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【ICTレポート】第20回 「UDCast」Palabra株式会社

言葉をつなぐ。感動をつなぐ。視覚や聴覚に障がいのある人に、
エンターテインメントコンテンツの楽しさを。

いっしょに泣こう、いっしょに笑おう。  
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みなさん、こんにちは。ドリームアーク編集部です。
今年の7月23日に、映画界で画期的な出来事がありました。それは、人気アニメの劇場版「ONE PIECE FILM GOLD」が公開されたことです。これのどこが画期的だったのかというと、公開初日から140を超える劇場で、音声ガイド付きでの上映が行われたということです。最終的に、音声ガイド付き上映は300館以上で実施されました。
これまで、特別な機会にしか行われなかった音声ガイド付き上映。2013年に障害者差別解消法が制定された中、製作・配給大手4社でつくる日本映画製作者連盟や障がい者支援団体などが一致団結して、今回の上映にこぎつけました。この音声ガイドに貢献したのが、Palabra株式会社が提供する言語バリアフリー化アプリケーションサービス「UDCast」。視覚や聴覚に障がいのある人にも、映画などのエンターテインメントコンテンツを楽しんでもらおうと生み出された無料アプリです。
今回は、「UDCast」の普及に情熱を傾けるPalabra株式会社の代表取締役社長・石原由之さんとメディア・アクセス事業部部長の川野浩二さんに開発の背景や現状、将来の夢などをお伺いしました。では、まずは、「UDCast」の概要から説明します。

スマートフォンなどのセカンドスクリーンに字幕や音声ガイドを提供する
言語バリアフリーアプリケーションサービス「UDCast」

これまで、視覚や聴覚に障がいのある人たちの映画・映像視聴のバリアフリー化は、各メディアごとに仕様が異なるため高コストになることもあり、なかなか進展しませんでした。この問題を解決すべく誕生したのが「UDCast」。専用アプリを使ってスマートフォンやタブレット端末などのセカンドスクリーンに「日本語字幕」「音声ガイド」「手話映像」および「多言語字幕」などを表示させる言語バリアフリー化サービスです。字幕や音声ガイドなどのデータをコンテンツそのものに紐付けすることで、すべてのメディアに対応し、映画およびテレビなどの放送番組、Web動画、DVD・ブルーレイディスク、展示施設の案内・解説といったコンテンツを視覚や聴覚の障がい、言語の壁を超えて、誰もが楽しめるようにサポート。映画館だけに限らず、博物館・美術館・水族館などの映像展示にも対応できます。

◆「UDCast」が実現する言語バリアフリー化サービス

聴覚障がい者用字幕
劇場公開される邦画・アニメーションの聴覚障がい者用字幕の付与率は現在10%前後。しかも字幕付上映を実施する館数は限られており、日時も指定されるため、字幕の必要な方は気軽に映画館へ行けない状況がありました。「UDCast」は、メガネ型端末を中心に、スマートフォンやタブレット端末にも字幕を表示することが可能。いつでもどこでも常時字幕表示することにより、視覚に障がいのある人たちにも気軽に邦画・アニメーションを楽しんでいただけます。
聴覚障がい者用字幕イメージ

視覚障害者用音声ガイド
視覚に障がいのある人のスマートフォン所有率は年々高くなっており、読み上げ機能などの充実で、操作に関するハードルも低下しています。「UDCast」なら、スマートフォンで完全同期された「音声ガイド」を聴くことが可能。劇場公開される邦画・アニメーションの視覚障がい者用音声ガイドの付与率は現在1%以下ですが、このシステムが映画業界で導入されれば、視覚障がいのある人たちの芸術へのアクセス保障が一気に拡大されるでしょう。
視覚障害者用音声ガイドイメージ

手話
2011年7月29日、改正障害者基本法に「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。(第3条3)」という条文が入りました。「UDCast」は、映像データとの完全同期によって、あらかじめ収録した「手話映像」を表示可能に。「日本手話」と「日本語対応手話」「アメリカ手話」などの切り替えも簡単にできます。
手話イメージ

多言語字幕
2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催、そして外国人観光客年間2000万人を越えた日本では、あらゆるコンテンツの多言語対応が喫緊の課題になっています。全世界対応アプリケーションといえる「UDCast」なら、多言語での字幕や音声データを切り替えて同期することが可能です。クールジャパンと呼ばれる映像コンテンツ、特にアニメーションについても、劇場公開時に多言語対応すればマーケットの拡大を図ることができます。すでに「沖縄美ら海水族館」では対応済みです。
多言語字幕イメージ

◆「UDCast」は、映像作品の音声を使って字幕や音声ガイドを同期

スマートフォンに専用のアプリケ―ションをダウンロードすることで、字幕や音声ガイド、手話映像などをセカンドスクリーン上にリアルタイム同期で表示・再生する「UDCast」。タイムコード(※1)で完全同期しているため、映像の進行とズレは生じません。数秒で同期が完了しますので、途中で立ち上げた場合でもすぐに映像と同期します。これに使われている技術は、
①音声情報を解析して同期させる「フィンガープリント」
②人間の耳に聞こえない音声信号「電子透かし」をマスター音声に埋め込む
これら2つの技術を使って、時間情報と紐づけして完全同期させています

※1:タイムコード……映像信号フレームごとに与える、それぞれ異なる数字の位置決め信号。通常は時刻と同じ時・分・秒と、コマ(0~29コマ)の数列で表す。コンピューターによるビデオ編集などで用いる。

 
「UDCast」の仕組み
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特徴

1:無線LANやネット環境は一切不要
「UDCast」は音声を使うシステムなので、必要なデータをダウンロードした後は「無線LAN」や「ネット環境」を一切使いません。周波数の混信や劣悪な電波環境によるトラブルのない、安定した運用ができます。
2:端末数は無制限に使用可能
音さえ届けば、数万人、数十万人でも同時に使う事が可能です。東京ビックサイトの最大6万人規模のイベントで実施済みです。
3:使用する端末は、スマートフォン
特殊な端末を用意する必要はありません。施設などでスマートフォンの持ち込みを可能にできるなら、最小限の設備投資で使用できます。
4:メディアが変わっても使用可能
対応した同期データは、映画であれば、劇場公開後、DVD・ブルーレイ、放送、配信など、視聴するメディアが変わっても使用できます。
5:リアルタイムに更新可能
字幕や音声ガイドなどのデータは、インターネット上のサーバーで配信・管理しているため、更新は自由自在。明日公開の映画上映でも、前日のアップロードで間に合います。また、変更もリアルタイムで行えます。
6:多言語にも対応可能
同期するデータは、日本語字幕のほか、英語、中国語、韓国語など多言語に対応。同期データさえあれば、後から追加することもできます。

 
多言語字幕から音声ガイドまで幅広く対応
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ここまで「UDCast」の概要について、いろいろ説明してきました。どんなものなのか、どんなことができるのか、おおよそわかっていただけたと思います。さて、これからは「UDCast」を提供するPalabra株式会社の石原さんと川野さんに、「UDCast」の開発背景や現在の状況、苦労したこと、未来の夢などをお伺いしていきます。

障がい・言葉・感動・安心をつなぐバリアフリーサービス
「UDCast」、その現在とこれから

軌道に乗った「UDCast」について、熱を込めて語る川野部長(左)と石原社長(右)
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編集部:どういったきっかけで「UDCast」を開発されたのですか?
石原:元々は、私も理事として参加している特定非営利活動法人メディア・アクセス・サポートセンター(以下、MASC)で開発した「おと見」というバリアフリー字幕アプリケ―ションを事業展開できないか、ということでスタートしたんです。2014年8月のことでした。もともとNPOの設立目的、活動範囲は映画・映像コンテンツのバリアフリー化の推進に特化していました。展示施設や観光施設など様々なジャンルでの多言語も含めたユニバーサルデザインを展開していくために、企業でビジネス化して確実な活動ができるようにしたかったんです。
川野:今回の音声ガイド付き「ONE PIECE FILM GOLD」の公開で、やっとカタチになってきたと喜んでいます。足かけ10年かかりましたから。これには、2013年に閣議決定された障害者差別解消法とともに、総務省が行っているテレビ番組への字幕付け推進活動や、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定などが追い風となりました。おかげで、「UDCast」が「言語バリアフリー化」の担い手として認識されてきたように感じています。

編集部:今回の上映が実現するまでに、どんな苦労がありましたか?
石原:ご存知のように映画は「製作」「配給」「興業」の3つのセクションで成り立っています。その3つが足並みを揃えて進んでいかないと事は動きません。大手でもそれぞれ会社が別々だったり、行政でも「製作」の助成などは文化庁、「配給」ビジネスは経済産業省、映画館での「興業」は厚生労働省と所轄も異なります。こうした関係者の調整にかなりの時間を要しました。2016年4月より施行の「障害者差別解消法」も追い風になったと思います。
川野:2020年に向けて、社会的にユニバーサルデザインへの意識が高まってきたということも追い風になったと感じています。言語バリアフリー化や多言語対応が、ひとつの産業になると期待を持っていただいているんだな、と。日本国内で、映画は年間600タイトルほどが製作されているのですが、まだ音声ガイドや日本語字幕をつけたものは、ほとんどありません。もっと普及させていきたいと考えています。
石原:テレビ業界も、総務省が音頭をとって番組の字幕と音声解説の付与を進めています。計画では2017年に字幕100%、解説放送10%の達成を掲げています。また、2020年をめざして、様々なメディアの多言語化が進められています。このような現状から見て、今が「UDCast」普及のチャンスと考えています。多言語のニーズに対応することで、日本語のバリアフリーもしっかりとカバーできるというユニバーサルデザインの考え方。この機会を捉えて、変化の波に福祉を乗せられるようにしていきたいものです。

編集部:言語のバリアフリー化においては、視覚に障がいのある人と聴覚に障がいのある人では、その対応が大きく変わると思いますが、それらの制作で気をつけていることは何ですか?
川野:まず、聴覚に障がいのある人に提供するのがバリアフリー字幕ですね。これには、残念ながら現在、統一されたルールがありません。映像には言葉以外にも様々な情報があります。感情を表す音や演出を盛り上げる音楽、そして風の音や雨の音、靴音など何気なく聞こえてくる環境音にもすべて製作者の意図があり、字幕として必要な要素になります。Palabraでは、長期間にわたり聴覚障がい者とのディスカッションによってガイドラインを作ってきたMASC監修の「バリアフリー字幕制作者養成講座」の受講を修了された在宅の字幕制作者さんたちが、鑑賞される方の目線に立って、製作者の意図やメッセージをできるだけ汲み取り、鑑賞される方々に明確に伝わるようなバリアフリー字幕制作を心がけています。
石原:視覚に障がいのある人に提供される音声ガイドは、映像だけで表現されている登場人物の行動、表情や場面転換などの視覚情報を言語化して解説するものですが、「見たままのもの」の「何を」「どこまで」「いかに」「正確に」「明確に」「わかりやすく」「製作者の意図に沿って」「監督の演出意図をよく理解し」「主観を排除」して制作しなければなりません。時間の制約もあるので、伝えることの優先順位、演出の処理をどう伝えるのか、そのための言葉の選択、表現方法……。普段何気なく使っている言葉を精査し、聞いた瞬間に言葉そのものを理解してもらい、画面に映っているものを想像してもらえるように言語化するのは、とても難易度が高いこと。Palabraでは、ある意味で作家性を持った経験豊富なスタッフが音声ガイドを制作しています。

編集部:「UDCast」の今後の展開を教えてください。
石原:「字幕」に関しては、メガネ型ウェアラブルデバイスの進化に期待しています。現在は、エプソン「MOVERIO」で字幕表示することが多いのですが、もっと軽量で、もっと安価なものが出てきてほしいものです。従来のメガネと同じように使えるものが現れたら、きっとさらに普及が進むと思っています。

 
メガネ型ウェアラブルデバイスで字幕表示を実現
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川野:現在、映画への「バリアフリー字幕」「音声ガイド」の付加とともに、水族館での字幕ガイドの提供なども実施しています。沖縄美ら海水族館での案内放送などがそれなのですが、これからは、こういった施設展示などへの展開も進めていきたいと考えています。また、横浜能楽堂の公演では、「バリアフリー能」と銘打って、能楽の解説に「UDCast」を活用し、聴覚障がい者向けの字幕表示を実施してもらっています。このような伝統芸能の分野や、生で上演される演劇やショーなどでも利用が進むと、エンターテインメントの情報保障という意味で「UDCast」の普及がさらに加速すると期待しています。
石原:「UDCast」は、災害時に聴覚に障がいのある人や高齢の難聴者、外国人など災害弱者に対しての避難情報発信にも役立ちます。公共施設などで用意されている既存の避難案内に音声透かしを入れることで、タイムリーな避難告知を多言語で発信、スマートフォンに通知するなどができるのです。災害時は携帯の回線網やWi-Fiの通信網が機能しなかったり、電波が混乱して必要な情報が伝達できないことが発生します。そんな中でも、施設内にあらかじめ設置されたスピーカーより流れる音声から直接、情報を拾うことができる「UDCast」なら活用することができます。もしもの際にも役に立つシステムなのです(※2)。

 
音声が流れるとこのように手話や多言語で避難告知を知らせてくれる
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編集部:きたるべき2020年には、「UDCast」は、どうなっているのでしょうか?
川野:今は、スマートフォンを使ってのシステムですが、そのころには、ICチップでの展開になっているのではないでしょうか。様々な生活機器とコンテンツの音声が同期して、料理番組を見ながら調理器具を連動させられるなどの、まさにIoT(※3)の世界が実現しているかもしれません。
石原:きっと、「バリアフリー字幕」「音声ガイド」は当たり前になっているでしょうね。映画館はもちろん、水族館や美術館など、エンターテインメント施設には、多言語対応を含めてバリアフリーコンテンツが常備されていると思います。そして、障がいや言語の壁を超えて、誰もがエンターテインメントコンテンツが楽しめる世界になっていると思います。そのためにも私たちは、今、「UDCast」が広く普及するように努力していきたいと考えています。
編集部:長時間にわたって、素晴らしいお話をありがとうございました。

※2:2015年、東京ビッグサイト内イベント会場における防災対応システムの実証実験済み。
※3:IoT……「Internet of Things」の略。あらゆる物がインターネットを通してつながることにより、実現する新たなサービス、ビジネスモデル、およびそれらを可能にする要素技術の総称。現在のパソコン、サーバー、携帯電話やスマートフォンのほか、ICタグや各種組み込みシステム、センサー、送受信装置などが互いに情報をやりとりすることが可能になり、新たなネットワーク社会が実現するといわれている。

最後に、「USCast」を実際に体験する方法を下記に掲載させていただきます。
スマートフォンをご利用の方は、関心がありましたら試してみてはいかがでしょう。エンターテインメントの感動、災害時の安心、障がいを超えて様々な要素がバリアフリーにつながる、新たな可能性を実感していただけるのではと思います。

「UDCast」のインストール、動作確認について

1:お手持ちのスマートフォンに「UDCast」をインストール。
2:「動作確認」を選択。
3: Youtube「絵の中のぼくの村」を選択(初回はダウンロードが始まります)
4:日本語・英語・韓国語・中国語字幕、音声ガイド、手話のいずれかを選択。
5:下のデモ映像を再生し、音声をスマートフォンに聞かせる。
(端末のマイク設定がONになっていること、また音声が出ていないと同期しません)
※Youtubeの場合、回線の状況によってデータ量が変わるため同期しにくい場合があります。

 
iOS
(8.1以降、iPhone5以上、iPad、
ipod touch)
Android
(4.04以上)
 
*機種、個々の環境によっては非対応となります。ご使用前に必ず動作確認願います。

編集後記

厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(2006年)には、18歳以上の視覚障がい者31 万人、聴覚・言語障がい者約34 万人とあります。この数は、障害者手帳の交付を受けている人に限られたもので、手帳は持っていないが日常生活で「聞こえにくい」あるいは「見づらい」といった不便を感じている人の数は含まれていません。
今日、映画、アニメなどの映像コンテンツは社会生活に欠かせないものとなっています。しかし、「聞こえにくい」「見えにくい」といった困難を抱える人は、そうしたサービスを充分に享受できずにいます。障がいがあるという理由で、エンターテインメントを楽しむことを諦めている人がたくさんいるのです。
そんな人たちに一筋の光明を与えるのが「UDCast」です。実際、「UDCast」の実証実験では、「封切直後のタイミングで新作をガイド付きで観られるなんて、夢のよう」「今までは日本映画を観るという選択肢がなく、観てもどうせわからないと思っていたが、今回はほぼ100%内容を理解できたと感じることが出来たのが一番嬉しい」「健常者の人たちと同じタイミングで映画の話ができて、流行に乗れることが嬉しかった」「今まで観に行きたい映画が多くあったのですが行けなかったので、すべての日本映画に音声ガイドがあればぜひ行きたい」などの声が寄せられていました。
すべての人に感動を。「UDCast」のますますの普及をドリームアーク編集部一同、心から願っています。

「UDCast」に関するお問い合わせ先
Palabra株式会社

Palabra(パラブラ)株式会社
〒164-0011
東京都中野区中央2-9-1 サンロータスビル401
TEL. 03-5937-2231
E-mail :info@palabra-i.co.jp
URL :http://palabra-i.co.jp
UDCastウェブサイト:http://udcast.net

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