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音楽セラピスト ロビン・ロイドさん インタビュー

音楽を通して、もっと豊かな暮らしを届けたい 音楽セラピスト ロビン・ロイドさん インタビュー

みなさん、「音楽療法」をご存知ですか?近年、関心が高まり、福祉や教育、芸術、医療など、幅広い領域で活用されるようになってきました。今回は、「音楽療法」で、障がい者や高齢者のQOL向上に取り組まれている民族音楽のマルチプレイヤーであり音楽セラピストのロビン・ロイドさんにお話をお伺いしました。

音楽療法は「やりとり」することが大切。

音楽療法は「やりとり」することが大切。

編集部:音楽療法とかミュージックセラピーという言葉を最近よく聞きますが、どういうものなのでしょうか?

ロビン:全日本音楽療法連盟によると「身体的ばかりでなく、心理的にも、社会的にもよりよい状態(Well-being)の回復、維持、改善などの目的のために、治療者が音楽を意図的に使用すること」と定義されています。つまり、音楽が持っている心理的、生理的、社会的な働きをリハビリテーションや教育などに活かしていこうということです。もっと簡単にいうと、「音楽を通して、心身ともに健康で人間らしい豊かな暮らしをつくる方法」ともいえるでしょう。

編集部:音楽レクリエーションと音楽療法とは、どこが違うのですか?

ロビン:音楽を利用したレクリエーションの場合、単にその時間が楽しく過ごせればよいのです。しかし、音楽療法では、対象となる人の身体的、心理的、社会的な変化をチェックし、前後で評価し、次の課題づくりを行います。つまり、事前のプログラムや事後のフォローアップが必要なのです。また、音楽は聴いてもらうものですが、音楽療法は「やりとりする」ことが大切。双方向の参加型活動といえます。

編集部:ロビンさんは、具体的にどんな音楽療法活動をされているのですか?

ロビン:兵庫県西宮市にある「武庫川すずかけ作業所」と京都・滋賀にある3カ所の老人ホームで月に1回ずつグループでのセッション(交流活動)をしています。さらに、全国各地でグループや個人を対象にセッションを実施したり、音楽療法の研究会の講師をしたりしています。セッションの対象は、知的障がいの方と身体障がいの方が50%、高齢者が50%となっています。あと、地元の京都音楽院で、音楽療法士をめざす人たちへの教育に携わっています。担当科目は、パーカッションと民族音楽です。

武庫川すずかけ作業所でのグループセッション

対象によって異なる音楽療法の仕方。

編集部:対象によって、音楽療法の仕方が変わることがありますか?
ロビン:もちろんです。例えば、子どもさんは成長期にあります。ですので、改善や回復を重視した音楽療法を実施します。一方、高齢者の方には、毎日を楽しく、安心して過ごせるように心がけ、維持することを意識した音楽療法を行うのです。知的障がいの方へは、できるだけ社会に溶け込めるように工夫します。例えば、興奮するとエネルギーの発散がコントロールできないような場合、このエネルギーの流れをできるだけ音楽の方へ向くように導いていきます。また、身体に障がいのある方には、身体機能の改善の可能性も視野に入れています。動かなかった足が反応するようになった、あるいは、まったく立てなかった人が支えてもらって立てるようになった……などの事例を聞くと、音楽の働きによって、隠れていた自分の力に気が付き変わることができることもあるんだな、と思いました。 

編集部:ロビンさんが、音楽療法に取り組むきっかけはなんだったのですか?
ロビン:わたしが、初めて日本に来たのは30年ほど前のことです。三味線や尺八など邦楽の勉強をするためでした。このときは、1年ほど滞在して、中国や台湾にも移り住みました。そして、25年程前から日本に住むようになりました。
わたしは、日本に住む前から音楽療法に取り組んでいたのですが、環境や文化の異なる日本で音楽療法をしようとは思ってもいませんでした。でも、1998年に転機がやってきました。当時、わたしは、カリンバのワークショップを定期的に開いていました。カリンバというのは、アフリカ東部の民族楽器で、木製の箱に取りつけられた鉄製の棒を指で弾いて音を出す楽器です。このワークショップの生徒さんのひとりに新しい音楽療法センターの運営に関わっている方がいて、講師にならないか、と誘ってくれたのです。最初は、どうしようかと迷いました。そのころの日本は、まだまだ音楽療法への理解が進んでなくて、「あやしげなもの」とみなされていましたから……。そんな環境の下で、果たして効果的な音楽療法が行えるのだろうか……と少し心配でしたが、結局、講師を引き受けることにしました。音楽療法の可能性を信じようと決心したのです。
講師になってからが大変でした。日本の現状を学ぶために、全国の施設を見学して回りました。また、心理学や大脳生理学なども学びました。そしてなにより、日本の楽曲を憶えるのが大変でした。当時のわたしは、かの有名な「ふるさと」さえ知らなかったのですよ(笑)。

よりプリミティブな楽器を使って、リズムを重視。

アフリカの民族楽器パラフォンを奏でるロビンさん
編集部:ロビンさん独自の音楽療法へのこだわりはありますか?
ロビン:わたしは、アフリカ音楽をはじめ世界の民族音楽に興味があって、いろいろ研究してきました。そんな経験の中から学んだことのひとつには、リズムが大切だということ。今の音楽療法の主流は、ピアノと歌でおこなうものです。つまり、メロディーとハーモニーが重要視されているのです。いかに正しいメロディを奏で、美しいハーモニーが出せるかが大切と考えられています。
一方、わたしの音楽療法では主にシェーカーや太鼓、カリンバ、笛などを使います。振ったり、叩いたり、吹いたり……少し動かすだけで音が出るような楽器を選んでいるのです。この条件で選ぶと、どうしてもメロディーやハーモニーよりもリズムが重視されます。また、これらの楽器は自然の素材でつくられているので、形も感触も音も、とてもやさしいのです。このプリミティブさが音楽療法に向いていると、わたしは考えています。最も古い楽器は「叩く」ことで音が出せる打楽器だったのではないか、という説があります。だから、わたしはメロディーやハーモニーよりもリズムを大切にしたいと考えるのです。もちろん、西洋音階にもこだわっていません。
わたしの目標としている音楽療法は、「楽譜がよめなくてもできるセッション」を行うことです。例えば、聴覚障がいのある方に打楽器を使って音楽療法をする際、からだで響きを感じてもらうように工夫したり、手の動きという視覚情報を使って演奏してもらったりします。歌ったり、奏でたりすることも大切ですが、わたしはそれ以上に「音を出す」ことを大事にしたいのです。

音楽が、発見させてくれる、変えてくれる。

編集部:これまでのセッションの中で心に残ることはありますか?
ロビン:右半身がマヒした方がいました。スプーンを持ったり、ペンを持ったり、彼はふだんの生活では左手しか使えません。でも、セッションを続けるうちに、シェーカーなどの楽器を渡すと右手で持てるようになりました。不思議なことに、音楽をするときだけ右手が使えるようになったのです。彼は、「今まで使えていた右手が使えなくなった」と自信を喪失していました。でも、セッションに参加してからは、少し自信を取り戻せたようです。
また、筋肉の硬直が原因で、両腕が頭の上に固定されて動かせない人がいました。彼は楽器を頭の上で振ったり叩いたりして音を出すことができます。彼は、音の出る瞬間にすごく興味があったようです。どうしても叩いている瞬間、振っている瞬間を見てみたいと思ったのでしょう。あるセッションの際、動かないはずの腕を動かして、自分の顔の辺りまで持ってきました。きっと楽器が見えたのでしょう。彼はとてもいい笑顔を見せてくれました。
セッションに新聞を持ちこんで読みふけっている人もいました。自分の世界に閉じこもってコミュニケーションしようとしないのです。セッションには出席するけれど、参加はしないのです。とても不思議でした。でも、セッションを続けるうちに、彼は内と外の世界が分かってきたようです。内と外をつなごうと、関係づくりを意識しだしたのです。それから彼はセッションに参加して、コミュニケーションができるようになりました。今では新聞を持ちこむことはなくなり、他の人との会話を楽しんでいます。
まだまだ、たくさんエピソードがあります。セッションを通じて、いろんな感動経験をさせてもらっています。

編集部:逆に、考えさせられるような経験はありましたか?
ロビン:ある認知症の方に個人セッションをしていたときのことです。いつも安定した状態だったので、音楽療法が効果をみせているのだと確信していました。ところが、ある日、セッションの時間が安定剤を飲んだ後だということが判明しました。時間帯を変えて実施したら……。不安定になってしまいました。以来、環境を考えるようになりました。その日の天候、気温、湿度、季節はもちろん、食事の前か後か、時間帯はいつごろか、照明の明るさなどでセッションの効果はまったく変わってきます。セッションを行う空間の雰囲気も大きく影響します。今では、布を使って空間演出をするなど、音楽療法に集中できる環境づくりを工夫しています。

音楽療法は、チェック&トライの積み重ね。

音楽療法は、チェック&トライの積み重ね。
編集部:セッションをする際に、特に気をつけていることはなんですか?
ロビン:先にもいいましたが、音楽療法はレクリエーションではありません。対象にしている人それぞれに課題が設けられています。それをいかに克服していくか、が音楽療法の目標なのです。だから、メモが欠かせません。セッションによって、どんな変化が起こったか、どんな発見があったかを詳細に記録し、つぎのプログラムづくりに活かします。このようなチェック&トライの繰り返しが音楽療法なのです。そのため、一人ひとりの行動や心理の変化に注意をしなければなりません。改善や回復のきっかけは、そんな微妙なところに隠れていることが多いからです。それらを見つけ出すことが、わたしの仕事だと考えています。また、人体の機能を知ることも大切です。特に身体障がいがある方へのセッションの場合、必要以上の負荷をかけないように注意しています。ムリをして逆効果になってしまっては音楽療法を実施する意味がなくなってしまいますから。

五感に響く音楽療法を求めて。

武庫川すずかけ作業所でのグループセッションにてギターを弾く武庫川すずかけ作業所でのグループセッションにてカリンバを演奏

編集部:ロビンさんは、音楽療法にどんな夢をお持ちですか?
ロビン:音楽療法に限らず、コンサートやワークショップでも、五感に響くような音楽を実践したいと考えています。聴くこと、触れることはもちろん、視ることや香を感じること、味わうことなど、人間の感覚を総動員したセッションができればいいな、と思っているのです。そして、参加されている方に、自然の中にいるように感じてもらえたら、うれしいです。見て理解する、言葉で理解する、文字で理解する……人の理解力にはいろんなパターンがあります。その違いに対応して、プログラムをつくる必要があります。そのためにも五感を大切にしたいのです。さまざまな感覚を駆使して、感じあうことができれば、もっと伝わるし理解しあえると思います。

音楽療法は、もうひとつのライブ。

編集部:最後にお尋ねします。ロビンさんにとって音楽療法ってなんですか?
ロビン:ライブかもしれませんね。とても厳しいオーディエンスを前にした。
武庫川すずかけ作業所でグループセッションをはじめた5年前、1時間が果てしなく長く感じられました。参加している人たちはとても退屈そうに見えました。なぜ、そんなふうに感じたのか。今、考えてみると、わたしが自分自身に自信を持てなかったのでしょう。その不安感が相手に伝わってしまっていたのだろうと思います。試行錯誤を重ねて、セッションを続けるうちにわたしにも自信がつき、内容も充実し、あっという間に1時間が過ぎるようになりました。
いわゆるライブのお客さんなら多少退屈しても我慢してくれます。しかし、セッションのオーディエンスは妥協しない厳しい人ばかりです。面白くなければ我慢せずに不満を訴えます。セッションの際には、ライブ以上に感覚器官を研ぎ澄まさなくてはなりません。ある意味、プレイヤー冥利に尽きるかもしれません。セッション中の緊張感や終わったあとの充足感があるから、わたしは音楽療法とのつきあいを続けているのだと思います。
みんなの笑顔をみると、次はどうやって、もっと笑顔になってもらおうか、と楽しみになります。

-編集後記-

取材のため、武庫川すずかけ作業所でのロビンさんのグループセッションに参加させていただきました。参加されたのは12名。ロビンさんと作業所のスタッフ西井明子さんは、全員の動きを見ながら、一人ひとりへの注意も欠かさずセッションを進めていました。その様子は、視野が360度あるのではないか、と思うほど。後ろで起こっていることにも十分に配慮されていました。セッション終了後は、じっくりと時間をかけてミーティング。一人ひとりの成果や変化がチェックされ、次の課題が検討されました。人と人とのつながり、コミュニケーションをとても大切にされているロビンさん。なによりも音楽を愛してやまない、包容力にあふれた方でした。
ロビン・ロイド
-プロフィール-
ロビン・ロイド
イリノイ州(USA)出身。4歳からドラム、7歳からギターを始め、民族音楽(ワールド・ミュージック)を中心に学び、奏で、教えることに人生をかけてきた。
大学卒業後、アジアを拠点に活動。50カ国以上を旅し、多くのミュージシャンと共に音楽を楽しみ、旅で出会う原生林や熱帯雨林、山や川、砂漠、鳥の声、動植物などからインスピレーションを得る。
ソロでもグループでも活動し、カリンバ(アフリカ)、笛 ( アジア・ヨーロッパ ) 、尺八、三線、パーカッションなどさまざまな民族楽器に囲まれ、マルチ・プレイヤーとしての評価が高い。聴衆は0歳から102歳まで、会場はホームコンサートやお寺での演奏から文化ホールや野外の大会場までと幅広い。ワークショップも人気。また、お年寄りや障がいのある方たちのための音楽療法の実践と普及にも努めている。マスメディアはできる限り避けつつも、20枚以上のCD制作に参加し、折に触れラジオやテレビでその音楽が流れることがある。2008 年9月に CD 付き絵詩集『 HAPPY BIRTHDAY Mr.B! 』、 2010年10月に子どもの世界を描いた詩集『1年に 1 度のアイスクリーム』を出版。
音楽の他、エッセイを書いたり写真を撮ったり、長い散歩をしてお気に入りの喫茶店でチャイを飲みながら本を読んだりしていると幸せ。 

Robbin Lloyd Official Site
http://www.robbin-muse.info/index.html

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