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【ICTレポート】第19回 「網膜走査型レーザアイウェア」QDレーザ株式会社

網膜に映像を投影。
メガネのような装着感の視覚支援ウェアラブル端末。

 
これまでにない小型・軽量・省電力を実現した
メガネ型ウェアラブルデバイス「網膜走査型レーザアイウェア」
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皆さん、こんにちは。ドリームアーク編集部です。
近年は、ウェアラブルデバイスのひとつであるスマートグラスが話題になっています。先行しているGoogleの「グーグルグラス」やエプソンの「MOVERIO」をはじめ、様々なスマートグラスが登場しています。テレビの情報番組などでも取り上げられることが多いので、ご覧になったことがある人もいらっしゃると思います。
このような中、株式会社QDレーザという企業が、視覚支援用のスマートグラスを開発しています。それが「網膜走査型レーザアイウェア」。眼鏡フレームの内側に超小型レーザープロジェクターを装着することで、内蔵カメラで撮った映像を直接網膜に走査線(※1)を描くことによって投影し、視覚支援を行うというもの。また、パソコンや様々なデジタル機器と接続して映像情報を提供することも可能となっています。現在、プロトタイプがほぼ完成し、2017年度中には市場に登場する予定です。
今回のレポートは、「網膜走査型レーザアイウェア」の開発を担当されている株式会社QDレーザ 視覚情報デバイス事業部の事業開発マネジャーである宮内洋宜さんにお話を伺い、機器の特長や開発の経緯、将来性などをわかりやすくご説明いただきました。

※1:走査線…テレビ画面やディスプレイで画像を表示するために光を発する水平方向の線のこと。光が上の走査線から下の走査線に移動することで、残像効果によって画面が表示される。

 
「網膜走査型レーザアイウェア」のポイントをわかりやすく説明するQDレーザの宮内さん
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世界中のロービジョンの人たちを支援するために、
半導体部品メーカーから医療機器メーカーの領域へ

世界保健機関(WHO)の調査によると、世界中にはロービジョンと呼ばれる視覚に障がいのある人が2億人いるとされています(※2)。ロービジョンとは、WHOの定義で、両眼の矯正視力が0.05以上0.3未満の人たちのことで、日本では弱視とも呼ばれています。これは、本が読める最低限の水準と考えられています。
日本では、視覚障がいによる生産性やQOL(※3)の低下による国内の社会的損失は約8兆8千億円にのぼるといわれています。現在、国内約164万人の視覚に障がいのある人は、高齢化の影響もあって2030年には25%増の200万人に達し、社会的負担が大きく増加することが懸念されています(※4)
「ロービジョンは治療するのが難しく、進行性であることが指摘されています。角膜移植や白内障の手術など回復が期待できる例もありますが、治療を行ってもロービジョンの状態のままということもあり、そういったケースでは回復は難しいといわれています。網膜に直接映像を投影することで、この困難を解決できるのではないかと考えています」と宮内さんはおっしゃいます。

株式会社QDレーザは、富士通株式会社と三井物産株式会社のベンチャーキャピタル資金を活用し、2006年4月に設立されました。10年以上にわたる株式会社富士通研究所と東京大学との産学連携による共同開発を基に、量子ドットレーザー(※5)をはじめ、高性能の半導体レーザー(※6)の開発・製造・販売を行っています。いわゆるナノテクノロジー(以下ナノテク)の部品メーカーとして活動してきました。
3年前のこと、社内でレーザー応用製品の開発プロジェクトが立ち上がり、視覚情報デバイスのプロジェクトも動きはじめました。
「もともとレーザーを使った走査線で網膜に直接映像を投影する技法(レーザー網膜走査)は新しいものではありません。1990年代にアメリカのワシントン大学で開発されました。マイクロビジョンという会社が試作機を作りましたが、今はエンジン部分が残っているだけのようです。2008年には、日本の機械メーカーが試作機をつくったという経緯もあります。これまで開発が進んでこなかった理由のひとつに、いい光源がなかったということがありました。それが最近になってレーザー技術が進み、対応できるようになったのです」。
そこで、この技法を使ってスマートグラスの開発が進められました。当初、スマートグラスは、コミュニケーションツールなのか、エンターテインメントツールなのか、その使用目的が不明確だったので、思い切ってロービジョンエイド(視覚支援)に的が絞られました。半導体部品メーカーから医療機器メーカーの領域へ。そこには国内で約150万人、世界で2億人いるとされているロービジョンの人たちを救いたいという思いがありました。

※2:WHOホームページ「Visual impairment and blindness(Updated August 2014)」より
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs282/en/

※3:QOL…Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)の略で、人間らしく満足して生活しているかを評価する概念。詳しくは下記記事を。
 ■言葉の豆知識-QOLとADL-
 http://www.dreamarc.jp/archives/1314/

※4:報道用資料「視覚障害がもたらす社会損失額、8.8兆円!! ~視覚障害から生じる生産性やQOLの低下を、初めて試算~」社団法人日本眼科医会 より
http://www.gankaikai.or.jp/press/20091115_socialcost.pdf

※5:量子ドットレーザー…ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの微小な半導体。DVDやブルーレイの読み書き、光ファイバーによる通信に用いられている半導体レーザーの性能をより向上させるナノテク。

※6:半導体レーザー…半導体に電流を流してレーザー発振させる素子。光通信、レーザープリンター、光ディスク、POSスキャナー(商品バーコードの読み取り)などに使われる。

 
「網膜走査型レーザアイウェア」でロービジョンの人たちの役に立ちたい
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ナノテクのレーザー技術を駆使して、
バリアフリーのアイウェアを開発

ロービジョンの人たちは、用途に応じて福祉用具を使い分けています。たとえば、新聞や雑誌などを読むときはルーペや拡大読書器、屋外などで遠くの表示を見るときには単眼鏡など、様々なツールを用意する必要があります。しかも、いずれのツールも使う際は、手がふさがるため、とても不便な思いをされているのです。また、特別なツールを使っていることで周囲の人たちへの気後れのようなこともあるといいます。
「網膜走査型レーザアイウェアなら、これひとつでルーペや単眼鏡の役割を果たすことができます。また、両手を空けることも可能で、QOLの改善にも貢献してくれます。しかも、一般的な眼鏡と外観があまり変わらないので、違和感も少なくなります。まさに、誰もが違和感なく使える“ユニバーサルデザイン”を実現するアイウェアだと考えています」と宮内さん。
網膜走査型レーザアイウェア開発の背景にあるのが、QDレーザが培ってきたレーザー技術。アイウェアで一般的に使われている従来の液晶ディスプレイに比べて、小型・軽量化することが可能というメリットがあります。また、省電力化も実現していて、バッテリーのコンパクト化が可能になっています。その結果、一般的な眼鏡やサングラスと変わらない外観とポケットサイズのコントローラーを4㎜のケーブルで接続するという画期的なユニバーサルデザインを実現することができたのです。

 
ほとんど一般的なメガネと変わりのないデザイン&サイズを実現
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いわば網膜をスクリーンにするプロジェクター。
視力差に関係なく視覚支援ができるフォーカスフリー

コンパクト化によるバリアフリーデザインとともに網膜走査型レーザアイウェアの大きなポイントとなっているのが“フォーカスフリー”。これは、近視や遠視、老眼など装着した人の視力差に影響を受けずに鮮明な映像を見ることができるということ。
「機構的には、いわば網膜をスクリーンにするプロジェクターですね。少し難しい話になりますが、画像に対応する光の束をいったん瞳孔の真ん中にまとめた後、網膜に照射するという“マクスウェル視光学系”という理論を応用して実現しています。照射する際には、MEMSミラーという非常に小さな振動する鏡を使って、走査線として網膜に映像を描いていきます。つまり、網膜がテレビの画面になっているような感じです。細くて直進性が強いレーザー光線を用いることで、目のレンズに当たる部分、水晶体の影響を受けずに網膜に像を結ぶことができるのです。フォーカスについては、どんな状態でもピントが合うピンホールカメラを想像していただくとわかりやすいかもしれませんね」
この光学技術を駆使したレーザー網膜走査方式は、液晶ディスプレイなどと比べて、より明るく、色鮮やかで、広い視野角が得られるというメリットがあります。その結果、1280×720のハイビジョン画像と相まって、ロービジョンの人たちに、これまで見ることができなかった鮮明な画像を提供できるようになるのです。

(左)内側に装着される超小型化されたレーザー照射プロジェクターユニット
(右)「網膜走査型レーザアイウェア」の基本セット
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「網膜走査型レーザアイウェア」の機構図
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将来的には中心暗点をはじめ様々な症状に対応。
幅広くロービジョンをサポート

ひとくちにロービジョンといっても、中心部分が見えにくくなる中心暗点や視野が極端に狭くなる視野狭窄(しやきょうさく)など、様々な症状があります。また、障がいのある部位も目のレンズ部分である前眼部であったり、スクリーンやフィルムにあたる網膜部分であったり、多種多様です。しかし多くの場合、「レーザーを応用する網膜走査光学系なら、先ほども言いましたように、水晶体や角膜などの状態――もっともまったく光を通さない状態ではムリですが――に関わらず映像を描画することができます。暗くなると見えにくくなる夜盲症の場合でも明るい映像に加工することで見えるようにできます。前眼部の障がいにはほぼ対応できるといってもいいかもしれません。また、網膜に対しても、正常に機能している部分を見つけて、そこにレーザーを照射することで視覚を補助することができます。場合によっては、2画面構成にすることも可能です。たとえば、中心暗点の場合など、真ん中の見ることができない部分を別映像としてレーザー照射し描画することで、解決できる可能性があるのです」。
網膜には光を感じる細胞と色を感じる細胞があります。光を感じる細胞はかなり広範囲に存在していますが、色を感じる細胞はごく限られた数しか存在しません。そのような中、網膜走査型レーザアイウェアが正常に機能している部位を選んでレーザー照射できるのは、広い視野角が得られるから。これにより、ピンポイント的に選んだ部位への照射が可能になるのです。また、フォーカスフリーの実現で、近景と遠景によってピントを切りかえる必要がなくなり、目の疲れを抑えることが可能になっています。いわば、目にやさしいアイウェアなのです。

 
眼球の構造を説明する宮内さん
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(左)様々なロービジョンの症状と(右)その解決策
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1日も早く販売をはじめてほしい……。
ロービジョンの人たちから熱いラブコールが

開発がスタートして3年。これまで、国内外の展示会などでロービジョンの人からそうではない人まで、5,000人を超える人たちが網膜走査型レーザアイウェアを体験しました。
「ある人からは“今まで、人の表情を見ながら会話することがありませんでした。人の目を見て話すということが初めて体験できました”と喜びの声をいただきましたし、“一体いつ市販されるんですか。1日も早く使いたい”と希望される方もいらっしゃいました。網膜走査型レーザアイウェアに対する期待はそれほど高いのか……と実感しています。その声が責任の重さを改めて心に刻み、開発のモチベーションを高めるよりどころになっています」。
ロービジョンの人たちからの熱いラブコールが、宮内さんをはじめ開発スタッフの意識的な追い風となっているようです。
また、モニタリングと同時に、臨床データの取得も行われています。これまで、年齢70~90歳の白内障の方の多くが0.5程度の視力を得たという結果が出ており、ロービジョンにまでは至っていない人たちにも同様の結果が報告されています。このことからも、網膜走査型レーザアイウェアへの人々の期待はますます高まっています。

展示会で多くの人がレーザアイウェアを体験
(左)視力の低い人への改善が認められる臨床データ
(右)展示会で多くの人がレーザアイウェアを体験
*左の画像はクリックするとPDFが開きます。

今後は、より一層の小型・軽量化と省電力化を追求。
メガネのように気軽に使える高性能アイウェアをめざす

フレームの外に大きなアタッチメントを装着するスマートグラスが多い中、網膜走査型レーザアイウェアは、それらを内側に収めることができるというメリットがあります。これは、前述のようにロービジョンの人たちにとって違和感なく装着できるという安心感を与えてくれます。
「私たちがめざしているのは、“メガネ”です。網膜走査型レーザアイウェアを、視力を矯正するために当たり前のように使われているメガネのような存在にするのが夢です。そのためにも、私たちが培ってきたナノテク、半導体技術を駆使するとともに、さらにブラッシュアップすることで、より一層の小型・軽量化と省電力化を実現していきます。至近の目標は、無線化とバッテリーの小容量化ですね。また、瞳孔の真ん中に光を収束させなければならないということや安全性の観点から、静止状態での使用を推奨していますが、今後は動きをともなう際でもサポートができるようにしていきたいと考えています」。
医薬品や医療機器などの審査関連業務を行っている独立行政法人 医薬品医療機器総合機構も網膜走査型レーザアイウェアに対し様々な助言をしてくれているとのこと。また、QDレーザのある神奈川県川崎市は、かわさき基準(※7)の理念に基づいて高齢者や障がい者などへ多様なサービス・製品を創出し、活用を促進することにより、 新たな川崎の活力を生み出すとともに、社会システムを構築する「ウェルフェアイノベーション」を推進しています。このような開発を前進させる環境が整いつつある中、宮内さんをはじめ網膜走査型レーザアイウェア開発スタッフの夢は、実現への道をまっしぐらに進んでいるようです。

※7:かわさき基準…利用者にとって最適な福祉製品のあり方を示した、川崎市独自の基準。高齢者や障がい者自身が社会に貢献できることをめざして、自立支援を中心概念としている。

 
網膜走査型レーザアイウェアの未来を熱く語る宮内さん
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編集後記

今や、医療・福祉分野は、国の戦略的政策の一環となり、わが国の将来を決める基幹ファクターとなっています。そんな中、次々と先端ICTがこれらの領域に投入され、その研究・開発が活況の様相を呈しています。特に、視覚に関しては、情報伝達の80%以上を占めることもあり、様々な機関や企業が力を注いでいます。
今回ご紹介しました、網膜走査型レーザアイウェアもそのひとつ。バリアフリーデザインとフォーカスフリーという画期的なメリットを持ち、近い将来、ロービジョンの人たちのQOL改善に大いに役立つものと考えられています。多くのモニターからも期待が寄せられ、いち早い市場への登場が求められています。
数多くのロービジョンの人たちから、製品化を求められている網膜走査型レーザアイウェア。実際に世に出る日が、待ち遠しい限りです。

「網膜走査型レーザアイウェア」のお問い合わせ

株式会社QDレーザ
〒210-0855
神奈川県川崎市川崎区南渡田町1番1号京浜ビル1階
TEL. 044-333-3338 
E-mail :lew@qdlaser.com
URL :http://www.qdlaser.com

網膜走査型レーザアイウェア
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