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【ICTレポート】第18回 ユーザー参加型視覚障がい支援スマートフォンアプリ「ミミミル」

視覚に障がいのある人を、皆でサポートするアプリが近日登場。めざすは“10秒でできるボランティア”。

 
“10秒でできるボランティア”をキャッチフレーズに、リリースを待つ「ミミミル」の操作画面
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いわゆるネット社会は、とても便利な暮らしを提供してくれています。わからないことがあれば、すぐに検索して情報を得ることができます。かつては、図書館にこもったり、専門家に電話や手紙を出し、答えを求めなければならなかったのに、わずか数分パソコンやスマートフォンにアクセスするだけで、世界中の情報を手に入れることができるようになったのです。
そのような状況の中、検索では解決できないような疑問に関して、皆の知識を動員して答えを見つけようというサービスがあります。それが「教えて!Goo」「Yahoo!知恵袋」「人力検索はてな」などのユーザー参加型Q&Aサイトです。知りたいことのある人が、その内容をサイトに投稿すると、それについての知識を持った人たちが回答を寄せてくれるというものです。
この仕組みをもっとリアルタイムに活用することで、視覚障がいのある人たちのコミュニケーションに活かせないものか……そう考えて、新しいアプリの開発に注力されている人がいます。それが、株式会社ウェアラブルデバイス総合研究所 代表取締役の久田智之さん。今回は、久田さんにユーザー参加型視覚障がい支援スマートフォンアプリ「ミミミル」についてお伺いしました。

 
「ミミミル」のコンセプトなどを熱く語る久田さん
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テレビ電話のように、参加した人たちが視覚障がいのある人の“目”となって
疑問に応える「ミミミル」

ICTの発展で、視覚障がいのある人への様々なサービスが充実してきました。たとえば、行き先を入力すれば、どのルートで行けばいいかを詳細に教えてくれるナビゲーションアプリを使って外出を楽しむ、視覚に障がいのある人が増えています。しかし、その便利なナビゲ―ションアプリにしても、バスの時刻表などの詳しい記載をしているものは少なく、いったい何時のバスに乗ればいいかなどは、周りの人に尋ねたりしなければならない状況です。また、日常生活においては、靴下の色がわからずに左右揃っていない靴下を履いて外出してしまったという視覚障がいの人がたくさんいらっしゃるそうです。
晴眼者の同居人などがいる方なら、すぐに尋ねられるかもしれませんが、ひとり暮らしの人や、ひとりで外出したとき、夫婦(同居人)ともに視覚障がいがある、家の人が外出している、という場合は困るときがあります。とりわけ外出時には、そばに人がいるかもわからないのに、「誰か助けてくださいませんか」と声をはりあげるのは、かなり勇気が必要となります。
こんなとき、気軽に時刻表や靴下の動画を送信して、見える人にその内容や色を教えてもらえたら、どんなに便利なことか。そういった「ちょっとした疑問」を解決してくれるのが、ユーザー参加型視覚障がい支援スマートフォンアプリ「ミミミル」です。
「ミミミル」の使用の流れは、まず、視覚に障がいのある人が、知りたい対象物の動画をアプリを使って送信します。動画は登録されたボランティアの人たちに配信されます。ボランティアの人たちは、送られてきた動画を見て、情報を返信するというものです。いわゆる“テレビ電話”を使うような感覚です。
近年、画像解析技術の進化により、JIS規格に適合した物などの判別は比較的容易になってきました。たとえば、対象物がコップかマグカップか湯呑茶碗なのかなどは識別できるようになっています。しかし、それらの器の中身がコーヒーなのか紅茶なのか、はたまたビールなのかの認識はまだできないのが実状です。また、缶詰などでも、缶詰であることは触感などで認識できても、缶詰の中身や、缶に記載された賞味期限まではわかりません。このような「ちょっとしたこと」の認識のお手伝いをしようというのが、「ミミミル」なのです。もちろん、先にあげたバスの時刻表などの問題も解決可能です。

(左)「ミミミル」の呼び出し画面。視覚障がいのある人から「ミミミル」が発信されると、登録されたボランティアに通知が届きます
(右)画像送信画面。知りたい対象物の画像データは双方に表示されます
*いずれもイメージです
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ある視覚障がいのある人との出会いが
「ミミミル」誕生のきっかけをつくった

「ミミミル」開発に注力する久田さんの本業は、パソコンのプログラム設計やシステム構築。パソコンソフト開発の会社を運営していた父親の影響で中学生のころからプログラムの道に入り、「自分が設計したプログラムが実際に動いて機能することの喜び」を知って以来、この仕事に熱中していき、今に至っているそうです。
そのような中、5年ほど前にウェアラブルデバイスの開発をはじめたといいます。最初は、SF的なウェアラブルデバイスを想定して開発に勤しんでいましたが、いろいろ学んでいくうちに、「ウェアラブルデバイスは、人間の機能を伸張させるのではなく、補うものであるべき」という思いに辿りつきました。ちょうどそのころ、視覚に障がいのある長谷川貞夫さんと出会います。70代半ばの彼は、20代のころに全盲になり、これまで様々な盲学校の校長を務めてきました。また、パソコンにも精通していて、パソコンを使って視覚に障がいのある人の支援を行っている人物でした。彼の「ぼくは、盲ろうの人たちを支援したい」という話を聞いて、久田さんは感動したといいます。「自身も視覚に障がいのある人が、視覚と聴覚に障がいのある人を支援したい、とはあまりにもカッコいい」と。
そこで、久田さんはウェアラブルデバイスの開発の方向性を、視覚障がいのある人の支援に絞りました。それが、今回のアプリの原点となる眼鏡型ウェアラブルデバイス。そのときから「ミミミル」と名付けられていたこのデバイスは、視覚障がいのある人が装着して、そこに内蔵されているカメラで対象物を撮影し、その画像を多数の人たちに配信して答えを返信してもらうというものでした。このデバイスは開発途中ながら、2013年のMA9 Mashup Camp(※)大阪でNTTドコモ賞、KDDIウェブコミュニケーションズ賞、TechWave賞などを、また2014年のナレッジイノベーションアワードでは優秀賞を獲得するなど、多くの賞を受賞しています。
そんな前途洋々だった久田さんですが、ある疑問が生まれていました。それは、「『ミミミル』をウェアラブルデバイスにこだわって開発していっていいものか?」ということでした。話題にはのぼるものの、まだまだ高価格で、使い勝手も複雑であるなど、普及に時間がかかりそうなウェアラブルデバイスに執着していたら、視覚障がいのある人をサポートするという目的が果たせないのではないか、という思いがこみあげてきたのです。「ウェアラブルデバイスのアプリとしてではなく、広く普及しているスマートフォンのアプリを開発しよう!」そんな決心から、新しい「ミミミル」開発へのチャレンジがはじまりました。

※:国内最大級のウェブアプリケーション開発コンテスト、「Mashup Awards」の公式ハッカソン(ソフトウェア開発者が、一定の期間集中してプログラムの開発やサービスの考案といった共同作業を行い、その技能やアイデアを競う催しのこと)イベント。

 
長谷川さんとの出会いなど「ミミミル」開発の経緯を語る久田さん
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長谷川さん、日本Androidの会福祉部との連携で
様々な情報を入手し、スマートフォンアプリを構築

久田さんは、iOSと並んでスマートフォンOSの代表であるAndroidのアプリやデバイスの開発に関わる人たちが集う、日本Androidの会の福祉部に属しています。もともと前出の長谷川さんとは、この会を通じて知り合いました。この日本Androidの会を通じて、久田さんは様々なリサーチや展示会出展を行い、アプリという形での「ミミミル」の開発を進めてきました。
たとえば、リサーチ活動では、「ミミミル」の実証実験として視覚障がいのある人たちとの「食事会」を開催し、その席で「ミミミル」を使ってもらい、使用感などを聞き取りしてきました。久田さん曰く「食事会の中で、どれくらい料理が残っているかを聞くことができるとうれしい、などの意見も出ました。残さず食べたいと思いながらも、どれくらい残っているかわからず、それを周りの人に尋ねるのも悪い気がして、なかなかうまくいかない視覚障がいのある人がいらっしゃるようです。それが原因で外出を控えられたり……。そんな些細なことを『ミミミル』なら解決できそうだと思いました」。会を通じて長谷川さんへの相談も数多く行われました。
長谷川さんやリサーチに参加した人たちからは「日本人はどちらかといえば人見知りの傾向がある。突然、まったく知らない人から返信が来たら、びっくりしてサービスを受けるのを止めてしまうかもしれない。お試し感覚で参加できるように、まずは親しい人からの返信に限るのがよいのではないか」という意見をいただき、初期段階では、返信してくれる人の登録を限定するなどの検討を行いました。
また、視覚に障がいのある人が対象物をうまく撮影できるように、動画モードを開発し実験を行っているのだそうです。「『ミミミル』のテレビ電話的な特性を用いて、遠方にいるボランティアの人が一緒に画面を見ながら、撮影する対象物がスマートフォンの画面のフレームに入るよう、もうちょっと上とかもうちょっと右とか言いながら、お手伝いするという形になります」
このようなたくさんの工夫を重ねながら、「ミミミル」の開発は進められ、いよいよ近日、本格的なリリースの準備ができるまでになったのです。

(左)食事会の風景。皆さん、「ミミミル」を使って食事を楽しまれています
(右)別室で、「ミミミル」を装着した視覚障がいのある方をサポートするヘルパーさん
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「10秒でできるボランティア」を広げていきたい
皆で視覚障がいのある人を支える社会を築きたい

久田さん曰く「『ミミミル』は、“10秒でできるボランティア”を実現するユーザー参加型のスマートフォンアプリです。アプリをスマートフォンにダウンロードしておけば、電車に乗っているときでも、ランチを食べている最中でも、わずかな時間で視覚障がいのある人へのボランティアができます。まとまった時間を取ることができない、とか、わざわざ遠くへ出かけることができない……という理由で、ボランティアをあきらめていた人たちにも気軽に参加してもらえます。リリースしたら、たくさんの人たちに参加していただければうれしいです。私はテレビや雑誌で気になる芸能人などを見たときに、そばにいる人に『この人、誰だったっけ?』とよく訊くのですが、そのくらい気軽に、視覚障がいのある人が、『この缶の賞味期限、誰かちょっと教えて』『今着てる服の上下と色の組み合わせ、変じゃないかな?』など、訊いて知ることができるようになればいいな、というのが『ミミミル』のコンセプトです」。
さらに続けて「『ミミミル』がめざしているのは、障がいのある人たちを皆が支えるような社会づくりです。そのためにも、今は返信者を限定するような仕様を予定していますが、今後は、広く返信できるような機能を追加していきたいと考えています。まったく知らない人から返信が届くということは、新しい出会いが生まれるということです。ICTを活用して、そのような人と人をつなぐような活動をすることが、私の夢であり、理想なのです。まだまだ開発途上で、実は、リリースがゴールではなく、その時から本当の『ミミミル』の開発がスタートするのだと考えています。参加してくださる人たちと一緒に『ミミミル』を育てていきたいと考えています」。
ロボットにも興味深々だという久田さん。コミュニケーションロボット「ペッパー」に関するアプリ制作の実績もありますが、「いつか、ロボットの機能のひとつとして『ミミミル』が搭載されるようになったらうれしいですね」と微笑みながら語ります。

ICTは進展しているものの、まだまだ日常で役立つ「ちょっと」が足りない状況があります。この「ちょっと」を補うものが求められているのです。そんな中、久田さんの「ミミミル」は、今もこれからも問題解決のための大きな可能性を持っています。近日中のリリースが楽しみです。リリースのあかつきには、ぜひ、皆さん、ふるってのご参加、アプリダウンロードをお願いします。

 
「ミミミル」の未来について明るく話す久田さん
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編集後記

昨今、医療分野や福祉領域においてICTとの連動が模索されています。そのような状況の下、ICT開発者の中には、医療や福祉への関心を持つ人たちが増えるとともに、実際のコラボレーション例も増えてきています。そのひとつが「ミミミル」です。久田さんもおっしゃっていたように「ICTは、人の機能を伸張させるだけではなく、補うことも大きな役目」です。そして、その開発は、作る人の意向だけではなく、使う人のニーズに応えたものでなくてはなりません。
皆でアプリをつくり、皆で視覚障がいのある人を支え、皆が楽しく生活できるような理想の社会づくりの一環として「ミミミル」が普及していくことを望んでいます。久田さんには、これからもますます活躍していただきたいのものです。

「ミミミル」へのお問合せ先

株式会社ウェアラブルデバイス総合研究所
代表取締役:久田智之
〒150-0002
東京都渋谷区3-5-16 渋谷三丁目スクエアビル2F
E-mail: welcome@wdri.jp
URL: http://wdri.jp/
「ミミミル」サイト:http://mimimiru.jp/

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