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【ICTレポート】第8回 近畿大学 生物理工学部 人間工学科 人間支援ロボット研究室 北山 一郎 准教授 インタビュー

「生活支援ロボット」の研究・開発で、障がいのある人や高齢の人のQOL向上をサポート。

生活支援ロボットについて語る北山先生  
生活支援ロボットについて語る北山先生
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「ロボット」という言葉が初めて世に出たのは1920年のこと。チェコの作家カレル・チャペックが戯曲『R.U.R.(Rossum’s Universal Robots)』の中で使いました。ロボット製作会社R.U.R.を舞台に、人間の代わりに工場内で働くロボットたちが一致団結して、人間社会に対して反乱を起こすという内容の作品でした。これをきっかけに「ロボット」という言葉と概念が世に広まったのです。
1940年代に入るとSF作家のアイザック・アシモフが小説『われはロボット』で、第一条.ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。第二条.ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。第三条.ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。というロボット工学の三原則を提唱しました。以来、様々なSF小説でロボットが取り上げられるようになりました。
手塚治虫の『鉄腕アトム』や大阪万国博覧会のロボット関連の展示などで、1970年代には日本でもロボットが話題になりはじめました。1980年代に入ると、産業用ロボットが開発され、自動車の生産ラインなどで実際に稼働するようになります。ロボットが登場するアニメなどがたくさん放映されるようになったのもこのころからです。当時の作品に影響された人たちが、現在のロボット産業を支えているといってもいいでしょう。
その後、ロボットの研究は、大学や研究機関、企業などで活発に行われるようになり、今やロボット産業は、日本の経済を牽引するリーダー的な産業に成長しようとしています。
そのような状況の下、産業用だけでなく、ロボットをもっと生活の中で活用しようという動きがあります。たとえば、様々な人のQOL(Quality of Life:生活の質)の向上に役立てられないか、というものです(※1)
今回のレポートは、人間の生活を支援するロボットの研究・開発をされている近畿大学 生物理工学部 人間工学科の北山一郎准教授にお話を伺うため、和歌山県を訪れました。ロボットがいかに人間の生活をサポートできるのかを、たっぷりお話ししていただきました。

北山先生の研究成果が並ぶデスク周り  
北山先生の研究成果が並ぶデスク周り
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※1 「QOL」について詳しくは、下記URL「言葉の豆知識-QOLとADL-」のページをご覧ください。
http://www.dreamarc.jp/archives/1314/

研究・開発テーマは、障がいのある人や高齢の人の生活支援

インタビューの舞台は、北山先生の研究室。そこには数人の学生たちが、討論したりコンピューターを使って何かを分析していたり……そんな活気あふれる雰囲気の中、インタビューはスタートしました。

編集部:北山先生の専門分野は、義肢装具学、福祉工学とリハビリテーション工学ということですが、具体的には、どんな研究・開発をされているんですか?
北山:私が居るのは、人間支援ロボット研究室というところなのですが、障がいのある人や高齢の人を支援するロボットの研究をテーマに、呼気を利用したコンピューター入力装置の開発、新しい機能を有した短下肢装具による歩行支援の研究、身につけられるほど小さなセンサーによる運動モードの解析、義足による階段・坂道歩行の分析などを行っています。そのほか、共同で介助犬ロボットの開発なども進めています。
近畿大学に来て7年ほどになるのですが、以前は兵庫県立総合リハビリテーションセンター(※2) ・福祉のまちづくり工学研究所(※3) で、義足や義手、装具の研究・開発に30年ほど携わっていました。

※2 正式名称は「社会福祉法人 兵庫県社会福祉事業団 総合リハビリテーションセンター」。
※3 2009年に「福祉のまちづくり研究所」に改称。

「人間支援ロボット研究室」での北山先生の研究  
「人間支援ロボット研究室」での北山先生の研究
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めざすは、人にやさしいロボットの開発

編集部:とても長いキャリアをお持ちですが、福祉に関心を持たれるきっかけは何だったのですか?
北山:大学で専攻していたのは、バイオエンジニアリングだったんですが、3年生のときにある教授から「義足の研究にチャレンジしてみないか」という提言をいただいたんです。そこで、兵庫県立総合リハビリテーションセンターへ2週間ほどインターンシップで通って、実験をして論文にまとめました。それが、きっかけでしょうか。4年生になって、「義足を使って、失われた足をどう再現できるのか」を卒業研究のテーマにしたいと考えるようになりました。以前に提言をくださった教授の指示を仰ぎ、再び兵庫県立総合リハビリテーションセンターの門を叩きました。このテーマが成り立つかどうか、1年ほどかけてデータを収集し研究を続けるうちに、どんどん興味が膨らんでいったんです。大学を卒業して大学院に進んだのですが、その2年間もずっとセンターのお世話になって、義足一筋に研究していました。
編集部:では、そのままセンターに入られたのですか?
北山:いえ、大学院卒業時は研究員の定員が満杯状態で募集がなかったので、民間企業に就職しました。でも、半年後、欠員ができたのか、募集があって、待ってましたとばかりに応募しました。無事、採用していただくことになって、晴れてセンターの研究員になることができました。

他に類を見ない「マイコン内蔵義足」を世界に先駆けて開発

北山先生の研究室には、様々な機器の試作品がところ狭しと並んでいます。そんな中で見つけたのが、メカメカしい、まるでロボットのような義足でした。次は、このインテリジェントな義足について伺いました。

見るからに機能的なロボット義足  
見るからに機能的なロボット義足
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編集部:先生、これは何ですか?とてもメカっぽくてカッコいいのですが。
北山:これが、ロボット義足です。インテリジェント義足とも呼ばれています。ひざの動きをマイコンで制御できる義足です。今から20年ほど前に私たちが開発したもので、今では、世界中に普及しています。
編集部:どんな経緯で開発されたのですか?
北山:先にもお話したように、私は大学と大学院で義足の研究をしていました。そこで、兵庫県立総合リハビリテーションセンターに入ってまず取り組んだもののひとつが、海外で開発が進んでいた油圧シリンダーではなくエアシリンダーを用いた義足の高機能化でした。今から30年ほど前のことです。
エアシリンダーは、膝のように速く回転するものの動きを減速させることができます。また、止めた勢いでものを前に振り出すことも可能です。いわばこの空気バネとして働くエアーシリンダーを使って振り子のように膝を振り出すという原理です。また、油圧式は最も速度が高くなったときに最大限の力が出るように機能するので、使っている人は曲げたひざを戻すタイミングがわかりにくいという特徴があります。一方、エア式だと、曲がり切ったときに最大限の力を発揮するため、ひざを戻すタイミングを実感することができるのです。これらの作用を応用して「歩行速度に応じてシリンダーの効き方を変化させることができれば自由に歩けるのではないか。最初はゆっくり、次に早足、ついには走ることもできるのでは……」と考えました。そこで、コンピューターを内蔵してシリンダー圧を自動的に変化させる義足の研究・開発をスタートさせました。
まず、試作モデルを作って、それを何度も振って動きのデータを収集しました。そのデータを基に制御プログラムを整えていったのですが、大きな壁がありました。それまで、義足にマイコンなどの電気モノを内蔵することはタブーだったのです。義足の中に汗や水などが入り、マイコンなどが誤作動や故障を起こして使い物にならないと考えられていたからです。私たちはこのタブーに挑戦して、苦節10年、やっと製品化にこぎつけました。世界でも類を見ない「マイコン内蔵義足」を世に送り出したのです。現在では、様々なロボット義足がありますが、私たちが開発したものが「先駆け」だったと思います。

ロボット義足について熱く語る  
ロボット義足について熱く語る
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編集部:たいへんな苦労をされたのですね。でも、それが今、世界中の肢体障がいのある人たちの生活をサポートしている……苦労の甲斐がありましたね。
北山:この技術は、日本はもちろん、イギリス、アメリカ、ドイツ(当時は西ドイツ)、台湾で特許申請をしました。商品は、日本ではナブテスコ社(当時はナブコ社)、イギリスではブラッドフォード社が販売しました。現在も、足が地面に着いたときにひざが折れないようにひざ部分に油圧シリンダーを追加するなどの改良を加えて、性能の向上を図っています。

義手の研究・開発では、少し苦い経験も

義足の次に、北山先生が見せてくださったのが義手。北山先生の手をモデルにしたということで、静脈やシワ、手相、指紋まで、とてもリアルでした。

義手のモデルは北山先生の右手 血管や節、爪までリアルに再現された義手
(左)義手のモデルは北山先生の右手
(右)血管や節、爪までリアルに再現された義手
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編集部:北山先生は、義手についても様々な研究・開発をされてきたとお伺いしています。
これまで、どんなものを世に送り出して来られましたか?
北山:これまで、いくつかのものが実際に商品化されているのですが、今も心に残る残念な開発がひとつあります。それは、20年ほど前の電動義手の開発です。当時、私は日本人向けの電動義手の開発に取り組んでいました。それまでの電動義手はジュラルミンの構造体でできた重くて見かけはそれほど良くない外国製ばかりでした。そこで、外観が美しく、とにかく軽い電動義手を作ろうと考えたんです。構造体にはカーボンファイバー(炭素繊維)を使い、それにきれいに仕上げたカバーをつけるタイプのものを開発しました。せっかく良いものができたのですが、認可という壁が立ちはだかりました。当時、日本製の義手には「電動」というカテゴリーがなかったのです。カテゴリーを新設するには相当の時間が必要です。認可が下りるまでの時間を考えると商品化を諦めざるを得ませんでした。ただ、電動義足のカテゴリーができたのは10年ほど前ですので、今考えると、もう少し耐えてもよかったかな、と思います。少し苦い経験でしたね。でも、こういった経験が次の研究・開発の糧になると信じています。

呼気のコントロールでパソコンの入力ができる「呼気マウス」を開発

北山先生の前には、長く伸びた透明なチューブがあります。これが、呼吸だけでパソコンのマウスをあらゆる方向へ動かせる「呼気マウス」の入力装置。その操作を先生自らのオペレーションで説明していただきました。

呼気マウスを前に詳細を説明  
呼気マウスを前に詳細を説明
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編集部:「呼気マウス」は、どんな構造で、どんな操作により、どんな効果が得られるのでしょう?
北山:「呼気マウス」は、呼気を出し入れするチューブと、呼気を認識する流量センサー、センサーが感知した呼気の動きを信号化する変換機で構成されています。いたってシンプルな構造です。カーソルの動きは「強く吹く/上」「弱く吹く/下」「強く吸う/右」「弱く吸う/左」でコントロールできます。カーソルの速度は「短いとゆっくり」「長いと速く」といった呼気の長さで調節可能です。また、「軽く吹く/左クリック」「軽く吸う/右クリック」「強く吹く/決定」といった操作ができます。これまでにも「吹く/吸う」を使ってテレビや照明のオン/オフができる呼気スイッチは開発されていましたが、電源の入/切などに限られていました。でも、「呼気マウス」を使えば、カーソルを自由に動かしてパソコン上のメニューを選択・実行することができます。さらにスクリーンキーボード機能を利用すれば、文字を入力することも可能です。これを使えば、頚椎の損傷や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症などで四肢障がいのある人が、もっと気軽にパソコンを利用することができると考えています。

呼気の動きを信号化する変換機 呼気センサー本体 モニター画面上で呼気に合わせカーソルが動く
(左)呼気の動きを信号化する変換機
(中央)呼気センサー本体
(右)モニター画面上で呼気に合わせカーソルが動く
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編集部:これまでにない画期的な装置ですが、何をきっかけに開発されたのですか?
北山:呼気は、人間が自分の意思でコントロールできる最後の機能のひとつといわれています。特に重度の四肢障がいのある人にとっては命綱ともいうべき機能です。この機能を使って、もっと複雑な操作ができないかと考えて、この開発をはじめました。そのベースにあったのが、現在進めている介助犬ロボットの研究・開発です。これは、近畿大学の同僚である中川秀夫准教授との共同研究なのですが、ロボットのメカトロニクスが専門の中川先生が構造を担当し、私が入力を受け持つ、ということで進めています。そんな研究・開発の中で誕生した装置が「呼気マウス」なのです。これが普及すれば、重度四肢障がいのある人のQOLの向上が図れると思います。そのためにも早く実用化したいものです。

北山先生自ら呼気マウスを実演操作1 北山先生自ら呼気マウスを実演操作2  
(左右とも)北山先生自ら呼気マウスを実演操作
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データ分析と使う人の声の反映で生活を支援できるロボット開発を

最後に北山先生のロボット研究・開発におけるポリシーと、これからの社会において自立生活を支援するロボット開発への期待をお伺いしました。

「使う人の声を開発にフィードバックさせたい」との思いを語る北山先生  
「使う人の声を開発にフィードバックさせたい」との思いを語る北山先生
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編集部:北山先生の研究・開発に関するモットーというかポリシーはどんなことでしょう?
北山:私が大切にしていることは、しっかりデータを取って分析し、使う人、つまり障がいのある人の声を十分にフィードバックさせる、ということです。これまでの経験からいえることは、単なる思いつきのアイデアでは、使えるモノは簡単には作れません。本当に世の中の役に立つモノを作るには、確固たる科学的な根拠や下地が必要です。加えて、使う人のニーズに応えていなければなりません。手前味噌ですが、私は義手の開発を担当していたころ、医師や看護士に「義手の人が来たら話を聴かせてください」とお願いして100人以上の人たちの声を聴きました。義手の人たちの切実な声を聴き、そのニーズを開発に反映させたいという思いでいっぱいだったのです。このような思いでこれまでやってきましたし、これからもやっていきたいと考えています。
編集部:答えは研究室の中ではなく、現場にあるということですね。ところで、自立生活を支援するロボットの開発は、社会にどう貢献していくのでしょうか?
北山:近い将来、家庭内に何らかの形で生活支援ロボットが導入されていくでしょう。その際、キーワードになるのは“コミュニケーション”と“物理的支援”だと考えています。前者の機能は、“ロボットとのコミュニケーション”、“ロボットを介しての他者とのコミュニケーション”、緊急アラーム発信を含む防災・健康管理など“ロボットによる見守り”です。後者の形態は、ロボットスーツのような“身体装着型”や、介護支援ロボットのような“非装着型”になると思っています。
私は、欲張ってこれらの流れをすべて見ながら、非装着型のロボット開発を構想しています。移動してお世話をする“介助犬のようなロボット”と身の回りを世話し、コミュニケーションも行う“身の回りのお世話ロボット”の組み合わせです。
これは、技術的なことですが、私に可能なことは、“生体情報取得”、“マイコンによる機器などの制御”なので、その範囲でできることを追求していこうと考えています。
実際、今後のロボット開発は、“画像処理”、“音声分析設計”、“携帯情報端末技術”、そして “ロボット開発”など多方面の分野の技術者や研究者が一堂に会して行わなければ、役立つものを作ることは難しいと思います。そのためにも私自身、専門性を高めて、ほかの優秀な人たちとタッグを組んで、より良い社会づくりにつながるロボットの研究・開発を進めていきたいと考えています。

編集後記

鉄腕アトムの生年月日は2003年4月7日だそうです。本当なら彼が生まれてもう12年近い月日が経っているのです。でも現実の世界に、まだアトムは存在していません。手塚治虫が描いた未来は、まだまだ現実化されていないようです。
しかし、真に人間生活に役立てるロボットの研究・開発は、今もなお進められています。そこには、人間を見つめる温かな視線があることを今回の取材で体感できました。
現在、ロボット産業の成長は、国家レベルの課題とされています。特に介護や医療の分野では、大きな期待が寄せられています。国家レベルの大きなプロジェクトも大切ですが、北山先生が実践されているような地道な研究・開発がたくさん行われてこそ、ロボット開発はより堅実なものになると思います。
そのためにも「使う人の声をしっかり聴くこと」を大切にされている北山先生の研究・開発が成熟していくことを願っています。北山先生が学生に向けた言葉の中に「失敗からも学び、自信に結びつけてください」という一節があります。たとえ順風満帆の旅路ではなくても、諦めることなく、夢に向かって進んでいってほしいと願います。

北山一郎
北山一郎(きたやま・いちろう)
近畿大学 生物理工学部 人間工学科 人間支援ロボット研究室
准教授
博士(工学)

神戸大学工学部卒、神戸大学大学院修了。兵庫県立総合リハビリテーションセンター、兵庫県立福祉のまちづくり(工学)研究所(研究員、主任研究員、研究主幹)勤務後、2008年から近畿大学へ、現在に至る。
専門分野:義肢装具学・福祉工学・リハビリテーション工学
主な研究テーマ:支援ロボットと義足ロボット(インテリジェント義足)・次世代装具の研究

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