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【ICTレポート】第22回 NTTサービスエボリューション研究所『MaPiece(まっぴーす)』

誰もが安全で快適な移動ができるように。NTTの考える「ダイバシティ・ナビゲーション」を実現する、バリアフリー情報収集技術。

MaPiece(まっぴーす)

2006年12月20日の「バリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)」施行以来、日本各地の市町村で駅周辺や公共施設などのハード面でのバリアフリー化が進められてきました。
このハードウェアのバリアフリー化と並行して、路面状態や幅員、段差などの情報と多目的トイレ、スロープ、エレベーターなどの公共施設の情報を収集したバリアフリーマップの作成が、自治体や社会福祉協議会、ボランティア団体などの連携によって進められてきました。
そのような中で、バリアフリーマップに関する様々な課題が見えてきました。まず、制作はNPO団体やボランティアにより情報収集が行われることが多いのですが、参加する人の多くは調査の専門家ではないので、調べた情報の入力基準などがまちまちになりやすく、統一性が取りにくいということです。いかに均一な情報を確保するかが大きな課題となっているのです。
また、いったんマップをつくったもののヒューマンパワーの不足などにより、なかなか更新がままならず、時間が経つうちに地図上の情報と実際の場所の状態にギャップが生じてしまうなどの問題が指摘されたりということが聞かれます。
そんな過渡期にあるバリアフリーマップ制作の現場で、今、画期的な実験が進められています。それが、NTTサービスエボリューション研究所が開発している、バリアフリー情報収集技術「MaPiece(まっぴーす)」。誰もが安全で快適な移動ができるようになるためのバリアフリー情報を、専門知識がない人でも簡単に収集できるICT技術です。今回は、その概要をレポートするとともに、研究・開発を担当されている小西宏志さんと山本千尋さんに、「MaPiece」の概要や将来展望についてお伺いしたお話をお届けします。

 
今回お話を伺った研究主任・山本千尋さん(左)と主任研究員・小西宏志さん(右)
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「MaPiece」とは、専門知識がなくてもバリアフリー情報の収集ができる、
「ダイバシティ・ナビゲーション」実現ツール

◆「MaPiece」とは何か?

「MaPiece」の基本には、日本電信電話株式会社(NTT)が推進している、「ダイバシティ・ナビゲーション」の実現というコンセプトがあります。「ダイバシティ・ナビゲーション」とは、車いすなど障がいのある方はもちろん、高齢者や杖を使われている人、妊産婦や乳幼児を連れた方など、多くの人が望んでいる安全で快適な移動のニーズに応えるために、必要な情報をシームレスにつなぎ、移動を最適に支援すること。
「MaPiece」は、車いすやベビーカーを利用する方が移動の際に必要とする情報を、ICTを活用して収集することで「ダイバシティ・ナビゲーション」の実現をサポートします。

 
「ダイバシティ・ナビゲーション」図解
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「MaPiece」などを活用したナビゲーション・サービスイメージ
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◆「MaPiece」に使用される2つの技術

現在、様々なエリアで実証実験の進む「MaPiece」には、大きく2つの技術が使用されています。

1. タブレット端末を使用した現地調査ツール

これまで、各自治体などによりバリアフリーマップが作成、公開されていますが、その作成基準はまちまちで、そのためナビゲーションに必要な情報が不足していることもあります。かといって計測会社に依頼するとコストが高くつき、作成や更新が頻繁に行えず、調査したデータが古くなるなどの問題がありました。
しかし、「MaPiece」は、国土交通省の「歩行空間ネットワークデータ整備仕様案」(※1)を基に、ナビゲーションに必要な最小限の調査項目を選定し、さらに調査基準を定めての選択入力方式を採用する(たとえば、段差のある場合は「○㎝以上○㎝未満」など、あらかじめ複数の数値を設定した中から選ぶなど)といった情報の整理・工夫を行うことにより、詳しい知識のない調査員でもタブレット端末を持って直接現地を調べ、情報を入力できるようにしました。
このことにより作業時間・費用も、従来の計測会社の測量による作成の場合と比較して、1/10のコストでナビゲーションに必要な情報を集めることが可能になります。

※1:国土交通省「歩行空間ネットワークデータ整備仕様案」ページ
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/soukou/seisakutokatsu_soukou_tk_000026.html

 
「MaPiece」に使われる現地調査ツールの画面例
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○現地調査ツールの概要

調査員は階段やスロープの有無、段差、一方通行か双方向通行か、手すりが設けられているかなどの情報を、タブレット端末の画面上で、各条件の項目にチェックを入れ、入力していきます。これまでNPOのボランティアの方などが、紙とペンを用いた手書きで行っていた現地調査が、簡単な画面操作でできるようになっています。また、調査する条件項目は、実際にこうしたナビゲーションを使われる車いす利用者などにヒアリングを実施して、実使用に則したものを選んでいます。
入力された情報は地図上にプロットしていきます。目的地(設備・施設など)の表示にはカラーアイコンを採用し、誰もが見てすぐにわかるように工夫されています。

 
タブレット端末での情報収集の概要
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実際の入力画面(左2点)と情報をアイコンにしてプロットした画面(右2点)
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収集した情報を実際のバリアフリーマップに展開する際のイメージとしては、収集した現地情報(階段やスロープ、段差の有無、一方通行か双方向通行か、手すりなどの設備があるか、屋根があるかなど)を基に、最適な経路を選定して表示。さらに、赤=健常者、橙=杖、青=車いす・ベビーカー使用者など、ユーザーによって、表示する経路の色を変えてわかりやすくする方法などを検討しています。

 
(左)ユーザー別進行可能経路の表示画面。ユーザーごとにアイコンの色が異なる
(右)最適経路表示画面。アイコンの色と表示された経路の色のリンクにより、各ユーザーに最適な経路がひと目でわかる
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2. 自動的に路面状況を抽出するクラウドセンシング技術

カバンやポケットにスマートフォン端末を入れてユーザーが歩くだけで、どこに段差があるか、どこにスロープがあるかなど、歩いたところの路面状況を自動的に抽出できるのが、クラウドセンシング技術です。
収集した歩行データを分析することで、道の平坦さや段差、傾斜などの路面状況を検出し、車いすなどが通れる平坦な道を推定するというもの。スマートフォンに搭載されるGPSや加速度計などのセンサ技術を活かしたもので、現在、研究・開発中です。

 
「MaPiece」に使われるクラウドセンシングによる路面状況分析技術のイメージ
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そもそもバリアフリー情報とは、車いすの方やベビーカーを押している方、杖を使っている方などが移動されるときに必要な情報のこと。それは、移動の際に避けるべき段差や階段の情報や、移動する際に必要となるエレベーターなどの情報です。
たとえば、車いすだと、出入り口に段差があると、その施設に入ることができません。横断歩道に段差があると登れなくて車道に留まることになり危険です。また、勾配が急になってくると上り下りができません。さらに、横方向の傾斜があるとまっすぐ進めなくてたいへんです。このようなバリアに関する情報をきめ細かく収集し、ナビゲーションに活用することを目的としているのが「MaPiece」なのです。

 
車いす利用者に対するバリアの例
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いろんな人が集めた情報=ピースが関わって、
ひとつの地図=マップをつくりあげる。それが、「MaPiece」

ここからは、「Mapiece」を開発されている主任研究員の小西さんと研究主任の山本さんに、開発の経緯や苦労したこと、現在の状況、そして将来の展望などについてお伺いしていきます。

編集部:「Mapiece」は、いつごろから開発がはじまったのですか?
山本:2015年4月に検討を開始しました。もともと、私達のチームでは地図関連技術の開発に取り組んでいました。そこへ2020年のオリンピック・パラリンピックの開催地が東京に決まり、様々な方が日本を訪れることになるだろうということから、バリアフリー化を進める動きが活発化しており、その中で弊社も、地図関連技術の検討を行なう中でバリアフリーへの取り組みを始めました。

編集部:スタートから2年ほどで、ここまで開発が進んでいるスピード感は驚きですが、これまで苦労された点はどんなことでしょうか?
山本:技術的なことに関していえば、これまで地図関連技術に取り組んできた背景はありましたが、バリアフリー関連のナビゲーションという観点で、まずバリアフリーマップの作成に携わっている方や、ナビゲーションサービスを実際に使われる方々のニーズを把握することが大切だと考えました。
そうした方々へのヒアリングを行ったのですが、その中で、「(バリアフリーマップを作るにあたり)収集した情報をイラストレーターで書き起こししているんです」とか、「収集基準が制作先によってバラバラで情報共有が難しい」などの声を聞いて、バリアフリーマップを作成する自治体やNPO法人などの抱える課題を知り、求められていることに応えて、かつ誰もが使いこなせるものにしなくてはいけない、ということを強く思いました。

編集部:他にはどんな声がありましたか?
山本:まず、「普段の生活圏ではなく、たまにしか訪れない場所の確かな情報を知りたい」「公共設備だけでなく生活を楽しむための施設に関する情報がほしい」「車いすや電動車いす、杖、徒歩、ベビーカーなど移動の仕方は多様なので、それぞれの移動形態ごとに確実に通れるルートを知りたい」などのニーズがありました。これらを参考に開発をすすめています。

 
「現場の声を聞くことが開発の要」と話す山本さん
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編集部:これまでいくつくらいのエリアで実証実験を実施されましたか?
小西: 国土交通省「高精度測位社会プロジェクト」の実証実験のデータ収集において、「新宿駅」「東京駅」、および「日産スタジアム」「成田空港」の4カ所で「MaPiece」が活用されました。特に、新宿駅エリアにおけるバリアフリー情報調査では、オリンピック・パラリンピック等経済界協議会協力のもと、約1,800地点のデータ収集が行われました。また、「ジャパンウォーク in TOKYO/2016秋」という、オリンピアンやパラリンピアンといっしょに街を歩いてバリアフリーを考える取り組みで、弊社が提供させていただいたバリアフリーマップ「ジャパンウォーク・ガイド」でも、「MaPiece」で収集されたバリアフリー情報が活用されています。

 
「ジャパンウォーク・ガイド」Webサイトでの実際の活用事例
「MaPiece」で収集したバリアフリー情報をサイト上の地図に掲載
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編集部:実際に「MaPiece」を使って情報収集された方はどんな感想をお持ちでしょうか?
小西:「MaPiece」を使用すれば、バリアフリーについて詳しい知識のない方でも、簡単に調査を行なうことが可能です。また、通常であれば傾斜計やカメラなど、計測のためのツールが必要な部分を、「MaPiece」の機能として持たせることで調査を簡易化し、さらに情報のコピーなども簡単にできるなど、入力の省力化も図れます。その結果、「便利だね」という声をたくさんいただき、おおむね好評なようです。ボランティアの学生さんたちからも「調査に関する専門的な知識がなくてもどんどん情報収集できる」という言葉をいただいています。
ただ、選択式の調査基準の表記について、「“車いすに支障のある経路”などといった表現は漠然としているのでわかりにくい。もっと具体的に“砂利道で移動しにくい”などの表現にしてほしい」といった意見もいただいています。このような声を開発に活かして、さらに多くの人が簡単に情報を収集できるようにしていきたいと考えています。

編集部:現在は、どんな体制で開発をしておられますか?
小西:現地調査ツールチームとクラウドセンシングチームの2チーム、計5人のスタッフで開発を行っています。これまでは現地調査ツールを充実させてきましたので、来年度からはクラウドセンシングに比重を移していきたいと考えています。
クラウドセンシングによって、収集した情報の更新を行ったり、現地調査ツールでは収集できていなかったエリアのバリアフリー情報を補うことができるでしょう。クラウドセンシング技術やあらゆるモノが繋がるIoTの発展によって、通れる道を自動検出することなどが可能になれば、将来的には、タブレット端末での入力ではない形で、広域のバリアフリー情報を自動収集・更新する技術が実現できると思っています。そういった社会的課題の克服を目標に、NTTグループのAI(人工知能)関連技術「corevo®(コレボ)」(※2)を活用した取り組みを進めています。

※2:corevo®公式ホームページ http://www.ntt.co.jp/corevo/

編集部:「MaPiece」の将来への展望を聞かせてください。
小西:オリンピック・パラリンピックが開催される2020年のこともあるので、現地調査ツールに関しては、それ以前に実際にリリースできるよう改善を進めていくつもりです。クラウドセンシング技術については、これからも精度を高めつつ実証実験に移行していきたいと考えています。
将来的には、「MaPiece」をバリアフリー情報収集に広く活用していただき、収集した情報をサービスなどに利用していただくことが重要だと考えています。

 
「社会に役立つ情報収集ツールに育てていきたい」と小西さん
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編集部:最後に「MaPiece」のネーミングの由来をお教え願えますか?
山本:これは「Mapマップ」+「Pieceピース」の合成語なんです。これには、「いろんな人が集めたバリアフリー情報=ピースを集めて、ひとつの地図=マップをつくりあげる」という思いを込めています。

編集部:ありがとうございました。「MaPiece」とは、皆でバリアフリー化を進めていこうというツールなのですね。これからも、すばらしい研究・開発を続けていってください。本日は、お忙しい中、貴重な時間をいただきまして、本当にありがとうございました。

編集後記

かつては、特撮ヒーロードラマのロケにも使われたというレトロな雰囲気いっぱいの施設の中で、今回の取材は進められました。受付では、ロボットがお出迎え。まさに、先進の技術の研究・開発が行われている!という空気感にあふれていました。
東京オリンピック・パラリンピック、ラグビーワールドカップ、世界マスターゲームズ、まだ立候補段階ですが万国博覧会など、2019年から2021年周辺は、国際規模でのイベントが目白押しです。そんな中、障がいのあるなしに関わらず、誰にでも役立つバリアフリーマップの制作は急務となっています。早くに「MaPiece」が実際にリリースされ、頼れる移動のサポーターになることを切に願っております。

―「MaPiece」についてのお問い合わせ先―
NTTサービスイノベーション総合研究所 企画部 広報担当
Email:randd@lab.ntt.co.jp
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