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スマートひかりタウン熊本 地域防災インタビューレポート

ゆるキャラ「くまモン」が大人気の熊本で、観光や高齢者の健康づくりなど様々な分野でICTを活用し注目を集めている『スマートひかりタウン熊本』プロジェクト。中でも、地域防災分野での新たな取り組み「住民参加型ハザードマップ」作成トライアルについて、その詳細をレポートします。

熊本駅

ゆるキャラ「くまモン」が大人気の熊本。2011年には九州新幹線が全線開業、2012年には熊本市が政令指定都市へ移行するなど、とても活気があります。そんな熊本が今、観光や経済だけでなく、防災分野でも全国的な注目を集めていることは、ご存じでしょうか? 地域住民が自分たちの手で危険個所や避難経路などを調査し作成するハザードマップ(※1)に最先端のICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)を活用する「住民参加型ハザードマップ」(※2)が、特徴的な取り組みとして実施されています。
この取り組みは、NTT西日本が、熊本県、熊本市と三者共同で進めるICT分野での協力『スマートひかりタウン熊本』プロジェクトと呼ばれるトライアル(実証実験)のひとつ。未来も、ずっと住み続けたい熊本として魅力を高めるために、企業と行政がコラボレーションして、地域社会の活性化と住民サービスを高めるのがプロジェクトの狙いです。何かとホットな熊本を、地域防災の視点、災害時に要援護者となりうる障がい者や高齢者の視点からレポートします。
※1:ハザードマップとは、自然災害(洪水、土砂災害、地震、火山、津波など)による被害を予測し、その被害範囲や避難場所などの情報を地図上に示したものです。
※2:「住民参加型ハザードマップ」は NTT西日本のトライアル名称であり、熊本市では「地域版ハザードマップ」を正式名称としています。

ICTで魅力あふれる“まち”に。『スマートひかりタウン熊本』プロジェクト

ホームと車両の段差がない市電の新型車両 熊本駅に設置されたデジタルサイネージ
ホームと車両の段差がない市電の新型車両 熊本駅に設置されたデジタルサイネージ
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県外からの陸路の玄関口であるJR熊本駅。新幹線の開業に合わせて改装され、市電(トラム)とバスターミナルが、駅前広場で直結しています。その市電の電停(停留所)で、ひときわ目を引くのは、文字が鮮明でとても読みやすい「デジタルサイネージ(電子掲示板)」。時刻表、路線図、観光案内などが表示されています。ホームと車両の段差がゼロのノンステップ車両かどうかの表示もあり、車いすやベビーカー、杖の人などにとって大切な情報も提供されています。外国人観光客への対応として、英語表記も。また、全運行車両に搭載されているGPS(Global Positioning System/全地球測位システム)端末により、次に来る車両の現在位置や行き先、到着予定時間などをほぼリアルタイムで表示したり、同じ情報をスマートフォンなどの携帯端末でも確認できます。「スマートステーション」と呼ばれるこの取り組みも、『スマートひかりタウン熊本』プロジェクトのひとつです。

そんな“スマート”なステーション、熊本駅前から市電に乗って約10分、熊本市の中心部にあるのが、NTT西日本熊本支店の「スマートひかりスクウェアくまもと」と呼ばれるショールーム。こちらは、『スマートひかりタウン熊本』プロジェクトで展開されている様々な取り組みの紹介や導入技術の体験、最新のICT技術等を展示するスペースです。そのほかにも、熊本県内の観光情報やイベント情報の発信、地域イベント等で活用できるコミュニティゾーン(多目的スペース)もあり、“地域の交流拠点”としても機能しています。もちろん入場無料でどなたでも入ることができるこちらのショールームで、NTT西日本熊本支店のご担当者に、『スマートひかりタウン熊本』プロジェクトについて、お話を伺いました。

「スマートひかりスクウェアくまもと」1階入り口

NTT西日本熊本支店 スマートひかりタウン推進室の山本さん(右)、同支店 ビジネス営業部SE部門の富田さん(左)ドリームアーク編集部(以下編集部):『スマートひかりタウン熊本』プロジェクトとはなんですか。
スマートひかりタウン推進室 山本さん(以下山本さん):一言でいうと、熊本県・熊本市・NTT西日本3者による、“ICTを活用した地域活性化への取り組み”です。
具体的には、GIS(Geographic Information Systems/地理情報システム)を中心として、自治体が保有する情報や住民が発信する口コミ情報などのデータを、タウン型クラウド(インターネット上の情報蓄積基盤)に収集・蓄積、そこで得られた大量のデータを有用な形で組み合わせて、まちづくりに活用することをめざしています。
これまで熊本では、情報政策面での様々な取り組みにより、インフラ面での基盤整備はかなり進んでいましたが、そのインフラ上でどのようなサービスを提供するべきかという、ソフト面での課題がありました。しかしながら、この分野は専門的な技術・知識が必要であり、またそれらも日進月歩で進んでいきます。そこで、ICTを専門とするNTT西日本が、技術力とネットワークを活かし、行政と連携することで、地域の問題解決や新しい住民サービスを生み出せるのではないかと考えました。折しも熊本は、新幹線開業、政令指定都市移行というタイミングに重なり、新しいことに取り組もうという機運もありました。
2012年2月に3者による包括連携協定(※3)を締結して以降、現在までに、トライアルという形で様々な新しい取り組みを行っています。いずれサービス化する際は、実際に課金をして事業を行ううえで、利用者の要望、使いやすいシステム、適正なコストなどのバランスの見極めが必要になってくるでしょう。
※3:「ICTの利活用による地域活性化等に関する包括連携協定」の締結について(NTT西日本ニュースリリース)
http://www.ntt-west.co.jp/news/1202/120214a.html

編集部:具体的にはどのような取り組みをされていますか。
山本さん:『スマートひかりタウン熊本』プロジェクトでは、防災・教育・交通・観光・エネルギー・農業・医療福祉・介護育児の8つの分野があり、各分野において様々なトライアルを行っています。熊本県情報企画課、熊本市情報政策課をそれぞれの窓口に、3者が定期的に集まって会議をしています。トライアルの期間は3年間と設定し、それぞれの効果や問題点等も含め、検証しています。
現在までに実施しているトライアルには、以下のものがあります。


<防災分野>
住民参加型ハザードマップ「住民参加型ハザードマップ」。地域の危険箇所等を、タッチパネルの簡単な操作でデジタル上の地図に登録。地域住民が中心となって防災マップを作成します。(詳細は後述)
<教育分野>
(左)スマート江津湖たんけん隊 (右)ネットパトロール「スマート江津湖たんけん隊」。Wi-Fi・地図情報と連携したクラウド型学習ツールです。子どもが、スマートフォン等のカメラ機能で景色をのぞくと、位置情報と連動して学習コンテンツが表示されるもので、撮影した動植物の写真を地図上に表示したり、それらの情報を図鑑として蓄積することもできます。
もうひとつ、「ネットパトロール」は、インターネット上に書き込まれた「いじめ」「問題行動」等の情報を自動収集し、学校へメール通知を行うサービス。現状把握、生徒への指導、職員間の情報共有などに役立て、トラブルの早期発見、防止をめざします。
<交通分野>
(左)スマートステーション (右)スマートエアポート「スマートステーション」と「スマートエアポート」。(冒頭で紹介した)熊本駅のデジタルサイネージや、情報端末での、市電、市内周遊バス(しろめぐりん)の運航情報を提供しています。また、阿蘇くまもと空港、最寄りのJR肥後大津駅でも同様にデジタルサイネージを設置し、各種バスの出発時刻や主要バス停への到着時刻、バスから電車への乗り換え情報や航空機の運行情報、観光イベント情報等を提供し、目的地への移動をスムーズにできるようにしています。
<観光分野>
(左)おどるんだモン (右)くまロケ「おどるんだモン」。熊本とくまモンの魅力を伝える“くまモンスクエア”にて、テレビで流れるダンス映像をアプリの入ったタブレットを通して見ると、くまモンなどのCGが登場して踊ってくれます。本物のくまモンに会えなくても、ここへ来ればバーチャル技術を通して会える。観光客の皆さんに喜んでもらう工夫のひとつです。
そしてもうひとつ、“くまモンがお知らせする、旬なくまもとロケーション情報”、略して「くまロケ」です。Wi-Fiによる位置情報を活用したスマートフォン向けアプリで、観光地内のWi-Fiエリアに利用者がいることを検知すると、アプリからのお知らせ通知や、エリア限定情報の表示、エリアへの訪問回数による特典の提供などをするものです。
<エネルギー分野>
家庭内エネルギー見える化と家電制御「家庭内エネルギー見える化と家電制御」。熊本市内在住の省エネや節電に関心の高い約50世帯を対象に、電力消費量を可視化する技術と、家電機器の遠隔制御の実用性を検証しています。市民のエネルギーへの関心を誘引することで、省エネ意識の向上が期待されます。
<医療福祉分野>
高齢者の健康づくり、見守り・生活支援「高齢者の健康づくり、見守り・生活支援」。コミュニティセンター等で開催される「運動講習会」での、体組成計や血圧計等を活用した健康管理、“ひかりテレビ”や“ひかり電話”を活用した見守り、相談や生活支援サービスなどがあります。

さらに、現在検討中の新しい取り組みとしては、「“光BOX(※4)を活用した介護予防サービストライアル」(※5)があります。高齢者や障がい者など、パソコンを使えない人でも、リモコンを使って操作が可能。テレビを見る感覚で、行政や健康維持に関する情報を入手できたり、日々の健康状態を送信したり、リハビリや体操などを行うものです。外部からは、テレビを使ったかどうかで、ゆるやかな見守りができるようになっています。また、緊急時の避難サイレンにも対応しています。
また、農業分野においても、ICTを活用してよりよいサービスが提供できないか、今後、順次検討を進めていきます。
※4:NTT西日本が販売する、テレビのような操作感でネット上のあふれる動画コンテンツを気軽に楽しめる機器。
※5:取材日時点。2013年11月26日より、新たなトライアルとして実証実験を開始しています。

編集部:どれも斬新で興味深いトライアルですね。ドリームアークとしては特に「“光BOX”を活用した介護予防サービス」が気になります。サービス化される際には、ぜひまた取材させていただきたいです。

地域防災分野における「住民参加型ハザードマップ」とは

編集部:多岐にわたるトライアルの中でも、全国でも珍しい取り組みとなる、ICTを活用した「住民参加型ハザードマップ」作成トライアルについて、詳しく教えてください。
ビジネス営業部SE部門 富田さん(以下富田さん):「住民参加型ハザードマップ」とは、地域住民が、自分の住む町を実際に歩いて調査し、危険箇所を書き込んだ、災害時に迅速に避難できるよう必要な情報を盛り込んだ地図のことです。過去に起こった災害情報、地元住民だからわかる危険箇所、避難場所までの経路、注意すべきことなどを、自分たちの手でマップに記すものです。災害を自分自身の問題と捉え、住民同士で地域の災害について学び、意識を高めることで、減災につながります。熊本市では、従来よりこのようなハザードマップを紙で作成する事業に取り組まれていました。その紙でのマップ作成作業部分にICTの利点を取り入れたのが、本トライアルの大きなポイントです。
編集部:具体的にはどのように「住民参加型ハザードマップ」を作成していくのですか。
富田さん:最初に、自治会の役員が集まり、企画会議を開きます。会議では、行政職員やアドバイザーが支援しながら、マップ作成のリーダー、マップの対象範囲、実施スケジュール等を決定し、参加者を募集します。
次に、勉強会・まち歩きを実施します。勉強会では、災害の基礎知識、過去の災害、マップの作り方を学びます。まち歩きをするグループ分けとルートを決定したら、実際にまち歩きをしながら、白地図に危険箇所や障害物、避難経路などを確認しながら書き込みます。その後、それぞれのグループで作成した手書きマップの結果をまとめ、危険箇所、避難ルート、災害時要援護者の確認、一時避難所の想定などの情報を共有します。
そしていよいよ、ICTを活用して、「住民参加型ハザードマップ」を作成していきます。

「住民参加型ハザードマップ」勉強会の様子 まち歩きしながら、危険個所をチェックしていく様子 白地図に書き込まれる地域情報
「住民参加型ハザードマップ」勉強会の様子 まち歩きしながら、危険個所をチェックしていく様子 白地図に書き込まれる地域情報
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マップ作成には、どこへでも持ち運べる可動式の電子黒板を使います。プロジェクターで投影された地図の上をタッチ操作するだけで簡単に書き込み作業が行え、パソコンをあまり使ったことのない人でもスムーズに操作できます。デジカメで撮影した画像や、特記事項などの文字入力も可能。この電子黒板に入力された情報は、クラウド上に保存されます。また、映し出された地図は、GISと連動しているため、地形や標高など必要な情報を選んで表示することもできます。
完成したマップは、内容に誤りがないか、どこまで記載するのかなどを確認・検討したのち、印刷して全地域住民に配布されます。これら一連の取り組み開始から完成までの期間は、およそ3~4カ月。デジタル化したことで、従来の紙による防災マップと比べ、修正、更新、加工への負担も大幅に少なくなり、データの2次利用なども容易になることが想像されます。また、現時点では公開されていませんが、将来的にはパソコンやスマートフォン等から場所を問わず閲覧することも可能になります。

プロジェクターで投影された電子黒板上の地図 タッチ操作で文字情報も簡単に入力 入力情報はクラウド上に保存され、マップに反映される
プロジェクターで投影された電子黒板上の地図 タッチ操作で文字情報も簡単に入力 入力情報はクラウド上に保存され、マップに反映される
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編集部:このトライアルについての、参加者、地域住民の皆さんの評判はいかがですか。
富田さん:良い反応をいただいています。電子黒板も高齢者でも使いやすいと好評です。また、できあがったマップも有益なのですが、“ハザードマップを作る過程で得るものがとても大きい”との評判です。このマップは、あくまで地域住民が自分たちの防災のために作るもの。行政やICTは単なるサポート役でしかありません。「住民参加型ハザードマップ」は、住民同士を結びつける良いツールになっているようです。

編集部:ありがとうございました。地域防災を初めとするICTを活用した様々な新しい取り組み、トライアルが順調に進み、今後より住みやすい“まち”となるよう応援しています。

「マップ作成の主役は、ICTでも行政でもなく地域住民の皆さんです」と話す富田さん

続いて、熊本市 危機管理防災総室 ご担当者にお話を伺いました

続いて、地域版ハザードマップ(※2参照)作成を推進する、熊本市 危機管理防災総室の梅田さんにお会いしました。

危機管理防災総室の置かれる熊本市役所

最初に、立体地図を使って、熊本市の災害の歴史について説明していただきました。「阿蘇山のカルデラから、ふたつの川が流れ込み、白川という名称のひとつの川となります。その白川には支流がなく、有明海まで一気に流れ込む。このため熊本市では、昔から水害に悩まされてきました。直近では、2012年7月に九州北部を襲った豪雨により河川が氾濫し、大きな被害を受けた地域もあります」。また、熊本市内で雨が降っていなくても、上流付近の阿蘇山で大雨が降り、それが一気に流れ込み、水位が上昇することもあるといいます。「いざ、災害が起こったときの被害を軽減するために、ハザードマップを作成するのです」

立体地図で熊本市の地形特性と災害について話す梅田さん

ハザードマップには、高低差があり水が溜まったりして現状危険な場所、災害時に避難するルート、避難場所などを表示します。「海に近いエリアでは、高潮の発生する場所も重要になります。有明海は干満の差が大きく、5メートルの差異があるため、満潮時に増水しても水が流れず甚大な被害になることも。同様に、台風のときの高潮も危険です。水につかる場所が実際にマップに記載されていると、危険箇所や避難ルートが非常にわかりやすくなります。過去の水害の歴史をマップに落とし込んで、学ぶことも重要なのです」。しかしながら、地域のつながりが薄くなっている現代、それまで地域で共有されてきた災害の知識が受け継がれなくなっているといいます。
ハザードマップには、大きく分けてふたつあります。ひとつは、行政によって地域の最大の被害について警告する、“公的”ハザードマップ。もうひとつは、崖崩れが起きそうな場所や大雨で水が溢れてくる場所等、地域固有の危険情報が書き込まれる、住民自身が作成する“地域版”ハザードマップです。
「災害を完全に防止することはできません。いかに被害を少なくするか、減災の考えが大切です。万が一、災害が起きたときに、まずは自分の身や家族を守ること(自助)、地域住民で助け合うこと(共助)が必要です。そして行政の支援(公助)となります。自分自身が住んでいる地域の置かれている状況をいかに理解するか、意識を高め、いざというときに適切な行動を取るために、地域版ハザードマップは大変重要です。その地域版ハザードマップ作成にあたりNTT西日本と取り組んでいるのが、『住民参加型ハザードマップ』作成トライアルなのです」。
さらに梅田さんは続けます。「地域版ハザードマップには、台風のとき、地震のとき、土砂崩れ、崖崩れが起きそうな場所、および落下や崩壊の危険性のある塀や家屋、構造物などを住民自らが“まち歩き”によって調査し、その結果が記載されます。ただし個人所有の土地や家屋の問題があるため、ストレートな表現は避け、やさしく表記するのが一般的です。最終的に、個別箇所の記載の有無の判断は各地域によります。空家問題も、所有者との兼ね合いもあるためマップ上での表記は難しいことも多いのですが、倒壊する可能性があるなど、少なくとも状況把握するキッカケになるのは間違いありません。急傾斜地域、土石流危険地域など、土砂災害の起きやすい場所も、言わないよりは、言ったほうが良いです。そして何より、住民の皆様が知る、過去の経験が最も貴重なマップ作りの材料となります」

ハザードマップを作成することで水害時の水の流れも予測可能に
ハザードマップを作成することで水害時の水の流れも予測可能に
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熊本市内には、全部で904の自治会があります。そのうち、実に247の自治会から地域版ハザードマップ作成に「参加したい!」との申請がありました。現在までに、ワークショップを開いたのは80余りの自治会で、その中から50の自治会をトライアル実施先として選定。最終的には、すべての自治会で地域版ハザードマップが作られることを目標として、随時、作業を進めているのだそうです。

地域版ハザードマップへの関心には地域差があるようで、関心が高いのは、やはり過去に災害のあった地域や自治会組織がしっかりしている地域だそう。地域版ハザードマップ作りに取り組んだ結果として、地域で自主防災組織が作られたという効果も見られ、地域防災について考える良いきっかけになっているようです。また、参加者の年齢層としては、自治会活動に熱心な方はもちろんのこと、子どもから若者、年配者まで、幅広い参加があるのが特徴です。世代を超えての調査やマップ作りは、その地域の活性化にもつながります。また、障がいのある方など災害時に要援護者となりうる方については、ご家族の参加はあるものの、ご本人の参加はまだないようです。今後、より多くの様々な層の住民の参加が増えれば、地域版ハザードマップは、地域にとってより有用なものになります。たとえば、車いすの方にとって、階段のないルートや傾斜が強い坂の場合は押すのが大変で手助けが必要なことも多く、ご本人の参加により、そういった箇所に「階段」「急傾斜の坂」「車いすや高齢者は注意!」などの記載がより実態に沿ってなされれば、参加するご本人はもちろん、多くの方にとって非常時の支援になるでしょう。

市が指定する避難場所は、住む場所によっては距離が遠いこともあります。そういった場合に備えて、地域での一時的な避難場所を特定することも必要です。ハザードマップに、避難するルートを目安として表記する自治会と、ルートには縛られないようにあえて書かない自治会、様々だといいます。地域住民が自分たちの手で作るハザードマップ。それをどんなものにするのかの判断は、それぞれの自治会に委ねられているのです。

調査については、すべて実際に歩いて見て回ります。高齢者や障がい者の方が安全に避難できるよう、避難所のバリアフリーチェックも重要です。「これまでの避難所のバリアフリーに関する不備などは、2012年の総点検で確認がされました。また、避難所の備蓄倉庫には5年保存の非常食があり、残り1年になったら交換します」。交換した食料品を捨てるのは勿体ないため、消防訓練などで非常食も消費しているのだそうです。

こうして完成したハザードマップは、印刷して、全地域住民に配布されます。民間アパート、賃貸マンション、学生の一人暮らしが多い地区などは、自治会参加率は一般的に低い傾向にあり、地域住民がすべて自治会のメンバーであるか、と言ったらそうではありません。しかしながら、防災・減災が目的であるこのハザードマップは、自治会に入っているいないにかかわらず、全住民に配布されているのです。「いずれはホームページ上で、誰もが見られるようにしたいと熊本市では考えていますが、クリアにしなければいけない問題(公表の是非、プライバシー、内容チェック)は多くあるため、慎重に検討を進めたいと思います」と梅田さんは話します。

地域版ハザードマップ作りを経て、地域が得たものとは

地域版ハザードマップ作成に取り組んだことで各自治会が得た一番大きな成果は、防災に対する見直しのきっかけになったことだと、梅田さんは言います。「一連の取り組みを経験することで、備えの意識が高まります。住民意識が世代を超えて強くなる。地域が活性化する。地域の防災力が上がることは間違いないでしょう。地域版ハザードマップは、できるなら、全部の自治会で作ってほしいと思っています。正直なところ大変な作業ですので、覚悟は必要ですが、とても良い、新しい形の行政と地域の有益なコミュニケーションツールになると思います」
また、こういった取り組みと同時に、障がいのある人、介護が必要な人、単独で避難することが困難な人への対応も協議されます。熊本市には「要援護者支援制度」というものがあります。これは、告知をして当事者が自分自身で登録する制度で、すでに8,276名が登録されているそうです。夜は家族がいて助けられるが、昼は誰もおらず避難できない人も含んでいます。いざという時の支援は、各地域のグループで対応します。安否確認、避難情報、地域での現状把握などは、民生委員から自治会長へと情報が伝わるシステムになっています。
このような災害時支援制度は、内閣府から示されているガイドラインや取組指針(※6)等に基づいて、熊本市だけでなく、全国の多くの地域で整備されています。お住まいの自治体の制度そのものをまずは知り、また要援護者として登録することでどのような支援が得られるのかをよく理解することは、防災・減災においてとても重要なことです。一人ひとり、また1日24時間、時間帯によっても状況は違います。家族が一緒にいない時間帯もあります。朝、昼、夜、平日、休日など、それぞれの状況に対しての避難や対応を想定しておくことが、命を守るうえで大切になります。その一助として、こういった支援制度を積極的に活用することも、大きな備えになるのです。
※6:『災害時要援護者の避難支援ガイドライン(改訂版)(平成18年3月)』について
   http://www.bousai.go.jp/taisaku/youengo/060328/index.html
   『避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針(平成25年8月)』
   http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/youengosya/h25/hinansien.html

「地域住民の“防災力の向上”のために、日ごろ最も重要なことは、防災意識を持ってもらうことです。一度は学んでおく、想定しておくことが大切です。一度でも想定して考えているのと、考えていないのとでは相当の差があります。自助、共助、公助と、順を追って対策を考えることも重要です。この地域版ハザードマップは、作ることが目的ではありません。防災に関して、興味を持ってもらう、意識を高めてもらうのが目的です。考えることが大切です。制作するマップは、紙でも、デジタルでも、どちらでも良いと思います。紙の場合は見やすい。デジタルは更新が容易であるなど、それぞれの利点があります。大切なのは、この取り組みを通じて地域の防災力を高めていただくことだと考えるようになりました」。梅田さんは、そうお話しくださいました。
それはきっと、地域版ハザードマップ作りに参加された多くの地域住民の皆さんそれぞれが、強く感じられたことなのではないでしょうか。

「大切なのは、取り組みを通じて地域の防災力を高めること」と語る梅田さん

-編集後記-

地域のつながりが希薄になっているといわれて久しい昨今。「住民参加型ハザードマップ」作成トライアルをはじめ多岐にわたる新しい取り組みを行う『スマートひかりタウン熊本』プロジェクトは、単なるICT実証実験の枠にとどまらず、防災力やコミュニケーション力など、地域の様々な“力”を強くするきかっけになっているようです。このプロジェクトが、障がい者・高齢者はもちろん、すべての住民にとって「これからもずっと住み続けたい“まち”」として熊本の魅力を高めているかどうかは、いうまでもありません。
スマートひかりタウン熊本
-プロフィール-
◆『スマートひかりタウン熊本』プロジェクト ホームページ
http://www.hikarikumamoto.jp/index.html

◆NTT西日本熊本支店「スマートひかりスクウェアくまもと」(入場無料)

・所在地:熊本市中央区桜町3-1 NTT西日本 熊本支店 桜町ビル1F
・開館時間:10:00~17:30(年末年始12/29~1/3を除く)
・問合せ先:NTT西日本熊本支店 スマートひかりスクウェアくまもと担当 0800-200-1592
       問合せ受付時間 10:00~17:00(年末年始12/29~1/3を除く)

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