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【インタビューレポート】リオ・パラリンピックのマラソンで結果を出す! NTT西日本・陸上競技部 パラリンピックアスリート 堀越信司 Tadashi Horikoshi

今回でドリームアークへの登場が3回目になるNTT西日本陸上競技部の堀越信司選手インタビュー。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、……

小気味良いリズムを刻みながら、力強い足音が通り過ぎていきます。
ここは、京都府にあるNTT西日本の淀グラウンド。
「今日は、軽い練習なんです。トラック1周400mを80秒で30周、合計12,000mのペース走です」。
そう笑顔で説明してくれたのは、今回でドリームアークへの登場が3回目になるNTT西日本陸上競技部の堀越信司ただし選手。2016年リオデジャネイロ(以下リオ)・パラリンピックのマラソン部門で代表に選ばれ、メダル獲得も期待されています。

(3枚とも)400m×30本のペース走を行う堀越選手
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これからは、ゆとりを持って結果を出す…
激しい浮き沈みを経験し、メンタルが鍛えられた4年間

2012年のロンドン・パラリンピック5,000m(T12クラス)で、見事5位入賞を果たした堀越選手。前回のドリームアークの取材では、「リオ・パラリンピックはマラソンで出場したい」と語っていましたが、まさに“夢をかなえた”というところです。この夢をつかむまでの4年間の動きを尋ねてみました。

 
2012年からの4年間を振り返る堀越選手
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堀越:ロンドン・パラリンピック以降、紆余曲折。本当にいろいろありましたね。めげたり、めげたり、めげたり、ちょっと喜んだり……(笑)。
毎年、国際大会があって、リオに照準を合わせて、目標を設定していたんです。
“2013年のIPC陸上世界選手権(フランス・リヨン)ではメダル勝負”
“2014年の仁川アジアパラゲームズではアジアに進出”
“2015年のIPC陸上世界選手権(カタール・ドーハ)ではトラックでメダル獲得”
“2016年のリオ・パラリンピックではマラソンでメダル獲得”
こんな目標を決めて、練習に励んでいました。あのころは、5,000mを14分30秒で走れば世界選手権でメダルが獲れるかもしれないと考えていました。そこで、目標達成のために取り組んだのですが……。思い描いていたこととは、ずいぶん変わってしまいましたね。
一番しんどかったのは、ロンドン・パラリンピックが終わって次のシーズン、2013年に長期故障をしてしまったことです。半年間、練習の流れが途切れてしまいました。あれがなかったらその後もコンスタントに5,000mを14分台で走れていたかもしれません。2013年の前半は好調で、夏には14分台で走れる期待感がありました。しかし、その絶頂期に故障。7月のフランスのIPC陸上世界選手権では出場選手に選ばれたものの、5,000mは15分27秒、1,500mは4分23秒、どちらも最下位という散々な結果に終わりました。

堀越選手は2013年12月31日配信の自身のフェイスブックにも、このように書いています。

「今年は不調や負傷、故障が続き、世界選手権では故障が治らない中、何とか走りきれたものの勝負できず。更に、ほかの走った試合ではことごとく結果が出せず。ほかにも色々あってとても悔しく辛い一年でした。…が、この雪辱は2014年に必ず果たしたいです!」

果たして、彼は2014年にリベンジします。10月に行われた仁川でのアジアパラゲームズ。5,000mで、大会記録となる15分8秒で走り切り、見事優勝。1,500mも大会新記録の4分8秒で優勝したのです。

堀越:2014年は、ある程度結果が出せたのですが、2015年10月のドーハでのIPC陸上世界選手権は惨憺たる結果に終わりました。前日まで抜群に好調で、レースも5番手につき、3,000mから“粘るぞ!”とふんばっていましたが、3,400m前後から異常に気づきました。脱水状態に陥ったんです。前の選手に食らいつこうと必死にもがきましたが、頭がぼーとしてきて……。ふらふらしながらゴールしたようで、気づいたら医療スタッフに囲まれていて、すぐに病院に運ばれました。

アスリートは常に故障や負傷と戦っている……と聞いたことがあります。ギリギリの状態までフィジカルを追い込むのですから、当然のことでしょう。そんな中で、大切なのはメンタル。どんな状況にも折れたりしない強いメンタルが求められます。強靭なフィジカルとメンタルを持ってこそトップアスリートとなれるのです。堀越選手のこの4年間はまさにメンタルを鍛えるための時間だったのかもしれません。

堀越:多くの紆余曲折を経験してたくさんのことに気がつきました。
まず、結果を出すことばかりに意識を持っていかれてはダメだ、と。試合に臨む際、気持ちに“ゆとり”を持たなければいけない。結果ばかりを追いかけちゃいけない、ということですね。
また、自分を追い込めば追い込むほど、いい結果が出るというのは間違いだということも知りました。時に、自分を追い込むことは自己満足に陥ります。結果を出すための努力は必要ですが、努力が必ず結果につながるわけではありません。結果を出すための努力が必要なのだということがわかりました。

もともと堀越選手は、自己分析の達人です。フェイスブックを見ていても、レースの経過を心理状態や身体状況とともに事細かく振り返られています。自分を知ることから勝負が始まります。ある能楽師に聞いたことがあるのですが「舞台で舞っているときは、舞台上の自分ではなく観客席にもうひとりの自分がいて、舞台の自分を見据えている。そういうときは、いい舞ができる」と。この能楽師の言葉と同様に、堀越選手も自らを第三者的に見つめることで、たくさんの学びを得たというのです。

 
自分のレースの実況中継はお手のもの
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堀越:レース中に、自分で実況中継しながら走ることがあるんです。たとえば、先頭集団に追いつくシーンとかを想定して実況するんですね。“堀越、徐々に先頭集団に近づいている。第一中継車からも肉眼で見えるくらいに迫っている。相当ペースを上げてきた。間もなく追いつくようです”みたいな感じですね。こんなふうにレースに臨んでいるときは、たいてい、いい結果がでています。きっと、気持ちに“ゆとり”があるんでしょうね。

憧れだったマラソンにチャレンジ。2015年ロンドンマラソンで銅メダルを獲得し、リオ・パラリンピックのマラソン代表候補に

2013年3月には、びわ湖毎日マラソンを見に行き、先輩たちが走る姿に「やはり自分もマラソンを走りたい!!」と思ったという堀越さん。
1年半後の2014年11月にはマラソン練習に入り、憧れのマラソンへのチャレンジを開始します。

 
練習中の堀越選手
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その結果については、フェイスブックに詳しく書かれています。

「間違いなく、人生の中で最もキツいレース。
精彩を欠き、予定とは違う走りをし、やってはいけないことをやった結果、30kmで足が止まり35kmからはjogペース。何度も歩いて何とか完走という最低限の走りもできない情けない結果。確実になるべくしてなった結果です。
準備をして自信を持ってスタートしても、一瞬ですべてが無駄になるということを身を持って知った初マラソンとなりました。応援してくれたり、スタート直前までアドバイスをくれた人たちの気持ちを無駄にしてしまいました。
敢えて言えば、精彩を欠いたり、予定とは違う走りをしたり、やってはいけないことをやったらどうなるかを知れた点、完走を諦めなかった点は収穫だということにします。甘いけど。
最低限、これは次に生かします。結果を残し「初マラソン散々だったのは良い経験でした」と言えるように頑張るとします。」

初マラソンは2014年12月21日の防府読売マラソン。タイムは2時間39分33秒でした。
堀越選手は、翌年、フェイスブックでの宣言通り、ロンドンマラソン兼IPC世界選手権で雪辱を果たします。

堀越:2015年4月26日に行われたロンドンマラソン兼IPC世界選手権に関しては、代表に選んでいただいた時点で、出場するかどうか大いに悩みました。防府読売マラソンの結果を見て、“マラソンは甘くない。自分がロンドンマラソンなんかに出場していいのか”と考えたのです。でも、せっかく選んでいただいたのだから、と出場することにしました。
前半は5kmを17分40秒ペースに抑え、後半にビルトアップして粘りました。結果は2時間27分42秒。びっくりではありますが、3位銅メダルを獲得することができました。これで防府読売マラソンの悔しさが晴れました。タイム的にはまだまだですが。

 
※写真はイメージです
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この銅メダル獲得によって、堀越選手は、リオ・パラリンピックのマラソン競技の代表推薦第1位となります。パラリンピック出場の内々定をもらったということです。「いつかはマラソンでパラリンピックに出たい」という彼の夢は、ついにかなったのです。その背景には「何よりも走ることが好き」という堀越選手の走りへの情熱と、ひたむきに自分と向き合うストイックさがあったのではないでしょうか。
そして、2016年2月7日。堀越選手は万全を期して別府大分毎日マラソンに挑みました。が、競技中に1月の故障箇所が急に悲鳴をあげた感じとなり、途中棄権。悔しい結果となりました。

人生というものは、決して“常に順風満帆”で進んでいくものではありません。辛いこと、苦しいこと、悔しいこと、挫折など、様々な壁が立ちはだかります。それらを乗り越えてこそ、人生は輝きます。これまでも堀越選手は“悔しさ”をバネにして、多くの壁を乗り越えてきました。この4年間で味わってきた、たくさんの“悔しさ”を晴らすためにも、リオでは持てる力をすべて出し尽くしていただきたいものです。諦めないことが勇気を生み出すのです。

初めてのCM出演。注目度が高まるとともに、
アスリートとしての自覚も高まる

2016年1月1日。毎年恒例のニューイヤー駅伝の中継番組の中で、堀越選手が登場するNTT西日本のCMが放映されました。キャッチフレーズは、「未来の大きさは、勇気の大きさに比例する。」堀越選手の練習風景、レースの様子などがフィーチャーされています。その後も何度か放映され、彼への認知度や注目度がずいぶん高まったそうです。


堀越選手が登場するNTT西日本のCM

堀越:このCMが放映されて以来、街中で見知らぬ人から声をかけてもらったり、励まされたりします。恥ずかしいのですが、うれしくもありますね。
自分は視覚障がいがあるけれど、走ることによって障がいに対するネガティブなイメージを変えていきたい、という思いがあるので、それには貢献できているのかなと思っています。
ブラインドマラソンは地味な競技ですが、あのCMによって認知度が高まったと感じています。NTT西日本の好感度アップにも役に立てているのかな、とも(笑)。
ただ、心しておかなければならないのは、注目度が上がっているのと自分が強くなっているのは違うということ。マスコミに取り上げられたからといって“一流”ということではないということです。ぼくたちは、“走らせていただいている”という意識を忘れてはならないと思っています。テレビに出てちやほやされて舞い上がってはいけない、やるべきことをやらねばならない、といつも自分に言い聞かせています。

最近、アスリートの不祥事が世間を騒がせています。賭博や違法カジノへの出入り、違法薬物の使用など、数えあげたら枚挙にいとまがない状況です。

堀越:アスリートである前に人間です。守るべきものは守らなければなりません。ぼくはプロではなく実業団に所属しているアスリートです。企業は、利益に回せばいいお金をぼくたちの活動に使ってくれています。だからこそ、自己満足で終わってはならないし、そのためにも結果を出して、恩返ししたいと考えています。国だって、力を入れてくれています。税金のムダ使いにならないようにしなければいけないと考えています。
これらは、企業エンブレムや日の丸を背負って試合に臨む人間の義務ではないでしょうか。

 
NTT西日本本社ビルの前を駆ける堀越選手
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人々は、アスリートたちの「ありたい自分に近づくための、類まれな努力」に感動するものです。その真摯な姿に目を奪われるのです。
CMで堀越選手が語る「限界の状態でも、そこからもう一度力を振り絞る。それができた人が世界で勝てるんじゃないか」という言葉にアスリートのあるべき姿が象徴されていると思います。

リオ・パラリンピックの目標は、「メダルを獲る」こと

2016年9月7日~18日までの12日間開催されるリオ・パラリンピック。マラソンが行われるのは、最終日の18日です。あと約1カ月後に迫っています。そんな中、リオにかける堀越選手の抱負を伺いました。

堀越:リオ・パラリンピックのマラソンでの目標は、ずばり「メダルを獲る」ということです。色は何でもいいと思っています。できれば“金”がいいですけどね(笑)。
ロンドン・パラリンピックの5,000m優勝者と6位だった人が2時間21分台の記録を持っています。それと4位だった人が2時間26分台、そして日本の岡村選手が2時間27分24秒。ライバルは、抜けている上位2人と26分台・27分台の人たちです。ぼくの記録は2時間27分42秒。今、25分台は出せそうな感覚があります。レースは何が起こるかわかりませんし、十分にメダル獲得のチャンスはあると考えています。そのためにも23、24分台をめざして取り組んでいきたいと思っています。

 
リオ・パラリンピックの目標は「メダル獲得」ときっぱり
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堀越選手は、別府大分毎日マラソンの故障棄権が大いに影響してしまったといいます。本当は、あのレースで2時間25分台を出して、4月にもう一度トラックに照準を合わせて、5月の大会で5,000mで記録を狙いつつ、6月からのマラソン練習に気持ちよく取り組みたかったのが、故障して走れなくなり、イメージとまったく逆になったそうです。

堀越:別府大分毎日マラソンが終わったころはピリピリしていましたね。故障して走れなくなった。こんなはずじゃなかった。早く練習したい……走れないことへの焦りが募っていました。マラソンは練習が途切れることが一番よくないことなのです。継続は力なりとはよく言ったものです。だから、走れないことに焦っていました。さらに、ぼくは理想を追い求め過ぎる傾向があるので、体が戻っていないのに、いいときのイメージで練習をしてしまうものだから、チャランポランな内容になったりして、ますます悪い方向に進んだりしていました。
でも、今は、故障もある程度走れるまでに回復し、落ち着いてきました。やっと歯車がかみ合ってきた感じですね。今シーズンの初戦もいい感じで走れました。心も体もいい状態になってきました。これからも気持ちを高めていきながら練習を積んでいきたいと思います。きっと、別府大分毎日マラソンに向けたときのような練習ができれば、リオでいい結果が出せるに違いないと思います。メダルを獲りたいという意識も大切ですが、自分がどんな走りをしたいかも大事にしていきたいと考えています。

 
リオ・パラリンピックに向けての練習を重ねる日々
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リオのマラソンは、4kmのコースを5往復するという厳しい設定になっています。しかも、コースは曲線が多く傾斜がついているので片足に負担がかかってしまう、というリスクもあるようです。加えて、海岸線を走るので横風の影響も出てしまうといいます。
それ以前に、日本からリオまではニューヨーク経由で33時間のフライト時間がかかります。欧米の選手に比べ、移動だけでも大きな負担がかかっているのです。
堀越選手は、9月4日に出国して9月7日にリオ入り、9月18日のレースに備えるそうです。

堀越:現地ではほとんど練習できない状況だと覚悟しています。それを踏まえて8月にしっかり調整していきます。

パラリンピックまで、あと約1カ月。憧れのマラソン出場で、実力を発揮してくれることを願ってやみません。堀越選手の自分自身との熱い戦いは、これからも続いていきます。

 
大阪・天王寺にある堀越神社で必勝祈願
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編集後記

「努力が必ず報われるわけではない。でも、努力することは大切」
堀越選手は、こう言います。この言葉は、数々のレースの修羅場をくぐってきた人だから口にできる言葉だと思います。
記録や勝利などの目標設定をしてそれに向かってほしい。楽しんでほしい。スポーツの素晴らしさを伝えてほしい。
これらは、アスリートに向けたメッセージ。ただひたすらに「走るのが好き」から始まった競技人生を存分に楽しんでいるからこそ言える言葉ではないでしょうか。
メダルや記録へのプレッシャーもあるでしょう。でも、そのプレッシャーを楽しみながら、リオ・パラリンピックに臨んでほしいと思いました。
未来の大きさは、きっと、勇気の大きさに比例するのですから。

-プロフィール-
堀越 信司(ほりこし ただし)
1988年7月19日、大学で言語学を教える父と税理士の母の間に生まれる。長野県出身。生後間もなく網膜芽細胞腫により右眼を摘出、左眼もその影響で視力0.05の弱視に。筑波大学附属盲学校を経て、目白大学人間学部卒業。中学校より陸上競技をはじめる。種目は中長距離。2011年、NTT西日本に入社し、陸上競技部に所属。現在は、NTTマーケティングアクト光サービス事業推進部 CRM推進部門 業務推進担当。
◇主な戦績
2007年:IBSA世界選手権出場、10,000m3位、5,000m5位入賞。
2008年:北京パラリンピック日本代表、1,500m・5,000m日本記録樹立(当時)。
2010年:アジアパラゲームズ(中国・広州)日本代表、5,000m銀メダル、10,000m出場
2011年:IPC陸上世界選手権(ニュージーランド・クライストチャーチ)日本代表、800m出場、10,000m5位、5,000m6位入賞。
2012年:ロンドン・パラリンピック日本代表 5,000m5位入賞。
2013年:IPC陸上世界選手権(フランス・リヨン)日本代表 1,500m、5,000m出場。
2014年:アジアパラゲームズ(韓国・仁川)日本代表、1,500m・5,000m金メダル。
2015年:ロンドンマラソン兼パラリンピックマラソン世界選手権日本代表、銅メダル。
T12クラスの800m・1,500m・5,000m・10,000mの日本記録保持。

◇ベストタイム
800m…2分2秒39
1,500m…4分4秒62
5,000m…14分48秒89
10,000m…32分13秒61
ハーフマラソン…1時間8分19秒
マラソン…2時間27分42秒

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