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滋慶医療科学大学院大学講師・岡耕平氏インタビューレポート

「キュレーティング・コミュニケーション」の考えで発達障がいのある人たちをサポートしていきたい――滋慶医療科学大学院大学講師・岡耕平氏にお話を伺いました。

「キュレーティング・コミュニケーション」の提唱者・岡耕平氏
「キュレーティング・コミュニケーション」の提唱者・岡耕平氏
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2004年の「発達障害者支援法」の施行以来、「発達障がい」という言葉が社会で広く認知されるようになりました。この障がいがある人の特徴の一部として「自分の気持ちがうまく伝えられず、人間関係がうまく持てない」、「言葉の意味を取り違えたり、多量の情報の処理が難しいため、他者とのコミュニケーションが取りづらい」などが指摘されています。これらの特徴から、発達障がいのある人は「何を考えているかわからない」、「変わっている」とされ “からかい”や“いじめ”の対象になることもあるようです。時には虐待に遭うケースもあると聞きます。そして、仮にそういう状況に追い込まれても、コミュニケーションが苦手な本人は、どうしてよいかわからず、助けを求めることもできないのです。
文部科学省が2012年に実施した調査(※1)では、全国の公立小・中学校の学級に在籍する児童生徒のうち発達障がいがあると思われる児童が約6.5%ほど存在している可能性があることが報告されています。この調査から推計すると発達障がいのある児童生徒の数は約60万人にのぼり、40人学級では1クラスにつき2~3人いることになります。しかし、4割弱の児童生徒は特別な支援を受けていないことも調査では指摘されています。さらに、この数値は、あくまでも児童生徒が対象であって、成人においての人数や支援の実態などは明確に把握できていないのが実状です。
このような状況の中、「コミュニケーションが困難な発達障害のある人のキュレーティング・コミュニケーション」という論文(「認知科学」21<1>,45-61,<March 2014>掲載)を著わし、発達障がいのある人たちに新しいコミュニケーションの手段を提案している研究者がいます。それが、滋慶医療科学大学院大学の岡耕平氏です。今回は、岡氏に「キュレーティング・コミュニケーション」を軸に、発達障がいについて、その実態や支援のあり方などをお伺いしました。

※1 「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」
2012年 文部科学省
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/__icsFiles/afieldfile/2012/12/10/1328729_01.pdf

言いたいことはあるけれど、それをうまく表現できないのが
発達障がいのある人たち

編:最近、「発達障がい」という言葉をよく聞きますが、具体的にはどんな障がいなのでしょう?
岡:一般的に発達障がいという場合には、3つのカテゴリーについて言われる場合が多いです。
①読む・書く・計算する・推論するなど学習に必要な特定分野の能力に困難を示す学習障がい
②注意力の欠如や衝動性などを特徴とする注意欠陥・多動性障がい
③かつてアスペルガー症候群や高機能自閉症と言われていた自閉症スペクトラム障がい
「学習障がい」は、あるハリウッド俳優の症例が有名です。彼は文字を読むことができない(言葉が理解できないのではなく、単に読めないのです)ので、スタッフが読み上げたセリフを記憶することで演技をしているそうです。たくさんのヒット作があり、アカデミー賞にノミネートされたこともある名優です。
「注意欠陥・多動性障がい」は、集中することが苦手です。頭の中が常にせわしなく働いていることが多く、いろんなことを一度に考えているのです。授業中に歩き回ったり、衝動的な行動をとることもありますが、子どもの場合、単におとなしくできないだけと思われることもあり、どちらかというと見つけにくい障がいとなっています。
「自閉症スペクトラム」は、“コミュニケーションの質的な障がい”といわれるもの、社会性の希薄さ、興味の偏りといった特徴があり、言いたいことがあっても、それをうまく表現することができません。
このように発達障がいは多岐にわたるものですので、視覚や聴覚、肢体などの機能障がいを基にした支援が難しい障がいといえます。
編:今回の研究は、どんなきっかけで始められたのですか?
岡:今回の研究では、自閉症スペクトラムの人たちに注目しました。彼らの特徴である「言いたいことがあっても、それをうまく表現できない」というところを改善できないものか、と考えていたからです。
コミュニケーションはひとりではできません。複数の人間が関わって、初めてコミュニケーションが成り立つはずです。しかし、発達障がいの人の場合、障がいのない人の側から一方的に“コミュニケーションの質的な障がいがある”とされてしまっています。他者との関係性の中で起きていることなのに、一方だけに障がいを帰属させていいものなのか、“質的な障がい”と一言で片づけてしまっていいのか。そういった違和感が、今回の研究を始めるきっかけになりました。
確かに、自閉症スペクトラムの人と、そうでない人とでは、話はなかなか前に進まないことがよくあります。でも、じっくりと聞いているとわかることもたくさんあります。意志疎通に手間はかかるけれど、できないわけではないのです。“コミュニケーションの質的な障がい”とは、結局、障がいのない人のスタイルに合わせられない人たちに対して一方的に“障がいがある”と言っているだけなのではないか。そんな疑問について、Twitter(ツイッター)というICTの賜物を使って問題提起できないか、というのが今回の研究なのです。

ご自身の研究をはじめ、様々な試みや成果が掲載された岡先生のホームページ
ご自身の研究をはじめ、様々な試みや成果が掲載された岡先生のホームページ
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他者の言葉を借りることで自らの考えを主張し、表現の幅を広げる
「キュレーティング・コミュニケーション」

編:今回の「コミュニケーションが困難な発達障害のある人のキュレーティング・コミュニケーション」という論文で提唱されている「キュレーティング・コミュニケーション」とはどんな概念ですか?
岡:これは、私が作ったオリジナル概念です。最近、メディアでは“キュレーション”という言葉がよく使われるようになってきました。“キュレーション”とは、もともとあるものを集め、組み合わせや見せ方を変えることで新しい価値を生み出し、共有することを指していますが、これを基にしているのが「キュレーティング・コミュニケーション」です。具体的には、Twitterのリツイート(以下RT)という機能(※2)を活用したコミュニケーション手法。いわば、“他人の言葉を借りて、自らの考えを伝え、表現の幅を広げよう”というものなのです。
発達障がいがある人の場合、“言いたいことはたくさんあるけれど、それを他人に伝わるような言語に変えることができない”というケースが多々あります。そのため“コミュニケーションの質的障がい”とされるものが発生していました。しかし、Twitterというマイクロブログを使えば、コミュニケーションの質を高めることができるのではないか、とひらめいたのです。最大140文字という短い“つぶやき”の中から、自分の言いたいことと同じことをつぶやいている文章を選び、それをRTすることで自己表現し、さらに表現の幅を広げることができるのではないかと。
編:いわば“引用”を活用したコミュニケーションということですね。
岡:そういうことです。これらの“引用”つまりRTした文章を集めて、つなぎ合わせることで、発達障がいのある人の言いたいことを、より明確にキャッチすることができるのではないか、と考えています。私にもTwitterを通しての経験があるのですが、ある人の言いたいことを理解していたつもりだったんですが、その人のRTを読んでいるうちに、“本当はこういうことが言いたかったのではないか”と思うことがありました。本人に確かめたところ、私の感じていたことが正しいことがわかりました。これは、“情報を集めて、つなぎ合わせて、本質を見つけた” ということになります。このように、既存の情報を、書いたり話したりする代替手段として活用することで、コミュニケーションの質を高めることができるのです。その結果、滞りなくコミュニケーションが行えたら、“コミュニケーション障がいがある”とは言えなくなるのではないでしょうか。そういう問題提起を論文で行ったのです。
編:確かに、私たちも他人の言葉を借りてコミュニケーションをしているケースが多々あります。受け売りだけどね……といって話をしているときなどが、それに当てはまりますね。
岡:大切なのは“目的”であって、“手段”ではないはずです。うまく書けるようになる、うまく話せるようになるのは、あくまでも“手段”であって、本当の目的は“言いたいことを伝える”ということなのですから、その目的を達成できる手段を見つければいいのです。それが、発達障がい者支援のひとつの方向性になると信じています。

※2 Twitter:140字内の「ツイート(つぶやき)」と称される短文を投稿し、ユーザー間で共有することのできるネットサービス。マイクロブログ(記事1件あたりの文字数を少なくする代わりに、記事の投稿回数を増やすような使い方をするブログ)の仕組みを専門サービス化したもので、様々な機能のひとつに、他の人のツイートを引用形式で自分のアカウントから発信することができるリツイートがある。詳しくは下記URLを。
ツイナビ「Twitterの使い方」:http://twinavi.jp/guide

「“手段”ではなく“目的”を見据えた支援が必要」と語る岡氏
「“手段”ではなく“目的”を見据えた支援が必要」と語る岡氏
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もっと個人に寄り添う障がい者支援をめざして
オーダーメードの支援策を

編:知的障がいがある人のガイドヘルパーや小規模作業所での作業支援、就労支援コーディネーターなど活動領域は多岐にわたっていらっしゃいますね。特に、“支援アプリの評価活動”が気になるのですが、具体的にはどんなことをしていらっしゃるのですか?
岡:この活動は、もともと前職の東京大学の研究センターで実施していたことなんです。私の考えとして“介護を含め障がい者への支援の理想形はオーダーメード”なのですが、オーダーメードの支援には多額のコストが必要です。理想でありながら、なかなか普及・浸透しないのは、このコストの問題があるからです。そのような状況の中、支援アプリはコストを低減する救世主のような存在です。しかし、星の数ほどあるアプリから、必要としているものを見つけだすのは至難の業です。そこで、私たちが一つひとつのアプリを実際に使ってみて評価し、アプリと使用する人のマッチングを促進しよう、ということで評価活動を始めたのです。これまでに、1万種以上のアプリを評価してきました。
編:今も評価は続けているのですか?
岡:評価活動そのものは、東大の研究センターの事業なので、今は携わっていません。ただ、当時の反省を踏まえて、これからは“アプリの使い方”を提案していきたいと考えています。たとえば、この“タイマーアプリ”(写真下)は、設定した時間になると振動とアラーム音で知らせるという単純なアプリですが、発達障がいがある人などへの時間の理解を助けるのに役立ちます。講演会や私のWebサイトなどで紹介したところ、たくさんの人が使ってくださったのですが、使用後に「あまり役に立たなかった」という声もいただきました。原因を探ったところ、子どもがテレビを見る時間を制限するために使ったなど、多くが“我慢”を強要するネガティブな考えで使われていたことがわかりました。その結果、本当にこのアプリを必要とするであろう人に使ってもらえなかったようです。これからは、“楽しいことへの待ち時間”を表現するアプリとして提案するなどして、使えるアプリが正しく普及するように努めていきたいと考えています。

円の面積の減少によって残り時間を「見える化」できるタイマーアプリ タイマーアプリを操作する岡先生。緑色の扇形が減っていく様子で時間の経過がわかる
(左)円の面積の減少によって残り時間を「見える化」できるタイマーアプリ
(右)タイマーアプリを操作する岡先生。緑色の扇形が減っていく様子で時間の経過がわかる
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編:ところで、どんなアプリが、いいアプリなのでしょう?
岡:私が考えるのは“誰もが使いやすい汎用性の高いもの”ですね。障がいのある人向けに開発されたものも良いのですが、広く一般に使いやすいものが重宝するようです。
そういうアプリを自分なりに集めてカスタマイズすれば、オーダーメードの支援につながっていくのではないか、と思うのです。スマートフォンのスタート画面には、自分の使いやすいアプリが並んでいて、人それぞれにカスタマイズされているでしょう。あんな感覚でその人その人にフィットしたものを集めることで支援ができたらいいな、と思っています。そういう意味でも、ICTは支援のオーダーメード化に寄与してくれるのではないか、と期待しています。

障がいとは、個人にあるものではなく、
個人と環境との相互作用によって作られるもの

編:これからの発達障がい者支援に関して、必要なものは何だとお考えですか?
岡:“環境を変えれば障がいを減らせるのではないか”ということです。それには、いかに代替手段を見つけるか、ということが大切になってきます。よくある支援策は、視覚や聴覚、四肢など障がいの機能種別を基に行われています。“書けない人”には“書く訓練”、“計算できない人”には“計算する訓練”が実施されているのです。一概には言えないかもしれませんが、“計算できない人”に“筆算の訓練”を徹底するよりも“計算機の使い方”を身につけてもらうことのほうが効果を発揮することもあります。時には“答えの出し方”よりも“答えそのもの”が必要な場合もあると思います。だから、私は、障がいのある人の“困り感”に基づいた支援が大切だと考えています。先にも述べた“手段ではなく目的を重視した支援”ということです。目的を達成できるような代替手段を探し出すことで、障がいのある人たちの生活の質を向上させることができると信じて、現在も研究活動をしています。
“障がいとは、個人が持っているものではなく、個人と環境との相互作用によって作られるもの”という考え方があります。すべての障がいに当てはまるとは思いませんが、環境によって障がいが作り出されていることも否めません。TwitterやアプリのようなICTの恩恵を大いに活用して、生活環境を変えれば、かなりの実質的な障がいを減らせるのではないでしょうか。障がいが障がいでなくなるように、これからも研究活動を続けていきたいと思います。
編:これからも、社会の役に立つような研究を続けてください。
岡:私のモットーは、“新しい研究は、しんどく、面倒くさい現場の混沌の中から生まれる”です。これからも現場に身を置いて研究を進めていきたいと考えています。そこから、障がいのある人にとって、本当に役に立つ研究が生まれ、成果を出すことができると信じているからです。
編:お忙しい中、時間をいただきましてありがとうございます。
岡:こちらこそ、ありがとうございました。

「これからも現場主義で研究を続けます」
「これからも現場主義で研究を続けます」
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-編集後記-

岡氏のお話を伺っているうち、知人のダンサーを思い浮かべていました。彼は学生時代にその才能を見込まれ、ある有名なバレエ団のオーディションを受けられることになっていましたが、オーディション前夜、交通事故に遭い、片足の膝から下を失いました。ダンサーの夢は消え、やさぐれていた中、宅配便のアルバイトを始めました。片足義足の彼です。数日後、役に立たないと解雇されてしまいました。悔し涙が止まらなかったそうです。次に彼は、テレフォンアポインターの仕事に就きました。働きだしてしばらくして気がついたそうです。「テレフォンアポインターをしているときは、義足かどうかは関係ない。障がいのあるなしは関係ない」と。彼は、「環境によって障がいのあるなしが変わる」ということを悟ったのです。今では、彼は有名なダンサーとして活躍しています。それも片足の人にしか踊れないような演目を携えて。
“障がいとは、個人と環境の相互作用によって作られるもの”
心に深く刻んでおきたい言葉だと思いました。
岡 耕平-プロフィール-
岡 耕平(OKA, Kohei)
博士(人間科学)
滋慶医療科学大学院大学医療管理学研究科 講師
 
[略歴]
1978年大阪生まれ
2007年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程を単位取得退学
2009年博士(人間科学)2006年より日本学術振興会特別研究員
2007年から2011年まで東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野特任助教
2011年より滋慶医療科学大学院大学助教
2013年より同大学講師
知的障がいのある人のガイドヘルパー、小規模作業所での作業支援、職場内での就労支援コーディネートの経験をもとに、障がいや病気で困難をかかえた人の生活・学習・就労を支援するための、テクノロジーの活用や環境調整による具体的な支援方法とその効果について研究。
 
[受賞歴]
2005年日本認知心理学会優秀発表賞
2007年関西心理学会研究奨励賞
2011年日本職業リハビリテーション学会奨励賞
2013年ヒューマンインタフェース学会研究会賞受賞
 
[資格]
福祉情報技術コーディネーター1級
 
ホームページ:http://okakohei.com/
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