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【ICTレポート】第17回 パーソナルモビリティ「WHILL」

美しいデザインと高い走行性能との融合。乗った人が思わず出掛けたくなる、車いすを超えたパーソナルモビリティ。

 
機能的で美しいデザインに包まれた「WHILL Model A」
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皆さん、この写真に写っているモノは何だと思われますか? 近未来の電気自動車? 自走式のロボット? タイムマシン? マッサージチェア?
実は、これ、WHILL株式会社というベンチャー企業が開発した「WHILL Model A」(以下、WHILL)というパーソナルモビリティ。「100m先のコンビニに行くのをあきらめる」というひとりの車いすユーザーの言葉をきっかけに “全ての人の移動を楽しくスマートに”するため、まったく新しい発想から開発された電動車いす=モビリティです。
「これに乗って、外に出掛けてみたい」と思わずにはいられない、パーソナルモビリティ。この美しくハイテクな車いすは、個人ユーザーはもちろん、企業や自治体などからも注目が集まっていて、2014年9月の発売開始から出荷台数は日米合計で500台(2016年1月)を超えているそうです。
今回は、生産・販売を行うWHILL株式会社の営業・マーケティング2部の部長である杉山純一さんに、「WHILL Model A」の詳細情報や開発の経緯、将来の展望などをお伺いしました。大きなイノベーションを起こしそうなモビリティのお話をお楽しみください。

 
お話を伺ったWHILL株式会社の杉山純一さん
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誰もが「乗りたい」と憧れるスタイリッシュなデザイン

「車いすユーザーの方々から車いすの利用には2つのバリアがあるとよくお伺いします。ひとつは車いすに乗って出掛けること自体にためらいや不安を感じてしまう、という心理的なバリアです」と話す杉山さん。それは、“100m先のコンビニへ行くのもあきらめる”というユーザーの切実な言葉に象徴されています。
“全ての人の移動を楽しくスマートに”が開発コンセプトです。まず、外観デザインにこだわりました。「WHILL Model Aは単なる移動手段ではなく、お使いになる方の日常に溶け込むパートナーとして、より“これに乗って出掛けたい”という気持ちを引き出すデザインをめざしました。単にスタイリッシュでスマートなだけでなく、快適な使い心地と直感的な操作を実現するデザインです」
オン・オフや変速を行うメインスイッチは使いやすく、オン時には、インジケーターが点灯、5つのLEDでバッテリー残量も表示し、まるでSF映画に登場するマシンのようです。また、コントローラーは、面で圧力を伝えられるマウスタイプ。微力でもコントロール可能で、心地良い操作感が味わえます。さらに、上方向に稼働するアームと、手元のコントローラーで最大15cm前方にスライドするシートにより、乗り降りもスムーズに行えます。この可動式シートは、ベッドからの移動はもちろんのこと、テーブルでの食事の際に、シートを前に動かすことで机の下に潜り込み、お腹とテーブルの距離が接近します。それにより食事の際にわざわざ椅子に乗り換える必要もなく、外食先では特に便利です。見た目が美しいだけでなく、使う人にやさしいデザインを実現しています。
背もたれにあるフック(突起)にリュックサックをかけてシートに乗り込んだら、あとはスイッチを入れて行きたい方向にコントローラーを傾けるだけ。WHILLはユーザーの一部として、心地良い移動をスマートに実現してくれるパーソナルモビリティなのです。

 
(左)いす部分をブラックアウトしたスタイリッシュなフォルム
(中)メインスイッチを入れるとLEDが点灯。カッコいい!
(右)わずかな力で自在に操作できるマウスコントローラー
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シートは前にスライド、アームは回転するなど、利用者の声を反映した、乗りやすさを考えたデザイン
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道を選ばず、「行きたいところに行ける」高い走行性能

「2つめのバリアは段差が乗り越えられない、溝にはまってしまう、砂利道が走れないといった物理的なバリアです」と杉山さん。その解決に向けて行われたのが、オリジナル前輪の開発でした。それが、「オムニホイール(全方位タイヤ)」です。
車いすによく使われているキャスターは、小回りが利きますが、段差に弱いというデメリットがありました。大きなタイヤを採用すれば段差に強くなるのですが、小回りが利かなくなります。そこで、段差にも強く小回りも利くという2つのメリットを併せ持つ「オムニホイール」を、最先端の技術を結集し、独自に開発することになったのです。倉庫などの平坦なところで重量のあるものを運ぶ大型搬送機に使われていたタイヤを、数年かけて研究・分析して開発。個別に回転する24個の小さなタイヤで構成することにより、ひとつずつ回転するタイヤが、自由な方向転換を可能にし、小回りが利くと同時に段差にも強いという相反する2つの特性を獲得することができました。
「オムニホイール」の開発により、幅60cmのコンパクトな車体は、後輪を中心にその場で、最小回転半径70cmでの回転を実現。さらに、後輪と前輪が両方駆動する四輪駆動により、7.5cmの段差も乗り越えることができ、細い路地、砂利道、芝生、でこぼこ道など、道を選ばず、行きたいところに行けるスペックを得ています。また、進む方向により向きが変わるキャスターに比べると、操作時のタイムラグがなく、スムーズな操作感が楽しめます。
登坂能力は10°を実現。日本の坂道の70%以上が10°以下であるというデータもあり、国内のほとんどの道で使うことができるのも魅力です。これまでは、屋内用、屋外用、レジャー用など用途に合わせて、使い分ける方も多かった車いすですが、WHILLなら一台で、行きたいところに出掛けられるのです。

 
(左)24個の小さなタイヤが自在に回転する「オムニホイール」
(右)これにより回転も自在に
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iPhoneを使って「思いのまま」のコントロールを実現

WHILLが好評を得ているのは、デザインや性能だけではありません。他にも画期的なアイデアが盛り込まれています。それが、iPhoneアプリを使ってのコントロール。専用のアプリケーションをインストールし、Bluetooth LEでWHILLとiPhoneを接続すれば、WHILLの細かい速度や加減速度の設定が思いのままにできます。つまり、ユーザーが一番使いやすい状態へと簡単にカスタマイズできるのです。
また、リモートコントロール機能を使えば、iPhoneをリモコンにしてWHILLを操作することも可能。これまで、車いすでは介護する人と介護される人が前後の位置関係にならざるを得なかったのが、並んで動くことができ、よりスムーズなコミュニケーションが取れるようになっています。また、降りた後でのWHILLの移動、たとえば、ちょっと隅に寄せたいとか車に載せたいという際にもスマートな対応ができるようになりました。

 
(左)iPhoneアプリによるスピードなどの調整画面
(右)リモートコントローラーの画面
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「自分らしく」カスタマイズできるフィッティング&豊富なオプション

WHILLは、シートの長さ・高さ・角度、フットサポートの長さ・高さ・角度、アームの長さ・角度、バックサポートの角度は、ユーザー一人ひとりにフィットするようお届け時に調整しています。
また、コントローラーの形状もマウスタイプとグリップタイプの2種類を選べたり、アームサポートや杖ホルダー、カップホルダー、iPhoneホルダー、LEDライトなど(※)を装着できるなど、豊富なオプション・アクセサリーが揃えられています。自分らしく使いこなすことができるからこそ、パーソナルモビリティなのです。

※:杖ホルダー、カップホルダー、iPhoneホルダー、LEDライトは別売り。杖ホルダー以外は「フロントタイダウン」の取り付けが必要です。

 
各ユーザーにフィットするよう調整可能
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全ての人の移動を楽しくスマートに

ここからは、WHILL開発の経緯やユーザーの声、将来の構想などを、杉山さんにインタビュー形式でお伺いしたいと思います。

 
WHILLについて熱く語る杉山さん
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編集部:WHILLはどういった経緯で開発されたのですか?
杉山:もともと大学の同期だった福岡(現CTO:最高技術責任者)や内藤(現 CDO:最高開発責任者)が学生時代の仲間たちと週末に集まって、ものづくり活動をしていて、面白い物を作るということをやっていました。そこに工業デザイナーをしていた杉江(現CEO)も参加。WHILLはその活動の中で生まれました。一年間の開発を終えて、どうせだったら最先端の乗り物が出る東京モーターショーへの出展をめざすことに。そこで日本だけでなく、世界中の来場者から非常に大きな反響がありました。その後、車いすメーカーの社長をされていたある方の声、『本気でやる気がないなら今すぐやめろ』 をきっかけに、3人は当時の仕事を辞め、2012年5月に創業しました。
開発には、数年の歳月が必要でした。構造、タイヤなど、課題はたくさんありましたが、一つひとつ克服していって、2014年、ついに販売にこぎつけました。

 
(左)横浜のWHILL本社にて
(右)WHILLのコンパクトながら堅牢な基礎部分
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WHILLのコンセプトムービー

編集部:今や、あちらこちらで話題になっていますね。
杉山:ありがたいことに、この半年で、点が線につながった……という実感を得ています。累計出荷台数は500台を超え、お客様にも常にお待ちいただいるような状況です。様々な大手企業とのコラボレーションも行っています。たとえば、NTTドコモさんには、WHILLを活用したシェアリングサービスの展開を行っていただいています。また、ANAさん(全日本空輸株式会社)には、WHILLを体験できるツアーを実施いただきました。こういった取り組みにより実証を繰り返し、WHILLの進化につなげていきたいと考えています。その他にも様々な観点でWHILLを活用した新しいビジネスモデルの開発を推進しており、WHILLがもっと身近に、どこでも利用できるような環境を整えていきたいと思っています。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、今後、様々なコラボレーションがあると期待しています。

 
(左)出荷を待つ倉庫いっぱいのWHILL
(右)事務所に飾られた賞状などの一部
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編集部:賞もたくさんもらっておられるそうですが。
杉山:おかげさまで、2015年度の「グッドデザイン賞」では、大賞(内閣総理大臣賞)をいただきました。2014年には、「日経優秀製品・サービス賞」の最優秀賞、「日本イノベーター大賞」の優秀賞、「ベストチームオブザイヤー」の優秀賞など、たくさんの賞をいただいています。これらの受賞は、メンバーにとっても大きなモチベーションになりますね。
編集部:ユーザーの方々からは、どんな声が寄せられていますか?
杉山:たとえば「WHILLはとにかくカッコいいので、WHILLに乗って出掛けるときには、いつもよりオシャレしたくなります」とか「“できない”と諦めていたことが、“できる”に変わりました」とか「以前より外出の機会が増えました」など、ポジティブな気持ちになれたという意見が多いですね。やはり、スタイリッシュなデザインと走破性、先進性には高い評価をいただいているようです。車いすを自分なりにカスタマイズしてカッコよくされている車いすユーザーの方からも、「WHILLならそのまま乗っていてオシャレ」という感想も聞いています。日々使うものだからこそファッション性がほしい、というお声にも応えられているのであれば嬉しいですね。

編集部:最後に、WHILLの将来の夢というか展開をお聞かせ願えますか?
杉山:WHILLのコンセプト「全ての人の移動を楽しくスマートに」。これは、社会の形として実現したいと考えています。たとえば、自動車ではなく、自転車でもなく、徒歩でもなく、ゆっくりと風景を楽しんだり、風や季節の香りを楽しみながら移動する手段として、WHILLは、新たな世界観を提供できるモビリティだと考えています。
スモールシティやコンパクトシティの概念が具体化されていく中で、移動手段は変化していくことでしょう。「速さ」を主軸としたこれまでの価値観から、「楽しさ・カッコよさ・安心・安全」など、速さ以外の価値観にも目を向けられることが増え、「移動する行為自体に価値が生まれていく」ような未来がくるように思います。それゆえに、当たり前に様々なシーンで、WHILLがモビリティとして活用されている世界が、私たちの理想です。


WHILLユーザー大塚さんの使用シーン動画


PLAY!WHILL!

編集後記

今回お話を伺った杉山さんは、ソニーとリクルートでキャリアを積まれました。ソニーでは、「世の中にいいものを出すこと」を学び、リクルートでは「作ったものを世の中に伝え、届けること」を身につけられたそうです。それらの経験を活かし、WHILLの普及に努められています。
思いのままに外に出ること。その行為を通じて、人は様々な出会いを経験し、人生をより豊かなものにしていきます。杉山さんのお話を伺う中で、WHILLは、障がいのある人たちや外出が億劫になってきた高齢者など歩行困難者に、「外に出掛ける」きっかけやチャンスを与えてくれる理想的なモビリティのひとつというか、リーダー的な存在となっていることがよくわかりました。
また、スペックについてお伺いしている中、それらが限界値ではなく、実効値であることを知り、本当に誠意にあふれた企業だなと感じたものでした。
800年後の未来の地球。環境汚染が進み、人が住むことができないまでに荒廃してしまった地球を捨て、宇宙船「アクシオム」で生活し、動かずとも機械がすべてやってくれる環境の中で、超肥満化し、人と直接関わることもなくなってしまった人類を描いたディズニー映画「ウォーリー」を常に意識しているという杉山さん。技術が発展する中、移動することの大切さを多くの人に体感してほしいと願われています。
WHILLが、「カッコいいデザイン」と「すごいテクノロジー」で、人々の移動手段により大きなイノベーションを起こすことを期待しています。ありがとうございました。

-WHILLスペック詳細-
「WHILL Model A」
最高速度:6km/h
走行距離:20km(路面状況などにより変化)
登坂力:10°
段差乗り越え高さ:7.5cm
サイズ:長さ89cm×幅 60 cm×高さ90㎝
     最小回転半径:70cm
最低地上高(空車時):8.9cm
前輪:オムニホイール(全方位タイヤ)
後輪:ノンパンクタイヤ
バックサポート角度:94°、96°、98°、100°
フットサポート角度:0°~10°(無段階)
駆動方式:4輪駆動
ブレーキ:電磁ブレーキ
スピードコントローラー:3段階(遅/中/速)
電動スライドシート:前後15cm
モーター:24V × 2
バッテリー:鉛12V 50Ah × 2
使用環境:-15℃~40℃
充電器:据え置き型
充電時間:9時間
重量:116kg
本体価格:995,000円(非課税) 送料調整費別
カラーはホワイトとグレイの2色
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-企業概要-
会社名:WHILL 株式会社(WHILL, Inc.)
CEO:杉江 理(すぎえ さとし)
所在地:日本本社/〒230-0045
神奈川県横浜市鶴見区末広町1-1-40
横浜市産学共同研究センター実験棟F区画
電話:045-633-1471
FAX:045-633-1472
アメリカ本社/285 Old County Rd #6
San Carlos CA, 94070 United States
+1-844-MY-WHILL
+1-844-699-4455
設立:2012年5月
主な事業内容:パーソナルモビリティの生産・販売
従業員数:30名(日本、アメリカ、台湾) ※2015年5月現在
WHILL
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