1. ホーム
  2. 【ICTレポート】第21回 「生活支援ロボットHSR(Human Support Robot)」

【ICTレポート】第21回 「生活支援ロボットHSR(Human Support Robot)」

TOYOTAが、手足に障がいのある人などの家庭内での自立生活をアシストする、生活支援ロボットを開発中。

 
デモンストレーションで床に落ちているペットボトルを拾いあげるHSR
*クリックすると大きな画像が開きます。

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)によると、2035年のロボット産業市場の規模は約9.7兆円で、そのうち、サービス分野に関わるロボット市場の規模は全体のほぼ半分を占める約4.9兆円に上ると予測されています(※1)
そんな中、2015年に経済産業省が発表した「ロボット新戦略」には、“2020年までの5年間について、政府による規制改革などの制度環境整備を含めた多角的な政策的呼び水を最大限活用することにより、ロボット開発に関する民間投資の拡大を図り、1000億円規模のロボットプロジェクトの推進を目指す。”(※2)と謳われています。また、“その際には、ロボットが単なる人の代替物として機能するのではなく「人と補完関係にあり、人がより高付加価値へシフトできるようなパートナーとしてのロボット」を有効活用するという視点を掲げていくことが重要である。” (※2)とも指摘されています。
これらの“ロボット革命”とも呼べる新戦略において、重点領域のひとつに挙げられている介護分野では、“2020年に介護ロボットの国内市場規模を500億円に拡大”、“最新のロボット技術を活用した新しい介護方法などの意識改革を図り”、介護する人・される人ともに介護ロボットの利用意向を引き上げることなどが目標に掲げられています(※2)
今、ロボット産業には、政府や財界、研究機関など、さまざまな分野からの熱い視線が集まり、数々の団体や企業が参入して、生活を支援するロボット、いわゆるサービスロボットの研究・開発が進められています。そのような中、「モノづくりを通じての豊かな社会づくり」という創始者の理念に貢献するべく、工場で培った産業ロボット技術を発展させて、自動車技術やICT技術やその他の最先端技術を組み合わせ、ロボットの開発に取り組んでいるのがトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)です。
今回のICTレポートは、「第39回 国際福祉機器展」が開催されている東京ビッグサイトのトヨタブースを訪問して、ロボット開発の現状についてお伺いしました。

 
「第39回 国際福祉機器展」の会場、東京ビッグサイト
*クリックすると大きな画像が開きます。

今回、ご紹介するのは、トヨタが開発を進めているロボットの中でも“パートナーロボット”と呼ばれる領域にある“生活支援ロボットHSR(Human Support Robot)”。レポートの前に、まず“パートナーロボット”について説明したいと思います。

※1:NEDO「2035年に向けたロボット産業の将来市場予測①」より
  http://www.nedo.go.jp/content/100080673.pdf
※2:経済産業省「ロボット新戦略 Japan Robot Strategy -ビジョン・戦略・アクションプラン-」 ロボット革命実現会議 第1章第3節第2項「ロボット革命で目指す三つの柱」より
  http://www.meti.go.jp/press/2014/01/20150123004/20150123004b.pdf

「やさしさ」と「かしこさ」を兼ね備えて
人をサポートする“パートナーロボット”

パートナーロボットは、“パートナー”という言葉が示すとおり、人のパートナーとして人をサポートするロボット。トヨタは、これからの「医療・介護・福祉」「移動」「生活」「仕事」といった様々な暮らしのシーンで、屋内から屋外まで、自立から支援まで、人と共に、人の傍で、人の為に、人のさまざまな「動く」をサポートし、人の役に立つパートナーロボットの開発を進めているといいます。

 
パートナーロボット概要図。HSRのほかにも様々なロボットが開発されている
*クリックすると大きな画像が開きます。

その中から今回ご紹介するのが、生活支援ロボット「HSR」です。

「生活支援ロボット」は、より豊かな暮らしをサポートする
ホームロボット

 
トヨタブースでのHSR
*クリックすると大きな画像が開きます。

「HSR」は、手や足に障がいのある人や介護が必要な人の家庭内での自立生活をサポートする生活支援ロボット。将来、家庭の中で人と共存し、より豊かな生活を支援するホームロボットとして、様々な人の家庭での生活支援と生活の質=QOL(※3)の維持・向上を目的に開発が続けられています。

※3:「QOL」について詳しくはこちらの記事をご覧ください。「言葉の豆知識-QOLとADL-」
   http://www.dreamarc.jp/archives/1314/

《ユーザーのQOLを高める3つの機能》

1.物を拾う
床に落ちた物を、ユーザーがタブレットのカメラ画面上で指示することで、ロボットに拾わせることができます。物の三次元形状を認識する機能があるため、ロボットは対象物の形状を認識して、そのつかみ方やアームの動作方法を自分で考えます。適度な柔軟性を持つハンドは「把持」と「吸着」の2つの機能を持ち、リモコンやペンなどは指先で挟んで拾い、カードや紙といった薄い物は指先の吸着パッドに着けて拾うことができます。

動画(1分27秒)

2.物を取ってくる
ユーザーがタブレットを用いて、何をどこから取ってくるかを指示すると、ロボットは指示された物を判別し、取ってきます。家の中の環境を認識できるので、指示された場所まで障害物を避けながら移動することもできます。

動画(0分59秒)

3.操縦する
ロボットが自動では難しい作業も、ロボットを人が操作することで行うことができます。また、ネットワークに接続して、家の外から家族や介護者がロボットを通じてコミュニケーション、見守り、ロボットのアームを使ってのサポートを行うこともできます。

動画(1分25秒)

《人とロボットの暮らしを実現するための3つの特徴》

1.小型軽量
様々な家や人と親和するサイズと扱いやすさをめざし、人への安全性や親和性、スムーズな移動性を考慮し、小型・軽量で小回りが効く円筒型のデザインを採用。コンパクトボディと上下伸縮機構、格納式アームにより、「床の上の物を掴んで拾う」「棚、机の上、高いところから物を取ってくる」など、小さくても広い作業域を実現しています。

2.安全・安心
人よりも小さく軽いだけでなく、家庭生活の中で、ロボットと人が触れることを前提にした安全配慮設計が行われています。また、人だけでなく、移動の際に障害物を検出し、停止、回避することができます。

3.かんたん操作
誰でも簡単に、直感的にロボットを扱えることができるようにIT機器と連携し、タブレットなどをタッチするだけでロボットを操作することができます。

 
タブレットが手元にあれば操作可能
*クリックすると大きな画像が開きます。
HSRの技術を見ることができる動画

将来的には、リモート機能によって、家の外から家族や医療介護福祉機関がロボットを操作し、要介護者の世話をすることや、ネットワーク経由でロボットとタブレットやスマートフォンなどをつなぎ、ロボットを通じて外出先から家の中の様子を見たり、家の中の子ども、高齢者、障がい者の家族の様子の見守りを行うことも可能にするなど、離れたところからでも、いつでもどこでも「家族が繋がる」「社会と繋がる」 、未来の生活の実現がめざされています。

 
(左右とも)HSRのいる未来の生活のイメージ

「生活支援ロボット」の開発でめざしているのは
社会との共創と貢献

トヨタでは生活支援ロボットの開発にあたり、生活支援のニーズが高い、手足に障がいのある方への支援をまず考えてスタートしたそうです。人と一緒に暮らし、人のサポートを行う 「介助犬」に着目し、日本介助犬協会の協力のもと、手足に障がいのある方々へのヒアリングを行い、
「物を取ってくるなど簡単なことを気兼ねなく頼みたい」「ヘルパーのいないときに利用したい」
「緊急時の連絡、見守り」「家族やヘルパーへの連絡」といった困りごとや要望があることを受けて、

◇「落ちた物を拾う」
◇「物を取ってくる」
◇「家族や介護者とのコミュニケーション」

を実現するロボットの基本機能の開発に取り組んできたといいます。
並行して、横浜市総合リハビリテーションセンターの協力のもと、障がいのある方の自宅で生活支援ロボットを使った実証実験を実施し、ユーザーの視点をフィードバックしながら開発を推進。
また、少子高齢化という社会の変化に応じて、障がい者から、さらに高齢者、一般の方までの幅広い生活をサポートするパートナーロボットの研究開発に取り組んでいくということです。

そんなHSRについて、開発を担当されているトヨタ自動車株式会社 パートナーロボット部 生活支援プロジェクト 第1HSRグループ長の池田幸一さんに、開発の経緯や将来の展望などについて伺いました。

複数の研究機関と連携する「HSR開発コミュニティ」を活用して
開発を促進していきたい

 
まるで親子のような池田さんとHSR
*クリックすると大きな画像が開きます。

もともと、パートナーロボットの技術コンセプトや構想は、2005年に愛知県で開催された「愛・地球博」で発表されているんです。構想の背景には、日本の少子高齢化があります。その後、2012年に第一世代の生活支援ロボットを発表し、現在のものは第二世代になります。
例えば、第一世代のロボットは、横方向に移動するのに台車の旋回が必要だったのですが、全方位に対応できる移動台車機構を採用できたことで、旋回する動作が不要になり、移動の効率が向上。HSRの動作時間を短縮して、機能性をアップすることができました。
台車に無駄のない動きができるようになったことで、アームを軽量でシンプルな構造にすることもできました。それにより、最小限の動きで物を掴むことができます。掴む際には、ロボット自身で物の形状や向きを認識し、掴み方を判断します。搭載したセンサーがHSRの目となり、周囲の状況を見極められるのです。指示された目的地まで、障害物を避けながら、最適なルートで移動することもできます。また、軽量化したアームの動作と全方位移動を協調制御することで、作業効率も向上しました。

アームに話を戻すと、肩軸に、バネの力でアームにかかる重力を軽減する機構を採用することで、モーターの出力の低減や、動きの途中でシステムが停止した際に、アームが急激に落下するのを防止できるようにしました。さらに、段差などに磁気テープを貼っておくと、その先に進もうとすると駆動系が停止するなどの機能を搭載し、安全性もこれまで以上に向上、実現させています。

このように、第一世代からの4年間で、コンパクトに移動ができる台車や、最小限の動きで掴むことができるアームの開発など、必要な機能をシンプルにまとめることで、操作性も向上し、現在の状況まで進化しました。これらは、ユーザーの“自分の思いどおりに(ロボットを)使いたい”という思いに応えるための進化です。生活支援ロボットは、どれだけ「普段の生活の中で融通が利くか」が大事ですから。将来は、掃除や片付けなど様々な支援ができるように開発を続けていますが、障がいにはさまざまな程度があるので、できるだけ多くの方々の要望に応えられるシンプルなものに仕上げることが大切だと思っています。
先のアームの落下防止などもそうですが、特に安全性の確保には気をつけています。万が一、人と接触した場合、ロボット側の作動を抑制する設計にしているのも、衝突時でも被害を最小限に抑えられるよう、丸みをおびたデザインにしているのも、人とロボットが家の中で安心して共存できるようにと考えてのことです。
これからは、経験を積むごとに成長していくようなロボットを開発していきたいと考えています。将来はロボット技術の研究と、自動運転車など車の開発とで互いに成果をフィードバックしあえればいいですね。

2015年9月に発足した「HSR開発コミュニティ」に期待しています。これは、以前からHSRの共同研究を実施してきた複数の研究機関に加え、公募にて加盟した大学・研究機関などに新型HSRを研究用に貸与して、障がい者や高齢者などの生活支援を想定したロボットの機能向上のための技術開発を推進してもらい、そこで開発されたソフトウェアやノウハウなどの成果をコミュニティで共有しようというものです。このような外部との連携により開発は加速していくと思います。「みんなの知恵が入るとさらに成長が早まる」と期待しています。
生活支援はロングテール。ゴールのない開発なので、慎重かつ丁寧な開発を続けていきたいものです。

最後に……

これから、ロボットは、①単なる作業ロボットから、自ら学習し行動するロボットへと「自律化」し、②さまざまなデータを自ら蓄積・活用し、パソコンやスマホに代わる「情報端末化」を身につけ、③個別に機能するのではなく、相互に結びつき連携する「ネットワーク化」された存在へと成長していくことが予測されています。このような流れの中、人のパートナーとなる生活支援ロボットHSRへの期待は、ますます高まっていくことでしょう。

生活支援ロボットHSRの主な仕様

本体直径:43㎝
本体高さ:100.5~135㎝
重量:約37kg
腕長さ:約60㎝
肩高さ:34~103㎝
把持物:重さ1.2kg以下、幅13㎝以下
最大速度:0.8km/h
走破性能:段差0.5㎝、 登坂5°

生活支援ロボットHSR  
*クリックすると大きな画像が開きます。

編集後記

ここ数年で、コミュニケーションロボットは社会に普及しつつある感があります。この記事を書いている間に、トヨタからも座高10cmという手のひらサイズのコミュニケーションパートナーロボット「KIROBO mini」が登場しました。
一方で、人間の機能を代替する生活支援ロボットに関しては、まだまだ社会進出が果たせていないように思われます。それは、やはり安全性確保という高いハードルがあるからなのでしょう。
そのようなことから、トヨタの生活支援ロボットHSRの開発に関しては、介護の現場や障がいのある方々から大きな期待が寄せられているのではないでしょうか。市場投入の時期はまだ未定だということですが、ぜひ、2020年の東京パラリンピックでは選手村のサポーターとして活躍してほしいものです。これはまったくの編集部の勝手な思いですが……。そんな想像をしながら、未来のロボットに夢をはせた取材でした。

KIROBO mini  
「KIROBO mini」。会話を通して思い出や好みを覚え、ユーザーに合わせて成長するコミュニケーションロボット。詳しくは下記URLを。
http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/13785130
*クリックすると大きな画像が開きます。

-「生活支援ロボットHSR」に関するお問い合わせ-
E-mail :xr-hsr-info@mail.toyota.co.jp
URL:http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/partner_robot/

印刷用ページを表示する

NTT西日本通信サービスの使命

バックナンバー

*クリックまたは、エンターキーによりメニューが表示されます