます。大卒の男子で日本人、しかもがんばり屋……そんな人材はなかなか確保できなくなるでしょう。中小企業では、さらに人材確保は困難になるはずです。このような状況の中、より多様な労働力が求められています。
「はったつさんにとって、企業は、厳しい・叱られる・ダメ出しされる……そんな“守ってくれないところ”と思われがちです。一方で、支援施設は、褒めてくれる・慰めてくれる……そんな“守ってくれるところ”。中には、支援施設2年→企業1年というサイクルで両所を繰り返し行ったり来たりする人もいます。自立した労働力になり得ていないのです」
と下坂さん。続けて……
「はったつさんと企業をつなぐ支援アプリの開発はもちろんですが、企業と支援施設の中間的な場所がつくれないかと考えています。この活動では、はったつさんにプログラミング、デバックコード処理、画像&動画処理などのITを学んでもらうことを考えています。それは、“学び合い”ができる環境を整えた、学習フロアのような場所で行います。そして、一定期間学んだ後、就職・独立してもらう。はったつさんがIT人材として育っていくしくみづくりをしていきたいのです」。
IT人材の求人倍率は、他の有効求人倍率の3倍ともいわれています。下坂さんは、その不足のところではったつさんが働けないか、と考えているのです。

ぺアレント・メンター(※)となったことで得たキーワード
「ITダイバーシティ」を活用して、社会にうねりを生み続けていきたい

山口県に生まれた下坂さんは、地元のインバウンド系出版社に9年間勤めた後、1999年に大阪のIT企業に入社。このIT企業で、関西の金融機関のネットバンキングやWebサイト、勘定系システムの構築に携わることになります。
「企業のコンプライアンスやハラスメントに携わる中、ぺアレント・メンターとなり、障がい者向けのITトレーナーとなりました。その流れの中で、“もっと社会の役に立つことがしたい、社会に出た発達障がいのある人たちが、どんなことで悩むのか、どんな選択をすれば社会に受け入れてもらえるかの解決策を見つけたい”と思いはじめたんですね。そして、“自分が培ってきたIT技術を使って、社会的インパクトを投げかけることで、社会に波風を起こすことができないか”という夢を持ちはじめました」

※:ペアレント・メンター……自閉症などの発達障がいのある子どもを育てた経験がある保護者などで、同じく発達障がいの診断を受けた子どもをもつ保護者などに対し、自身の子育ての経験から相談にのったり、情報を提供したりするボランティア支援者。ペアレントparentは親、メンターmentorには信頼のおける相談相手という意味がある。

数々のアプリを生みだすトラインのオフィス
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そして、15年間勤めた会社を辞して、2014年に独立。BtoBのIT系制作会社である株式会社トラインを設立します。現在、①Webサイト制作、②コンテンツ開発、③システム構築、④アプリ開発、⑤ITコンサルタント、⑥ITダイバーシティ推進、⑦企業向けCM動画撮影、という7つの事業を柱に活動しています。そんな中で、大きなミッションであった障がい者向けIoT事業も実施。それが、前述してきた支援アプリの開発です。
「弊社はIT企業ですが、デジタルの仕事だけで終わるつもりはありません。今後は、出版・講演などへ事業領域を拡大させ、デジタルとアナログの融合でダイバーシティを世に問うていきたい」と下坂さんはきっぱりと語ります。その一環として、「一般社団法人 あいともに」も設立。TOMONIをはじめ、アプリの運用・展開や障がい者就労施設でのパソコンやタブレット導入の支援などを実施して、社会との橋渡し役を担っています。
「何かをしなければ、社会は変わりません。まだ小さい組織だけれど、発信し続ければ、何らかのバイラル(情報の広がり)を生み出すことができます。そのつながりが、どんどん大きな輪となって、やがては社会を変えていく力になると考えています」

一歩ずつ着実な歩みを重ね、毎年ひとつのアプリを開発(今年度は書籍を発行)し続けるトライン。下坂さんのダイバーシティへの夢は、少しずつ、確実に形になっていっているようです。

編集後記

「独立系IT制作会社なので、代理店もスポンサーもなく、自己資金でがんばっています。まさに背水の陣ですね」と話されていた下坂さん。
種をまかなければ、芽は出ません。花を咲かせることもできません。
境界線の間際にいて、認定されていない人も多いといわれている発達障がいのある人たち。そんな人たちも活躍できる社会に、という下坂さんの夢の種は、元気な芽を成長させているようです。
いつの日か、大輪の花を咲かせられることを祈念しております。

―会社・NPO法人概要―

株式会社 トライン
〒530-0054
大阪市北区南森町1-1-25-7C’
TEL.06-6360-4175
FAX.06-6360-4176
MAIL:info@trein.jp
URL:http://www.trein.jp/

一般社団法人 あいともに
〒530-0054
大阪市北区南森町1-1-25-7C’
FAX.06-6360-4176
営業時間/10:00~19:00(平日)
定休日/土・日・祝日
MAIL:info@aitomoni.com
URL:http://www.aitomoni.com

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