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対話しながらアートを体感 ミュージアム・アクセス・ビュー インタビューレポート

目の見える人も見えない人も対話しながらアートを体感する……今回は、新しいかたちの美術鑑賞ツアーを実施している市民団体「ミュージアム・アクセス・ビュー」の活動をご紹介します。

設立メンバーの光島貴之さん(左)と鈴木智子さん(右)

美術鑑賞といえば、敷居の高い印象をお持ちの方も多いと思います。静かに、立ち止まらずに上品に鑑賞しなければならない……そんなかしこまった鑑賞スタイルが定着していて、素直に作品と向き合うことができない雰囲気が作り出されているからなのでしょうか。
ことに、目の見えない人や見えにくい人にとっては、美術鑑賞は、別世界のことになりがちです。アートや絵画に興味を持っていらっしゃる人でも、「見えないから……」という理由であきらめている方も多いと聞きます。
そんな状況の中、会話を通して、目の見えない人や見えにくい人、見える人に新しいアート鑑賞の機会を作ろうと奮闘している人たちがいます。それが、京都を拠点に活動している市民団体「ミュージアム・アクセス・ビュー」。作品の構図や描写、受けた印象、感じたことなどを話し合って、作品から伝えられるメッセージを探り、鑑賞を深め、お互いの「見え方」「感じ方」の違いを発見し共有しようというグループです。
今回は、「ミュージアム・アクセス・ビュー」の活動を支えてきた設立メンバーである光島貴之さんと鈴木智子さんに、グループの活動についてあれこれお伺いしました。

対話しながらアートを体感する新しいかたちの美術鑑賞ツアー

山口華揚『白露』の前での鑑賞の様子

「ひとつの茎に枯れて首を垂れた大きな花と、後ろのほうで咲き残る小さめの花がある」
「生命の進退を感じさせるような感じなのかな?」
「バックはどんな色合い? 」
「1色ではなくて、いろんな色合いが入り混じった感じ」
「説明を聞いていると、主役だった大輪のひまわりが枯れ、脇役の小さな花だけが咲いてるというところに、何か寂しさを感じるなあ……」

2012年11月18日、京都国立近代美術館の「コレクション・ギャラリー」でのこと。このとき企画展が開催されていた山口華楊の『白露』という絵画作品を前にして、目の見えない人を含めた数人のグループがこんな会話を楽しんでいました。美術館ではあまり目にすることのない、おしゃべりを楽しむ鑑賞スタイルでした。
これは、ミュージアム・アクセス・ビュー(以下、ビュー)が開催した「第33回美術鑑賞ツアー」での一コマ。目の見えない人・見えにくい人5名と見える人17名が参加して実施されました。
ビューが行っている美術鑑賞ツアーは、これまでのひとりで静かに鑑賞するのとは違う、障がいの有無や職業、年齢、性別などに関係なくおしゃべりを楽しみながら作品を見るというもの。といっても難しい解釈や説明は必要ありません。作品から受けた印象や感じたことを気軽に語り合い、鑑賞を楽しもうということを主旨にしています。

鍼灸師でもあるアート作家の光島さん

「基本的には、目の見えない人・見えにくい人1人と見える人2人の計3人で1グループを組んでもらうことが多いですね。僕の理想としては、目の見える人が理論的に考える人と感覚で捉える人との組み合わせになると、鑑賞がより深いものになると考えています」と光島さん。
一言で“目が見えない・見えにくい”と言っても、中途失明の人、生まれながらに見えない人、完全失明の人、弱視の人、色弱の人……様々な人がいます。だから、ツアーでは必ず障がいの程度を確認してから鑑賞を始めるそうです。中途失明の人や弱視の人と生まれながらに目の見えない人では、イメージの持ち方に違いがあるからです。
「意外と具象画より抽象画の方が皆の会話が弾むんですよ。具象画だと構図や描写の説明に終始してしまいがちになりますが、抽象画なら、受けた印象や感じたことで、どんどん会話が広がり深まっていくんですね。作品が発信しているメッセージの本質や内包しているストーリーをより具体的に体感できることも多いのです。ときには音楽が聴こえることもあるようです」と鈴木さん。

子どもの絵画教室を主宰する鈴木さん

始まりは2001年に開催された
「ひと・アート・まち エイブル・アート近畿2001」

2001年11月3日、京都芸術センターで画期的なイベントが開催されました。「ひと・アート・まち エイブル・アート近畿2001」と名付けられたそのイベントは、障がいのある人たちの中で、魅力ある芸術活動をしている作家たちの作品を集めた展覧会。アートをより日常に近づけようと、街なかの空き町家や廃校、ギャラリーなどを会場にして、人とまちをアートでつなぐというコンセプトを持って実施されました。光島さんは、このイベントで作品を展示した作家のひとりでした。
「僕は10歳くらいのときに完全失明しました。それまでは弱視でぼんやりと見えている感じでしたね。幼いころからアートには興味があって、1995年、鍼灸師をしながらアート活動を始めました。カッティングシートや製図用のラインテープを使った平面作品を創り始めたのです」と光島さん。
「創作と同時に鑑賞にも関心があって、目の見えない人を対象にした鑑賞ツアーに参加するために名古屋や東京に出かけていました。そんな中、2001年に、エイブル・アート展を企画していた『たんぽぽの家』の阿部こずえさんから“目の見えない人を対象にした鑑賞ツアーをしませんか”とお声がけしていただいたんです。僕も以前からやってみたいことだったので、引き受けることにしました」
参加した人たちに本当に満足してもらえるのか……鑑賞ツアーの体験はあったものの主催経験のない光島さんは、不安でいっぱいだったそうです。しかし、結果は成功でした。「作品の前に立ち、説明を聞いたり、対話したりするライブ感がたまらない」といった声がたくさん寄せられ、視覚障がいのある人たちと美術鑑賞することの楽しさや意義は、実際にやってみないと決してわからない、ということを実感したそうです。
そして、ここから阿部さんを軸に、光島さんや、先のイベントで鑑賞ツアーに関心を持った鈴木さんたちによるビューの活動が始まりました。歳月は積み重ねられ、12年経った今も、ビューは、ますます充実した活動を展開しています。それぞれが自分のペースに合わせて活動できるよう、事務所は設けず、メールやWebサイトを中心に活動していることも、無理なく継続できる理由のひとつかもしれません。

自らの作品を使って、ギャラリートークをする光島さん

もっと自由にあるがままに。これまでにない鑑賞スタイルを追求

ビューでは、鑑賞において“4つの「しない」ルール”が定められています。

1.静かに鑑賞しない:おしゃべりしながら作品鑑賞を楽しみましょう。

2.見える人は一方的な説明をしない:自分の声や相手の声、作品の声を「聞く」ことも忘れずに。

3.目の見えない人・見えにくい人は、聞き役に専念しない:どんどん困らせる質問をしましょう。

4.すべて分かり合おうとはしない:人間、すべてを分かり合うのは不可能です。それより気軽に鑑賞しましょう。

思いがけないところへ会話が飛んで行ったり、発展したり、脱線することで、新たな発見や忘れていた感情を思い出すことができるという思いを込めた取り決めです。この4つのルールのおかげで、ビューの鑑賞ツアーは、より自由にあるがままに、内にこもらず外につながる、皆で個々の感性の違いを共有するという新しいスタイルを作り出すことができました。

「奈良県障害者芸術祭HAPPY SPOT NARA2012-2013」でのおしゃべり鑑賞ツアーの様子

「ここに落ち着くのに3年ほどの歳月を要しました。最初のころは、目の前にある作品をいかに目の見えない人に忠実にイメージしてもらえるか、ということばかりに関心が向いていたんです。構図ばかりに気を取られたり、研究者や学芸員が話すような説明にこだわったり……。絵画には“正しい見方”があって、“ひとつの答えを見つけなければならない”“作者の意図を理解しなければならない” と思い込んでいたんでしょうね。それが経験を重ねるうちに“何でも感じたままを話していいんだ”“絵にはいろんな答えがあっていいんだ”と、いい意味で開き直れるようになったんです。そこから、今のスタイルが生まれてきたんですね」と語る光島さん。
鈴木さんも光島さんと同じ思いを胸に刻んでいます。
「同じ絵を見ていても、人それぞれ頭の中にイメージしているものは違うはずなんですね。一言“赤”といっても“夕焼けの赤”を思い浮かべる人もいれば“トマトの赤”の人もいます。中には“くちびるの赤”とか“鳥居の赤”という人もいるでしょう。印象も同じで、“寂しい”というのをひとつのイメージで固定することはできません。これらのギャップをいかに受容して認識するか、が大切だと思うんです。それぞれの違いを認め合って共有する……そんな思いを大切にして、鑑賞ツアーを続けてきました。それが、現在の自由であるがままのスタイルにつながっているんだと思います」

「お絵かきワークショップ」「触図」「言葉によるアクセスマップ」……
鑑賞をサポートする様々な取り組み

ビューでは、年4回ほど開催する鑑賞ツアーに加え、お絵かきワークショップを年に2~3回実施しています。コンセプトは、“見えなくなるまでは描くのが好きだったという人、これまで絵を描く機会がなかったという人など視覚障がいのある人たちに、気軽に絵を描くことを楽しんでもらいたい”というもの。“絵にチャレンジすることで、美術鑑賞をさらに深めてもらいたい”という思いも込められています。具体的には、目の見えない人と見える人がペアを組み、自分の使いたい画材を選び、使いたい色で、描きたい絵を一緒に作っていきます。初期のころは、目の見える人が見えない人をサポートするようなスタイルでしたが、今はコラボレーションして作品づくりをするスタイルになってきているそうです。また、画材もカッティングシートやラインテープなどの触感のあるものから絵具やインクなど触感をともなわないものへと広がってきているといいます。

立体コピーに触れ鑑賞する様子 点図
立体コピーに触れ鑑賞する様子(左)と点図(右)
*クリックすると大きな画像が開きます。

また、鑑賞ツアーをサポートするさまざまな触図作りにも取り組んでいます。触図とは、手指などで触ってわかる図や絵のことで、その作成方法のひとつに、立体コピーがあります。発泡インクを活用したものなのですが、熱を加えることで発泡インクが盛り上がり、鑑賞する作品の大まかなレイアウトをコピーすれば、構図を指先で感じとることができます。また、点図と呼ばれる点字プリンターを活用したシートが作られることもあります。こちらは、点字翻訳家の方がボランティアで協力されているのですが、点字を使って作品の大まかな構図を再現するもの。立体コピーと同様に触れることで、作品の概要を捉えることができます。
これらの触図はデータ化され、ストックされています。「まだまだ認知度が低いので、他のグループへの貸与などの活用がなされていないのが残念」と光島さんと鈴木さん。今後は、いろいろな機会に触図のことを発信して、より多くの人に利用してもらえるよう努めていくそうです。
さらにビューでは、Webサイトで「言葉によるアクセスマップ」というコーナーを展開しています。これは、京都近辺の美術館等への最寄駅からの経路を言葉で表したもので、視覚に障がいのある人がひとりで鑑賞ツアー会場に向かうときや、見える人が見えない人に順路を説明するときに活躍しています。これも、美術鑑賞に興味のある方がより気軽に参加できる配慮のひとつです。

見えない人が見える人のメガネになる。
障がいのあるなしに関わらないアート活動を

美術鑑賞は、「ただ絵を見る」ということではありません。作品に込められたメッセージやストーリーを自分の心の中に取り込んで咀嚼し、自分の考え方や人生に投影すること、つまり「絵を観る」ということであるはずです。そういう意味において、障がいのあるなしに関わらず、美術鑑賞は誰もが楽しめる行為であり、もっともっと敷居を下げなければならないもののはずです。
「あるスタッフが言った言葉なのですが“見えない人が見える人のメガネになる”のが鑑賞ツアーだと。見える人が見えない人に絵を説明することを通じて、見えるばかりに“見えなかったこと”を見えない人に気づかせてもらえる……そんなことができるのが、この鑑賞ツアーなんですよ。これは、お互いの違いを認め受け入れる、その違いから作品の本質を発見するという、本来あるべき美術鑑賞のスタイルなんじゃないでしょうか」と光島さん。
「ツアーに参加される“見える人たち”は、“助けている”という意識は薄いんですよ。どちらかというと“自分のためにしていることが、目の見えない人の役に立っている”という感覚なんですね。そこには、“してあげる・もらう”の関係ではない、本来あるべきボランティアの姿があると思います」と鈴木さんは笑顔で話されていました。

これからの目標は美術館との関係の深耕、より気軽なツアー企画

おふたりのビューに関する近未来の夢は「もっと美術館と二人三脚で活動していくこと」。現在は、ビュー主体の企画がほとんどなのですが、これからは美術館主体の鑑賞ツアーの企画づくりにも取り組んでいきたいのだそうです。
「正直なところ、まだまだ美術館の敷居は高い、と言わざるを得ません。僕たちもいろいろと美術館の担当の方にプレゼンテーションや相談を持ちかけているのですが、まだまだ思うように実現していません。人気の展覧会ではNGが出たり、土曜・日曜や祝日などの鑑賞者が多い日は避けてほしい、とか。このように、鑑賞ツアーにOKが出るのは運の良い方で、断られることもあります。担当者レベルでは理解してもらえるのに上のほうに上っていく中でダメになることもたくさんあります。鑑賞ツアーだけでなく、お絵かきワークショップなども美術館で実施する方が良いと思うのですが、まだまだハードルが高いのが実情です。時間はかかるでしょうが、これからは美術館の理解が進むように地道に活動していきたいですね」と光島さんは抱負を語ります。また、もっと気軽に行ける鑑賞ツアーを企画していきたいとも。
「今の鑑賞ツアーは、何カ月も前から募集を行って実施しています。規模も30人程度。なかなか大がかりなイベントになっています。これからは、数日前に呼びかけて、10人以内のグループで行けるような気軽なツアーも実施していきたいと考えています。たとえば、目の見えない人が、“この展覧会に行きたいのだけれど、誰か一緒に行ってもらえませんか”と呼びかけたら、目の見える人がそれに応えて一緒に出かけていくような……。このようなシステムができると鑑賞の幅がとても広がると思うのです。フェイスブックやツィッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を活用して実現できないものか、と考えています」
ただ、フェイスブックはレイアウトなどが逐次変更されるので、目の見えない人にとっては、使いづらいSNSなのだそうです。レイアウトが頻繁に変更されると、読み上げソフトを使って閲覧する際に、どこを読み上げているのかを把握するのが大変なのです。しかし、そういうハードルを乗り越えて、プライベート鑑賞ツアーのような気軽なスタイルも確立していきたいと希望は膨らんでいます。
暗中模索から始まったビューの活動。しかし、今では、おふたりの前には、はっきりした光が見えているようです。子どもから高齢者、障がいのある人ない人、いろいろな人に鑑賞する機会をつくりたい。ワイワイ楽しく観ることで、美術鑑賞の敷居を下げたい。これらの思いを目標に、ビューの皆さんは、これからもアート活動の普及に努められていくことでしょう。

鈴木さん(右)主催の絵画教室「アトリエサジ」の前で笑顔のおふたり

-編集後記-

光島さんに「夢は見られますか?」と質問してみました。「もちろん見ますよ。色つきの夢を見ることもあります。多いのは、雰囲気を感じる夢ですが」とのお答えをいただきました。
「見える」とはどういうことなんだろうという思いがあったので聞いてみたのです。私たちは、「目で見た」ものを「見る」と思っていますが、夢は目を閉じているときに見るものです。決して視力を頼りにしているのではありません。そう考えると、視力云々を超えて「イメージを見る」ことも可能なのではないか、とも考えられるような気がします。
視覚に障がいがあるから、といってアートをあきらめることはない。「感じること」「思うこと」で十分にアートは楽しめる。そんなことを実感した取材でした。
ミュージアム・アクセス・ビュー
-プロフィール-
ミュージアム・アクセス・ビュー
 
京都を中心に活動する市民団体。
目の見えない人、見えにくい人を含む、約8~10名のスタッフで運営。
事務所は持たず、おもにメールやWebサイトで情報提供を行う。
登録者数は、見えない人・見えにくい人約40名、見える人約70名。
 
代表者:阿部 こずえ(あべ こずえ)
TEL:080-5352-7005(受信専用ですので伝言を残してください)
URL:http://www.nextftp.com/museum-access-view/
E-mail:museum_access_view@yahoo.co.jp
 
[活動略歴]
2001年 「ひと・アート・まち エイブル・アート近畿2001」アートプロジェクトの
      「2人で見て楽しむ美術鑑賞会」というワークショップをきっかけに活動開始
2002年 7月正式発足。以後、言葉による「鑑賞ツアー」を年4、5回実施
2003年 鑑賞を深めるために「お絵かきワークショップ」の開催。以後、年2、3回実施
      「ミュージアムアクセスグループ全国会議」/世田谷美術館
2006年 「アートリンク・プロジェクト」に白井×アマカワペアがコーディネイターとして参加
2007年 「アートリンク 日米フォーラム」/京都国立近代美術館
※詳しくは上記URL内の活動履歴をご覧ください。
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