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【ICT体験レポート】第7回 NICT(独立行政法人 情報通信研究機構)「UWB屋内測位システム」

来るべきユビキタス社会へチャレンジ。視覚障がいのある人が、もっと気軽に買物などを楽しめる社会をめざす。

UWB移動機を装着したタブレット UWB移動機を装着したスマートフォン
UWB移動機を装着したタブレット(左)とスマートフォン(右)
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厚生労働省の「平成23年生活のしづらさなどに関する調査」によると、身体障がいのある人の総数は全国で386万4千人、そのうち視覚に障がいのある人は31万6千人で全体の8.2%を占めているそうです。そんな視覚障がいのある人たちの多くが「もっと自由に外出したい」「気軽にショッピングを楽しみたい」という思いを持っています。
2006年に可決された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」の施行により、障がいのある人が利用しやすいエレベーターや点字による案内など、公共交通機関や建築物のユニバーサル化が進展し、外出しやすい環境が整ってきました。
また、ソーシャルメディアの進化やモバイル端末の普及などICTの進展により、GPS、PHS、Wi-Fi、RFタグ(無線ICタグ)などを応用したナビゲーションシステムが実用化されつつあります。特にカーナビゲーションでも用いられているGPSは、数メートル以内の誤差で現在位置を認識できることから、広く普及しようとしています。このように屋外でのナビゲーションに関しては、かなりの進展がみられます。
その一方で、ビルの中や地下街などのナビゲーションについては、まだまだ…の状況が続いています。GPSの電波は、屋内では受信することができないので、屋内用ナビゲーションとしてWi-Fiのアクセスポイントの電波情報を活用するシステム(Place Engine)やGPSと同じ電波を用いて屋内外をシームレスに測位するシステム(IMES)が研究されていて、Bluetooth Low Energyを利用したiBeaconはすでに実用化されています。しかし、いずれのシステムも精度が低く(Place Engineは5~100m、IMESは10~20mの誤差が発生)、ビルの中や地下街にある施設の位置はわかっても入口にたどり着けないなどの問題を抱えていました。
そんな中、誤差が30㎝以内の精度で測位のできるUWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)という無線通信技術を用いた屋内ナビゲーションシステム「UWB屋内測位システム」が注目を集めています。将来的には視覚障がいのある人たちへ、ナビゲーションだけでなくショッピングまでもサポートしようという、来るべきユビキタス社会を視野においた近未来のシステムです。今回は、このシステムを紹介・体験するとともに開発者であるNICT(独立行政法人 情報通信研究機構)の李還幇(り・かんほう)主任研究員と加川敏規研究員にお話を伺いました。

UWBによる誤差30cm以内の測位とマップアプリで
高精度のナビゲーションを実現

人は、日常生活に必要な情報の80%以上を視覚から得ているといわれています。視覚障がいが「情報障がい」といわれるゆえんがここにあります。視覚情報をキャッチすることができない視覚障がいのある人たちが、単独で行動するためには、自分の現在位置と目的の位置およびそこに至るまでの安全な経路を視覚情報以外で知る必要があります。
「UWB屋内測位システム」は、リアルタイムで誤差30cm以内の精度の現在位置特定を行い、周辺にある障害物などをインプットしたマップアプリの空間位置情報を用いて、音声により目的の場所までナビゲート。高精度な現在位置、目的位置、経路の情報を聴覚情報に変換して視覚障がいのある人に伝えることができるナビゲーションシステムです。

◎UWBの活用で誤差30cm以内という高精度測位を実現。
「UWB屋内測位システム」に使われているUWBは、無線通信の方式のひとつで、データを500MHz以上の極めて広い周波数帯域に拡散して送受信を行うもの。また、放射電力密度が低いため、他の無線機器への混信が回避されやすく、消費電力が少ないことも知られています。さらに、人体への影響が小さいという特徴もあります。
「UWB屋内測位システム」は、UWBのハイバンド周波数(7.25~10.25GHz)において、ナノ(10億分の1)秒程度の非常に短いパルスを使用(Impulse Radio型UWB)。1ナノ秒に進む電波を精確に測定することで誤差30㎝以内という高精度な測位を実現しています。この結果、地下街やショッピングモールなど店舗が近接して混在しているスペースでの測位に効果を発揮。いわば「商品棚レベルで案内できる」ナビゲーションシステムといってもいいでしょう。

帯域が広く、電力密度が低いという特徴を持つUWB
帯域が広く、電力密度が低いという特徴を持つUWB
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◎3台以上の固定機による多点測位でリアルタイムに現在位置を特定。
「UWB屋内測位システム」は天井などに設置した固定機とタブレットやスマートフォンに装着した移動機の間でナノ秒単位のパルスを用いて測位。3台以上の固定機による多点測位で、リアルタイムかつ高精度に移動機の現在位置を特定できます。アンテナを備えた固定機には4つの通信モジュールを内蔵。それぞれのモジュールの送信時間を少しずつずらすことでUWBの測定距離を増大させ、30mという測定距離を実現しています。これにより、測位に必要な固定機の数を削減することができるので、コストの軽減を図ることも可能。また一歩、実用化に近づいています。

3台の固定機と1台の移動機をワンセットにして高精度測位を実現
1台の移動機は近隣する3台以上の固定機と通信して高精度測位を実現
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◎「歩きづらさ係数」を応用した地図アプリで、最適ルートを選択。
高精度な測位ができても、その情報を使って適切なナビゲートができる地図アプリがなければ、視覚障がいのある人たちにとって役立つシステムとはなりません。そこで、通路幅や段差、坂道、障害物の有無などを数値化した「歩きづらさ係数」を算出し、このデータを応用した地図アプリで、最短距離ではなく、もっとも安全かつスムーズに進めるルートでのナビゲートを実現しています。

◎コンパクトな移動機と音声ナビゲーションでユビキタス社会に対応。
「いつでも、どこでも、誰でも、何ででも手軽に情報が利用できる」というユビキタス社会に対応するべく、アンテナと通信モジュールを内蔵した移動機をコンパクト化。タブレットやスマートフォンに装着して持ち運ぶことができます。ナビゲーションは音声対応。視覚障がいのある人にもアクセシブルに使えるようにしてあります。しかも音声入力機能も搭載。ユビキタス社会に向けて、さらに一歩前進したナビゲーションシステムとなっています。

手のひらサイズで、コンパクトにまとまったUWB移動機
手のひらサイズで、コンパクトにまとまったUWB移動機
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【開発者インタビュー】

「UWB屋内測位システム」の開発者に
開発の経緯と利活用について伺いました

実際に「UWB屋内測位システム」の開発に携わられたNICTの李還幇(り・かんほう)主任研究員と加川敏規研究員に、開発の経緯や利活用についてお話を伺いました。

李主任研究員 加川研究員
NICTワイヤレスネットワーク研究所ディペンダブルワイヤレス研究室の李主任研究員(左)と加川研究員(右)
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編集部:「UWB屋内測位システム」は、どんな経緯で開発されたのですか?
李:発端は2010年くらいだったと思います。当時、NICTでは「ボディエリアネットワーク」をテーマに医療ICTグループを設けていました。そこでは、体にセンサーを着けて、体の状態をリアルタイムに把握する無線技術の開発を行っていたのです。たとえば、体温や脈拍などを計ったり、サングラスの縁にカメラを装着して色識別を行ったり、白杖にセンサーを付けて障害物を認識したり…。そんな開発の中にUWBの研究も含まれていたのですが、ある展示会に視覚障がいのある富士通の方が来られて、UWBに興味を持たれたんです。その方がスマートフォンの地図アプリ開発担当の方で、「共同でナビゲーションシステムを作ろう」ということになって、スタートしたのがきっかけです。
編集部:2012年にも同じようなシステムがプレスリリースされていますが、今回のシステムはその発展形ということでしょうか?
李:そう捉えていただいて結構です。2012年に発表したのは「視覚障がい者歩行支援システム」と呼ばれるシステムで、通信距離つまり測距距離は7mでした。今回のシステムでは、測距距離が約4倍の30mになったので、設置する固定機を減らすことができて、大幅なコストダウンが図れるようになりました。また、金属を使った壁などで起こる誤作動に対応する「禁止エリア処理」を追加して「あるはずの壁がなくなったり、ないはずの通路があったり…」といった誤認識を抑えています。さらに最近のスマートフォンやタブレットに標準のように装備されている加速度センサーの情報を使って測位をサポートできるようにしています。このような性能アップで、また一歩、実用に近づけた、と考えています。
編集部:「UWB屋内測位システム」に、どんな期待を寄せていらっしゃいますか?
加川:単に屋内での歩行をサポートするだけではなく、もっと生活に密着したサポートができたらいいな、と考えています。そういった意味で、今回はショッピングモールや物流倉庫での実証実験を行っています。たとえばショッピングモールでの実験では、視覚障がいのある人に対応した屋内ナビゲーションはもちろん、顧客の位置をリアルタイムに測位し、目的の店舗や商品へ適切にナビゲートしたり、顧客の位置に連動して、その場所付近の店舗のクーポンやお薦め商品の情報をスマートフォンなどに送信しています。また、デジタルサイネージ前にいる顧客がスマートフォンの画面から商品を注文できるスマートオーダーや、レジまで行かなくても顧客と同じ場所にいる店員が決済端末を使って決済することができる、位置連動クレジット決済などの実験もしています。このように「UWB屋内測位システム」を顧客サービス向上や販売促進などに活用していきたい、と考えています。

ショッピングモールでの実証実験1 ショッピングモールでの実証実験2
ショッピングモールでの実証実験(左右とも)
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編集部:ショッピングは視覚障がいのある人たちが、もっとも望まれていることのひとつですから、大いに期待できますね。
加川:そうですね。ショッピングモールの実証実験は横浜市内の「ノースポート・モール」の協力の下、メインフロアの約98m×25mの共用空間と店舗間通路などに58台の固定機を設置して実施しています。この実験で得られたデータや使用された方の意見などを基に、利便性や機能を向上させ、測位精度向上を進めて「UWB屋内測位システム」の実用化に向けたチャレンジを続けていきたいものです。そして、それが来るべきユビキタス社会への確かな歩みになれば、と思っています。

体験レポート

「UWB屋内測位システム」のナビゲーションを
実際に体験してみました

体験はNICTの展示ルームをお借りして行いました。用意していただいたのはグーグルの7インチAndroidタブレットNexus7。上部にUSB接続されたUWB移動機が取り付けられていました。

「UWB屋内測位システム」操作イメージ1
UWB移動機を取り付けたタブレット
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ナビを起動すると、最初に「南東35度の方角を向いています」の説明が。自分がどちらの方角を向いているのかわかると、とても助かります。

「UWB屋内測位システム」操作イメージ2
目的地(バイク)を音声入力する
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続いて「バイク」と目的地を音声入力。「ポーン、バイクは道のりで5.8メートル。ポーン、右後方に回り込んでください」と音声でナビゲートしてくれます。

「UWB屋内測位システム」操作イメージ3  
目的地(バイク)まで正確にナビゲートしてくれる
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回れ右をして後方に進みます。ナビゲーションは「ポーン、前方に3.2メートルでバイク」。さらに数歩前へ進むと「そのまま前方へ2.1メートル」。そして「ポーン、到着しました」。目的地点に着くと、バイクに関して音声と画像での説明が始まります。

天井に設置した固定機1 天井に設置した固定機2
(左右とも)天井に取り付けられた固定機で測位
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現在位置は、移動機と天井にある固定機との電波のキャッチボールで誤差30㎝以内の精度で特定。視覚障がいのある人は点字ブロックから約50㎝離れてしまうとなかなか元に戻れない、と聞いていますが、この精度なら大丈夫、と思いました 。

「UWB屋内測位システム」操作イメージ4
「視覚障がい者モード」の操作画面
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視覚障がい者モードを選択すると操作画面には、「ナビ読み上げボタン」「ナビ開始ボタン」「散策モード切り替えボタン」「周辺情報読み上げボタン」「コンパスボタン」などを表示。ボタンに触れると機能名を音声で知らせてくれます。実行させるにはダブルタップすればOK。

「このシステムなら、視覚障がいのある人でも自力で目的地にたどり着ける」と思いました。「美術館や博物館のナビゲートにも活用できそうですね」と伝えたら、現在、ある博物館での活用を検討中とのこと。ショッピングだけでなく、アート鑑賞など、視覚障がいのある人たちのニーズに幅広く応えられるナビゲーションシステムであることを実感しました。

体験者アンケート

「UWB屋内測位システム」に、
期待の声がたくさん寄せられています

2014年12月23日に、東京都台東区の東商センターで開催された「第25回アメディアフェア」で、NICTは富士通株式会社に協力して「UWB屋内測位システム」のデモンストレーションを実施しました。参加された視覚障がいのある人たちにアンケートを募ったところ、たくさんの期待の声が寄せられました。
その声のいくつかを紹介させていただきます。
◎自分がどこにいるのかがわかってよかった。
◎ブースの位置が正確にわかってよかった。
◎とても正確なので、すぐにでも実用化してほしい。
◎ショッピングモールや地下街で活躍しそう。
◎博物館でぜひ使いたい。
◎病院などにも活用できそう。
◎わかりやすい。音声でのナビゲートで安心。
◎発想がすばらしい。
◎ナビは10~20mズレるのが当たり前だと思っていた。

などの声を聞くことができました。
その一方で
◎もっと小型化してほしい。
◎もっといろいろな情報がほしい。
◎iPadやiPhoneに対応したものがほしい。

といった意見もありました。
いずれにしても、ほとんどの方が「満足した」と答えています。視覚障がいのある人たちの「UWB屋内測位システム」への期待は大きいといえるでしょう。

編集後記

いつでも、どこでも、誰でも、何ででもネットワークにつながって、情報を送受信することで、より豊かな生活を実現するという「ユビキタス社会」の実現が提唱されるようになって、10年以上の歳月が積み重ねられてきました。昨今の携帯端末の発展・普及によって、その実現は急加速しているように見えます。そんな状況にあるからこそ、「誰でも」というところに意識を向けたいものです。
視覚障がいのある人たちの多くが「もっと自由に外出したい」「もっと気軽にショッピングを楽しみたい」と願っています。その願いを叶えるのが「ユビキタス社会」の実現です。
社会的弱者とされる人たちが恩恵をもれなく享受できてこそ、真のユビキタス社会の実現と言えるのだと思います。そんな社会をつくり出す原動力がICTなのです。
「UWB屋内測位システム」は、まだまだ開発途上のシステムですが、ユビキタス社会の実現に向けて、これからも機能や精度の向上への努力を続けていってくれると思います。
それが、誰もが豊かな生活を楽しめる社会の構築につながることでしょう。大いに期待しています。

-プロフィール-
李還幇
李還幇(り・かんほう)
ワイヤレスネットワーク研究所
ディペンダブルワイヤレス研究室
主任研究員
大学院博士後期課程修了後、1994年、郵政省通信総合研究所(現NICT)入所。移動体衛星通信、UWB、ボディエリアネットワーク(BAN)、端末間通信(PAC)などの研究開発に従事。電気通信大学大学院情報システム学研究科客員教授。IEEE802.15 TG6副議長、TG8副議長。博士(工学)。
加川敏規
加川敏規(かがわ・としのり)
ワイヤレスネットワーク研究所
ディペンダブルワイヤレス研究室
研究員
大学院博士後期課程修了後、2013年、NICT入所。現在、IR-UWBを用いた高精度屋内測位、シート媒体通信を利用した生体情報センシング、無人航空機による無線中継伝送、サブギガ帯を用いた建物内ロボット制御通信などの研究開発に従事。博士(工学)。
-概要-
独立行政法人 情報通信研究機構
英称:National Institute of Information and Communications Technology、略称:NICT
本部:〒184-8795 東京都小金井市貫井北町4-2-1
ワイヤレスネットワーク研究所:〒239-0847 神奈川県横須賀市光の丘3-4
※ほか全国7カ所の研究拠点、2カ所の電波送信所を持つ。
ホームページ:http://nict.go.jp/
○総務省所管の独立行政法人。2004年4月1日、独立行政法人通信総合研究所と通信・放送機構を統合して設立された。「情報通信分野を専門とする唯一の公的研究機関として、豊かで安心・安全な社会の実現や我が国の経済成長の原動力である情報通信技術(ICT)の研究開発を推進するとともに、情報通信事業の振興業務を実施しております。」(公式ホームページより)
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