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【ICTレポート】第10回 NECソリューションイノベータ株式会社 「遠隔要約筆記支援システム」

聴覚障がいのある方をサポートする要約筆記者の事前調整の負担を軽減するとともに、遠隔地からでも要約筆記ができる環境を提供。

離れていても要約筆記のサポートができる「遠隔要約筆記支援システム」  
離れていても要約筆記のサポートができる「遠隔要約筆記支援システム」
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皆さん、こんにちは。ドリームアーク編集部です。
皆さんは、“要約筆記”というサポートがあるのをご存じでしょうか。
これは、聴覚障がいのある方(おもに手話をあまり使用しない途中失聴や難聴の方)への意志疎通支援のひとつで、授業や講演、会議などで話されている内容を要約し、パソコンなどで文字に変換して提供するサポートのことです。この要約と文字入力の作業をする人を要約筆記者といいますが、慢性的な人員不足に加え、現場に同席しなければ作業ができないことなども相まって、十分なサポートが実施できていないのが実状です。
今回のICTレポートでは、この状況を改善し、広く要約筆記を普及させることを目的に開発されたNECソリューションイノベータ株式会社の「遠隔要約筆記支援システム」をご紹介します。ナビゲーターは、開発を担当された足尾さんです。では、足尾さん、よろしくお願いします。

ナビゲーターを務めてくださる足尾勉さん  
ナビゲーターを務めてくださる足尾勉さん
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要約筆記の課題は、
慢性的な人員不足と距離・時間の制約

皆さん、はじめまして。NECソリューションイノベータ株式会社の足尾勉と申します。研究・開発を担当する部署でグループマネージャーをしています。
「遠隔要約筆記支援システム」をご紹介する前に、まず、要約筆記支援が置かれている背景や課題をお伝えしたいと思います。
日本で聴覚障がいのある人は18歳以上が約34万人、18歳未満が約1.7万人。18歳以上の聴覚障がい者のうち、要約筆記を利用されている人は30%程の約10万人いるとされています(※1)。一方、国内の自治体に登録されている要約筆記者の数は約1万人(※2)。要約筆記を利用しているとされている約10万人に対して、地域差もありますが10%程しか確保できていません。また、2013年4月に施行された障害者総合支援法では、要約筆記支援事業は意志疎通支援として必須事業に定められていますが、派遣の実施状況は約51%に留まっています(※3)
このような状況に陥っている原因として、要約筆記者として登録するには数カ月の研修が必要なことや、要約筆記者自身も授業や仕事があるため、すべての支援要請に対応できないことが考えられます。また、大学などの授業内容は専門知識が必要なため在校生(上級生)が支援することが多いですが、卒業などにより体制維持やノウハウの蓄積が難しい状況があります。さらに、現地におもむかなければ支援できないため、距離や時間の制約がネックになっていることも挙げられます。地域によっては、登録者数が少なく、必要時に必要な要約筆記者の確保・調整ができないケースもあるようです。そのため、今後進んでいく超高齢社会では、地域の垣根を超えた、より広域での支援が必要となり、要約筆記者の移動にかかるコスト増加も懸念されています。
これらの、慢性的な要約筆記者の不足や距離・時間による制約という要約筆記支援が抱える課題を解消したいと考え、開発したのが「遠隔要約筆記支援システム」なのです。

厚生労働省 平成18年身体障害児・者実態調査結果(2008/3/24)より抜粋 厚生労働省 障害者保健福祉関係主管課長会議資料(2013/2/25)より抜粋
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※1:厚生労働省「平成18年身体障害児・者実態調査結果」
※2:厚生労働省「平成21年度障害者自立支援調査研究プロジェクト 要約筆記者養成等調査検討事業報告書」
※3:厚生労働省「障害者保健福祉関係主管課長会議資料」(2013年2月25日)

「遠隔要約筆記支援システム」を導入すれば、場所にとらわれず要約筆記ができる!支援者の確保・調整作業を簡易化できる!

「遠隔要約筆記支援システム」のフローと機能  
「遠隔要約筆記支援システム」のフローと機能
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では、いよいよ「遠隔要約筆記支援システム」について、詳しく説明していきたいと思います。
まず、このシステムが提供する機能は、おもに2つあります。ひとつが、授業が行われている教室や講演の会場などの現地にいる要支援者と遠隔地にいる要約筆記者をインターネットで結び、要約筆記支援を実施するということです。もうひとつが、支援依頼と支援受託のマッチングを行うということになります。
これら2つの機能により、3つのメリットを作りだすことができます。まず、要支援者と要約筆記者をネットワークで結ぶことにより、①場所にとらわれずに要約筆記ができるようになります。現地から送られてきた音声や映像を見聞きしながら、遠隔地の要約筆記者が要約テキストを入力し要支援者へ配信するので、要約筆記者が現地におもむかなくても支援ができるのです。
また、②要約筆記者同士が隣席していなくてもお互いの入力状況を共有することが可能。要約筆記者の作業には高度な連係が求められます。このシステムなら要約筆記者たちが遠く離れたところに居ても連係して入力ができるのです。
①②の結果、距離や時間の制約を超えた要約筆記支援ができるようになります。要約筆記者には、学生や社会人のボランティアが多く、実際に現場におもむかないと支援ができないことが参加へのハードルになっていました。少し空いた時間を使ってサポートするということができなかったのですね。現場と要約筆記者をインターネットで結ぶこのシステムを使えば、距離と時間に制約されない支援環境を作りだすことができるのです。

場所にとらわれない要約筆記支援の実現 筆記者入力状況の共有と連係入力 筆記者調整のワークフロー  
「遠隔要約筆記支援システム」の導入による3つのメリット
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さらに、支援依頼と支援受託のマッチングを行うことで、③要約筆記者の確保や調整にかかる時間や手間を少なくすることができます。これは、「要約筆記支援の依頼登録」「要約筆記者全員への支援依頼」「要約筆記者の支援登録」といった作業をワークフロー化して、一括管理できるからです。具体的には、学校や難聴者支援団体からの要約筆記支援依頼が登録されると、その日時と要約する授業や講演の概要が、登録している要約筆記者全員に随時メールで通知されます。要約筆記者は、スケジュールとスキルを勘案して支援する授業や講演を決定し、支援登録をするという仕組みです。また、大学などでは、春や秋の履修登録の時点で聴覚障がいのある学生が参加する授業が決まるため、半年間や1年間の支援情報を一括で登録できる機能も用意しています。このように様々な手続きのICT化を実施し、個別に依頼する時間と手間を省く効率化を図っているのです。
「遠隔要約筆記支援システム」の開発で、要約筆記支援の現場が抱える支援人員不足や、距離や時間による制約という課題に一石を投じることができたらいいな、と考えています。

「遠隔要約筆記支援システム」のマッチング・フロー  
「遠隔要約筆記支援システム」のマッチング・フロー
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要約筆記支援を、より役立つものに
使う人の立場に立った様々な付加機能を搭載

次に、「遠隔要約筆記支援システム」に付加されている、多彩な機能を紹介したいと思います。
まず、「要約筆記」に関わる付加機能ですが、話者が早口だったり、ついつい聴き逃したときのために、「リフレイン機能」を搭載しています。これを使えば、約30秒前までさかのぼって聴き直すことが可能です。「映像/手書きの差し込み」を使えば、カメラで撮っている黒板や現場風景などをキャプチャーして要約筆記テキストの中に挿入することが可能です。数式の記号など文字変換しづらいものも手書きで対応することができます。「要約筆記内容の強調」によって、大切な部分を赤字に色づけして表示することで、話の内容をより詳しく伝えられます。誤入力した場合には「要約筆記内容の修正」を用いて、範囲指定による訂正が可能なので、より正確なテキスト作りができます。もし、要支援者が要約筆記の内容について理解できない部分があれば、「利用者からの確認」を使って要約筆記者に直接問い合わせることもできます。また、要約筆記者から話者に対して、聴き取れなかった部分の再話や話すスピードの変更などをお願いすることも可能にしています。
これらの付加機能により、要約筆記支援の幅が広がれば、と願っています。

「映像/手書きの差し込み」を使って内容をより詳細に伝えることが可能  
「映像/手書きの差し込み」を使って内容をより詳細に伝えることが可能
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既存のネットワークシステムがそのまま活かせる
クラウド環境を提供する「遠隔要約筆記支援システム」

「遠隔要約筆記支援システム」の構成について説明します。
要支援者と要約筆記者のマッチングと、授業や講演の内容や要約テキストを配信する「運用サーバ」、授業や講演の内容配信と要約テキストを受信・表示する「利用者用クライアント」、授業や講演の内容配信と要約テキストを入力・配信する「支援者用クライアント」。この3つで「遠隔要約筆記支援システム」が構成されています。
続いて、導入するにあたって必要な機材を挙げてみましょう。
「利用者用クライアント」を利用するには、まずインターネット接続環境が必要です。できれば光回線とつながる無線LANなどでの接続が望ましいのですが、携帯電話回線(LTEや3G<第3世代携帯>)を利用したWi-Fiルーターでも対応できます。次に、Windows搭載のノートパソコン、これはタブレットでも大丈夫です。そして、ヘッドセットなどのマイク。これは、教師や講師など話をされる方にも使ってもらうものなので、Bluetoothなどの無線対応のものが適しています。それと必須ではありませんが、Webカメラが1台あると、黒板や話者の映像など現場の風景を遠隔地にいる要約筆記者に送ることができるので、よりきめ細やかな支援ができます。
「支援者用クライアント」を利用するには、「利用者用クライアント」と同様にインターネット接続環境とWindows搭載のノートパソコンが必要です。パソコンはデスクトップでもOKです。そしてヘッドホン。これはヘッドセットのものが使いやすいと思います。
運用サーバ(ASPサーバ)は、弊社にて運用しているので特に準備は不要です。もし、導入する組織で運用サーバも準備される場合は、Linuxが動作するサーバを利用し、インターネット接続環境を用意すればシステムを利用することができます。
このように「遠隔要約筆記支援システム」は、要支援者と要約筆記者が使うパソコンとインターネット環境が準備できれば、簡単に利用できるクラウド式のシステムです。現在、本システムを活用して遠隔要約筆記支援環境を提供するサービスを始めています。サービスを利用するための費用は、初期費用が10万円、利用料は1環境あたり、半年で8万円となっています。要約筆記支援にはほかにも様々なコストがかかるので、できるだけ低価格に抑えるよう努力しました。

ジェスチャーを交えて楽しくナビゲートする足尾さん  
ジェスチャーを交えて楽しくナビゲートする足尾さん
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岡山県の吉備国際大学がシステムを導入
様々な教育機関や団体でトライアルを実施中

「遠隔要約筆記支援システム」の導入事例を紹介しましょう。
2012年度下期に実証実験を行っていた岡山県の吉備国際大学では、実際に導入していただき運用してもらっています。要約筆記のオーソリティーである同大学の佐藤ただし教授の指導のもと、聴覚障がいのある学生さんが、Webカメラを搭載したタブレット型Windowsパソコンを携えて授業に出席し、別室にいる2人1組の学生要約筆記者が要約筆記を行っています。加えて、教壇に立つ先生にはBluetooth接続のヘッドセットを装着していただき、用語の確認や話す速度の調整など、要約筆記者とコミュニケーションしていただいています。
聴覚障がいのある学生さんからは「利用しやすいし、見なければならない場所を減らすことができるので、負荷が軽減されて、とてもうれしい」との感想をいただいています。学生要約筆記者からは「設定が簡単で、利用開始までの時間が少なくてすむので、これからもどんどん活用していきたい」とのコメントが寄せられています。

吉備国際大学での遠隔要約筆記支援システムを導入した授業風景1 吉備国際大学での遠隔要約筆記支援システムを導入した授業風景2
(左右とも)吉備国際大学での遠隔要約筆記支援システムを導入した授業風景
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また、弊社の経営企画部でも実際に運用しています。こちらは3人の要約筆記者を配して、東京・新木場の会議室と大阪のOBP(大阪ビジネスパーク)の会議室を結んで、経営企画部に在籍している聴覚障がいのある社員に対して、部会やグループ会議、キックオフなど多人数の会議での要約筆記支援を行っています。この活動を社員間のコミュニケーションに役立てるとともに、情報保障した要約筆記テキストを議事録のドラフトとして活用しています。

NECソリューションイノベータ内における「遠隔要約筆記支援システム」の運用イメージ  
NECソリューションイノベータ内における「遠隔要約筆記支援システム」の運用イメージ
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吉備国際大学のほか、岡山県と広島県の大学でも導入いただいています。また、大学では、大阪府で1校と京都府で2校、福祉団体では、長野県と奈良県でそれぞれ1団体がトライアルを実施中です。
このように、少しずつではありますが、遠隔要約筆記支援システムの輪は広がってきています。

システムだけでなく、ヒューマンの部分も重視した開発を
きっかけは、社内のアイデアコンテスト

ここまでで、「遠隔要約筆記支援システム」の概要については、ほぼ説明していただきました。次に、足尾さんに当システムについての思いや夢などをお伺いしたいと思います。

編集部:「遠隔要約筆記支援システム」は、どんなきっかけで開発がスタートしたのですか?
足尾:きっかけは、「イノベーションコンテスト」という社内のアイデアコンテストだったんですよ。ある年のコンテストで聴覚障がいのある子どもを持つ女性社員より「聴覚に障がいのある子どもが少しでも楽に授業が受けられたら……」という思いから、本システムのベースとなるアイデアの提案がありました。その提案が優秀賞を獲得し、私たちの部門での検討が始まりました。聴覚障がいのある学生や要約筆記者、教育機関などへのヒアリング、実現に向けての課題の分析などを行い、2011年に独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)に提案したところ「情報バリアフリー事業助成金」を得ることができ、研究が本格的に始動し、現在に至っています。

未来の夢を熱く語る足尾さん  
未来の夢を熱く語る足尾さん
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編集部:システムの開発だけではなく、要約筆記者養成に関する研究もされているとか?
足尾:はい。要約筆記者の人員不足は、この遠隔要約筆記支援システムだけでは解消できません。やはり、実際に要約筆記ができる人を増やしていく必要があると考えています。そこで、2013年度までの3年間、吉備国際大学の佐藤匡教授にご協力をいただき、eラーニングによる要約筆記者養成技術の研究を行いました。要約筆記者になるには、様々な要約のルールを身につけなければならないことに加えて、入力スピードを上げたり、ミスを少なくできるようにキータッチのスキルを高めなければなりません。結構ハードルが高いのです。この3年間で、様々なデータやノウハウを蓄積することができました。今後は、この技術をどのように事業化していくかが課題となっています。とにかく要約筆記者の人数を増やさないと……。システムがいかに進化しようとも、それを使いこなすのは、結局は人間なのですから。
編集部:ICTとは、つまり「ヒューマンテクノロジー」だということですね。

もっと使いやすく、もっと役に立つインターフェイスへ

編集部:今後、「遠隔要約筆記支援システム」はどのように進化していくのでしょうか?
足尾:まず、要支援者と要約筆記者、それぞれが安心して使えるように両者のアクセシビリティーの向上を図っていきたいと考えています。たとえば、要支援者が安心して使えるような工夫として、要約筆記者の接続状況や聴いている音量の確認ができる機能、筆記中、待機中、退席中など要約筆記者の入力状況がわかる表示など、要支援者の安心を高めるとともに要約筆記者の連係をより容易化、高度化することができる機能強化を行っています。この部分については、今春にも公開できる予定です。
今後も要支援者である聴覚障がい者や要約筆記者から要望や課題をいただくことと思いますが、課題解決に向けて研究開発を進めていきたいと思います。
編集部:これからもICTの夢をかなえるために、邁進してください。本日は、長時間にわたってのナビゲート、ありがとうございました。

編集後記

ICTとは、結局、人間本位のヒューマンテクノロジーなんだ。足尾さんのお話を伺っていて、それを再認識することができました。音声自動認識よりも人による要約筆記を採用するところなどに、人間本位の考えがひしひしと伝わってきました。
2014年4月にNECソフトやNECシステムテクノロジーなど7社を統合して設立されたNECソリューションイノベータ。社会価値を創造する社会ソリューション事業をめざし、ICTを活用したシステム開発を展開しています。その領域は、サイバーセキュリティや衛星システム、農業や水産養殖、そして医療や介護、メンタルヘルスなど広範囲に及んでいます。
最先端を疾駆しながらも、決して“人”を忘れない。今回の取材を通して、ICTのあり方や存在価値を学ばせていただきました。
これからもICTによる、誰もが豊かさを享受できる社会づくりを全力で進めていっていただきたいと願うものです。

-遠隔要約筆記支援システム概要-

システムイメージ
遠隔要約筆記支援システム概要  
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黄色部分のソフトウェアを提供
○遠隔要約筆記支援システム(クラウドサービス)※お客様環境へのオンプレミス導入の場合はご相談ください。
○遠隔要約筆記クライアントソフトウェア(無料配布)※現在はWindows版、今後Android/iOS版開発予定。
なお、要約筆記者は本システムを契約・運営される団体様にてご準備ください。

-企業概要-
会社名:NECソリューションイノベータ株式会社
設立年月日:1975年9月9日 ※2014年4月1日 NECソリューションイノベータ発足
代表者:代表取締役 執行役員社長 毛利隆重
事業内容:システムインテグレーション事業、サービス事業、基盤ソフトウェア開発事業、機器販売
本社所在地:東京都江東区新木場一丁目18番7号
TEL:(03)5534-2222(代)
ホームページ:http://www.nec-solutioninnovators.co.jp/
※「遠隔要約筆記支援システム」については、下記URLをご覧ください。
http://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sl/cnt/

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